地震・原発・災害
原子力安全委員会「未公表マニュアル」を超えた福島原発の「想定外」
1100年ぶりの巨大津波がもたらした災厄
地震は予想していたが、巨大津波までは「想定外」だった。 【photo】getty images

 人知を超えた3月11日の東日本巨大地震---。マグニチュード9.0の同地震が引き起こした大津波に直撃された東京電力福島第一原子力発電所の1号機(46万kw)、2号機(78.4万kw)、3号機(同)、4号機(同)の被災状況は東京電力側の「想定外だった」という言い分(本音)に対して厳しい批判が集中している。

  『朝日新聞』(同16日付朝刊)が掲載した識者のコメントに、「原子力関係者として、『想定外だった』ということは決して言い訳にはならない」(大阪大学名誉教授=原子炉工学の宮崎慶次氏)、「『想定外』という言葉が、その想定が適切だったのかの判断も反省もなく使われている」(東京大学名誉教授=金属材料学の井野博満氏)とあった。

 だが、ここで東電が甚大な災禍に直面して、本当に「想定外」と言ってはいけないことなのか。今回の巨大地震と大津波は、その規模について、何と1100余年前の869年(貞観11年)、清和天皇時代に起きた三陸沖・貞観大地震に匹敵するものだという。『続日本後紀』にも「陸奥国地震・津波」の表記がある。

 東京大学地震研究所の佐竹健治教授によると、貞観大地震の津波の堆積物調査から、当時の海岸線から仙台平野まで数キロ、石巻で3キロ以上の津波が押し寄せたことが判明しているという。さらにその津波の高さも10メートルをはるかに超えた大津波だったというのだ。しかも、この津波の痕跡が発見されたのは僅か10年余前のことだったいうのだ。

 では、時代はずっと下って20世紀以降に限ってみると、発生した世界の地震で最大のものはマグニチュード9.5を記録した1960年の南米のチリ沖地震だ。この地震に伴う津波ははるか太平洋を越え、5~6メートルの高さでやはり岩手県大船渡市を中心とする三陸海岸に押し寄せ、多大な被害をもたらした。

 04年のインドネシア・スマトラ沖地震でも、タイ・プーケット島などインド洋沿岸のリゾート地を大津波が襲い、周辺各国の地域住民や海外からのや観光客を呑み、島がまるごと水没するなどで約16万人が死亡している。

 今回の三陸海岸を中心とする東日本大地震の規模は、スマトラ沖地震に匹敵する。看過できないのは津波による被害である。それはまさに、東電福島第一原発を直撃した「想定外」の被害である。同原発1号機の運転開始は71年3月、2号機74年7月、3号機76年3月、4号機78年10月。

 そして東電側が当初想定し得る「原発事故」の最悪シナリオは国際原子力機構(IAEA)規定レベル5乃至6の「重大事故」であり、それ以上の想定できないものは「仮想事故」とした。

 内閣府所管の原子力安全委員会は10年ほど前非公式に、仮にこの「重大事故」を超える事故が発生した時にどう対処すべきかのマニュアルを作成したという(未公表)。そこには、「(被災・破損した原子炉格納容器・圧力容器に)ひたすら放水する。そして冷却する」と記されているという。ところが、万が一のためのディーゼル発電機系統までが水没したほどの15メートル超の高い津波が襲来したのだ。

菅首相は「マイクロマネージメント」

 今回は、1号機から3号機の各原子炉が地震を感知して、いずれも自動停止し、未臨界となった。原子炉はフルパワーからの停止だったため膨大な残留熱を発生、これを冷却する必要があった。通常は安全装置が働き、原子炉を冷却することになるのだが、そのための冷却水を送るためのポンプ類を駆動する外部電源が完全に喪失したうえ頼みの非常用ディーゼル発電機まで動かなくなってしまったのだ。

 このように原子炉、格納容器を冷却することができなくなり、ひたすら水をかけて冷却することに傾注したのである。約40年前に原発を設計・建設するに当たって、1100余年前の貞観地震時の10メートル超津波再来を想定しておくべきだったというのであろうか。「想定外」はあり得るのだ。

 それよりもここで指摘すべきは、首相官邸の危機管理体制である。そして何よりも菅直人首相が「マイクロマネージメント」タイプの国家指導者であることだ。震災翌日の早朝、自衛隊ヘリを駆って上空から福島原発を視察、そして15日早朝には東電本社に自ら乗り込んだ。

 要は、自分の目で確認し、耳で直接聞かないと納得しないのだ。国家指導者が歴史的(長期的)見通しに欠けると国家100年の大計を誤る。一人の人物が二つの能力を併せ持つのは難しい。そこで昔から棲み分けが行われる。さらに、良き指導者には良き参謀がいて先行きを冷徹に見通す---。さて、不眠不休で孤軍奮闘する枝野幸男官房長官の評価は概ね高いのだが、我が首相は如何なものか。

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