地震・原発・災害
「巨大津波対策不足」から続く誤算が招いた原子力発電「安全神話の危機」
「燃料棒空焚き」の事態まで発生
福島第一原発〔PHOTO〕gettyimages

  東京電力の福島第1原子力発電所において、原子力発電の安全神話を根底から
覆しかねない事態が相次いでいる。

  まず、同発電所では、1号機と3号機が、観測史上最悪の東日本巨大地震に伴う
「想定外の津波」の直撃を受けて、冷却機能を失い、原子炉の心臓部が損なわれる炉心溶融(メルトダウン)を起こした。

 さらに、14日夜になって、東京電力は記者会見を開き、比較的安定しているとみ
られていた2号機で、一時的とはいえ、燃料棒がほぼ完全に露出し、原子炉に冷却水がない"空焚き状態"に陥っていたことも明らかにした。 

 すでに事態は、米国が30年以上にわたって原子力発電所の建設の凍結に追い込
まれた1979年のスリーマイル島原子力発電所事故に匹敵する深刻な状態にある。

 万難を排して、これ以上の事態の悪化を防がないと、日本で原子力発電を存続
させることすら困難な事態になりかねない。

 初めて日本で原子力エネルギーの安全性が大きく問われたのは、1974年に起き
た原子力船「むつ」の放射線漏れ事故だ。政府は、原子力や行政に対する不信を払しょくする狙いから、「原子力安全委員会」を設置した。

「原子力安全委員会」の主な使命は、電力会社を管轄する経済産業省の「原子力安全・保安院」の活動ぶりをチェックすることにある。「原子力安全・保安
院」が電力会社寄りになっていないか中立の立場から検証するために、経済産業
省と切り離し、内閣府に設置されている。

 その「原子力安全委員会」が2006年9月に阪神淡路 大震災の経験を踏まえてまとめたのが、現行の原子力発電所ガイドライン「耐震設計審査指針の改訂」(「新耐震指針」)だ。

 注目すべきは、新耐震指針が改訂にあたって重点を置いたポイントが、地震の揺れに対する強度の確保だった点である。活断層の上に発電所を建設するとどのような揺れが起きるか、あるいは、直下型の地震が起きた場 合はどのような強度が必要かなどについてはきめ細かく検証している。

  半面、新耐震指針は、今回のような巨大な津波への備えが手薄だ。これまで内外で原子力発電所を巡る様々なトラブルがあったとはいえ、今回のような津波が襲いかかった例は珍しく、それが盲点になっていた。

想定外だった燃料タンクの流出

 巨大津波への備えの乏しさは、今回の事故にも大きな影を落としている。

 地震発生時、福島第1原発の1、2、3号機ではそれぞれ、危機対応の第1歩である、核分裂を止める原子炉の「自動運転停止」には成功したものの、高温に達し再臨界を起こしかねない原子炉を「冷やす」ことに失敗して、炉心溶融を招いたと考えられている。

 専門家の間で、これらの冷却機能喪失の原因と指摘されているのが、これまでの想定を上回る今回の巨大津波である。具体的には、津波が非常用の発電設備の燃料である重油を入れたタンクを押し流したことが非常用の冷却機能の喪失に繋がったのではないかとされているのだ。

 ちなみに、炉心溶融は、国内の原発史上最悪のトラブルだ。米ペンシルバニア州のスリーマイル島事故は、作業員のミスなどが重なったことが原因。原子炉を冷やす冷却水が失われ、やはり炉心溶融が起こり、周辺の住 民に対する避難勧告が行われた。最終的には、住民や環境への深刻な被害はなかったものの、米国民の間に原発アレルギーが芽生え、長年にわたって新たな原発の建設が凍結される事態に繋がった。

 これまでに福島第1原発の1号機と3号機では、蓄 積された水素が原因の建屋の爆発を受けて、東電が設備の廃棄を覚悟し、海水を注入して原子炉を冷やす作業に入っていた。両機は、炉心溶融も起こしたとされている。このまま原子炉の冷却に成功し、大量の放射性物質の外部への漏えいを抑え込めるかどうかが大きな焦点となっている。

 そうした中で、14日夜になって、新たな懸念材料としてクローズアップされたのが、2号機だ。同機では、「ポンプの燃料不足」(枝野幸男官房長官)というミスとしか考えにくい要因が加わって、本来ならば冷却水の中に浸かっていなければならない燃料棒が完全に露出して、その一部が破損した可能性が強いという。放置すれば、炉心溶融にとどまらない危険な状態だったとみられ るわけだ。

 東電では、2号機にも海水の注入を再開し、それに伴って発生した水蒸気で高まった圧力を下げるなどの作業を進めているという。

 1、2、3号機のいずれ かで海水の注入が奏功せず、事態がもう一段悪化すれば、そこに残るのは、最悪のシナリオだ。それは、1986年4月に旧ソビエト連邦で起きたチェルノブイリ原発型の大事故のシナリオである。この事故では、原子炉が爆発して大量の放射性物質が大気中に放出され、多数の死者が出た。言うまでもなく、環境汚染も広範囲に及び深刻だった。

 原子力発電はこれまで、日本に不可欠な発電システムとされてきた。石炭火力、太陽光発電に比べてコストが廉価なうえ、CO2のような温暖化ガスを排出しないクリーンなシステムとの評価も定着しているからだ。さらに言えば、水力や風力と比べても、安定供給を期待できるメリットが大きいとの評価もあった。

 しかし、今回起きている事故は、そうした議論を根底から覆しかねない。なんとしても、事態の悪化を防がないと、原発の安全性には大きな疑問符が付き、存続することすら難しくなりかねない。


 

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