「東電国有化」と核燃料サイクル断念に迫られる電力行政
原発事故という人災に莫大な請求訴訟
福島第一原発    〔PHOTO〕gettyimages

「原発は人災だ。早く保障を!」

 東京電力福島第一原発の事故を受け、福島県農協中央会が、3月22日に開いた緊急組合長会議で、組合長らからの悲痛な叫びが相次いだ。

 もはや県内8万戸の農家は、"壊滅"を覚悟している。連日、原乳やホウレンソウなど露地物野菜を破棄、風評被害は現実のものとなり、規制対象外のハウス野菜や畜肉などが、「福島県産」というだけで売れない。

 地震については「天災」と、諦めもつこう。だが、原発事故による「放射能汚染」は我慢ならない。「五重の防護体制が敷かれ、どんな不測の事態にも耐えられる」と、東電が繰り返していた「安全神話」は、高さ15メートルの津波で崩壊した。

 「想定外」は通用しない。「人災」である以上、東電には莫大な請求訴訟が起こされる。

 地元住民にとってもそうである。福島第一原発が立地する双葉町は、震災によって町が壊滅、役場ごと「さいたまスーパーアリーナ(さいたま市)」に疎開したが、たとえ原発事故が終息しても、高度の放射性物質は滞留、仮設住宅すら建てられない。

 農家の疎開住民は、テレビインタビューにこう答えていた。

「放射能が残っている間は帰れない。安全宣言が出たところで、コメを作っても、『双葉産』というだけで売れないだろう。もう、町を捨てるしかない・・・」

 その人災被害の補償も、東電に求められる。東電が、これまで双葉町にもたらした地域整備や公共工事、雇用などの"貢献"とは別問題である。

 加えて、ライフラインを担う東電は、電力確保の為に、当面、原発という"稼ぎ頭"を捨てて、火力発電所の復旧を急ぎ、他の手立てを考えねばならず、それに投下する資本も莫大である。

 災害補償に再建資金---。

 もはや一私企業の能力を超えており、国に頼るしかない。JAL(日本航空)と同じ国有化。東電は、3月22日、役員報酬のカットを発表したが、それで収まるほど甘くはない。すでに、英フィナンシャルタイムズは、3月21日の社説で「東電国有化は避けられない」と書いた。

 実は、国有化を最も恐れているのは、東電以外の関西電力、中部電力など他の電力会社である。東電も含めて、電力各社の持つ既得権益は日本最大といっていい。

 沖縄も含めて全国を10ブロックに分けて電力事業を独占、価格はコスト+適正利潤を維持、その安定性と豊富な資金で、地域経済界に君臨してきた。安定と名誉と報酬---。この三つを独占した権益が、東電国有化→電力行政の見直し→電力事業の一時国有化、という方向で失われることを、電力各社の経営陣は、危惧している。

経産省若手がつくった”怪文書”

 これまでの電力行政は、原発とともにあり、それは地域独占の豊富な資金が生みだしていた。

 端的な例が、核燃料サイクルである。

 原子力発電所で発電した後の使用済み燃料を、再処理、ウランとプルトニウムを回収して再び核燃料として使うという"夢"の技術である。高速増殖炉を利用する場合、希少価値のウランの利用効率を60倍に高めるという意味でも、高速化する核物質の制御が非常に難しいという意味でも"夢"だった。

 6年前、この"夢"の技術があまりに非現実的で、コストパフォーマンスが悪いということを知らしめる「19兆円の請求書 止まらない核燃料サイクル」という"怪文書"が出回ったことがある。

 ただ、正式な文書ではないという意味では"怪文書"だったが、異議を唱え、文書を作成したのは、核燃料サイクルに批判的な経産省の若手官僚らであり、ある意味、原力行政を内部告発するものだった。

 まず、総額19兆円といわれた再処理コストが、再処理工場の建設コストの3倍増という"実績"に照らせば50兆円となってもおかしくないというコスト面を批判。次に、高速増殖炉もんじゅが挫折すれば、MOX(ウランとプルトニウムの混合酸化物)燃料を利用するプルサーマル(軽水炉サイクル)計画を主役にするといった"ご都合主義"を指摘していた。

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