金融危機後の世界で最も重要な考えを持つエコノミストは誰か?
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 英国の高級週刊誌『エコノミスト』(2月12日号)の特集「影響力のあるエコノミスト---現代のケインズ」が面白かった。同誌と関わりが深いエコノミスト50人以上に「金融危機後の世界で最も重要な考えを持つエコノミストは誰か?」と質問、その結果を紹介している。

 第1位の栄冠に輝いたのは、『フォールト・ラインズ』(翻訳は新潮社刊の「大断層が再び金融危機を招く」)の著者であるシカゴ大学経営大学院のローラム・ラジャン教授だった。一方、「過去10年間に最も影響力のあったエコノミストは?」という質問では、ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が他の追随を許さない文句なしの首位だった。ところが、ライバルの米誌『ビジネスウィーク』(1月24日号)によれば、「ラジャン教授は、バーナンキ議長があまりに長期にわたり超低金利政策を続けていることで資産バブルを再発させる恐れがあると懸念している」というのだ。

 FRBが昨年11月に行った量的緩和第2弾(QE2)に対するラジャン教授の厳しい批判は、経済学界保守派のリーダーであるスタンフォード大学のジョン・テイラー教授(ブッシュ前政権の財務次官)らと足並みをそろえるものだ。そしてそのテイラー教授も「バーナンキ議長の量的緩和政策に反対の論陣を張り、米議会をはじめFRB関係者、言論界に対して影響力を増している」(『ビジネスウィーク』)のだ。

インフレ配慮の前倒し縮減リスクが浮上

 テイラー教授は物価と所得に反応して政策金利を定式化した「テイラー・ルール」の発案者として多くの支持を得ており、今やバーナンキ議長の強力なライバルとなっている。事実、FRB内部でもリッチモンド連銀のジェフリー・ラッカー総裁が「QE2」の早期打ち切り論の狼煙を上げ、バーナンキ議長は1月の米上院銀行委員会で労働市場の回復の遅れを指摘しつつもインフレ懸念に言及せざるを得なかった。

 チュニジア発の北アフリカ・中東の「民主化ドミノ現象」による原油価格高騰、そして米国をはじめ主要先進国の超金融緩和による世界的なインフレ圧力の昂進が、終に欧州中央銀行(ECB。ジャン=クロード・トリシュ総裁)をインフレ・ファイターに変身させたのである。ECBは4月の定例理事会で0・25%利上げ決定を皮切りに2012年前半までに計6回、累計で1・5%の利上げ実施するものと思われる。トリシェ総裁は既に、3月3日に開かれた定例理事会で、「strong vigilance(強い警戒)」という言葉を使い、4月利上げを示唆しているのだ。

 そこには、欧州人特有のロジックが見て取れる。そのロジックとは、物価全体の上昇が賃上げ交渉の材料となってインフレを招く苦い歴史的経験を背景としている。だが、欧州中央銀行のインフレ抑止への転換により主要先進国中銀の量的緩和政策に足並みの乱れを招き、市場関係者は米国の金融緩和政策の行末に神経質になっている。現在のところでは、FRBは6月末で「QE2」を打ち切る方向とされるが、ここに来てインフレ配慮の前倒し縮減リスクが浮上している。

 そもそも、北アフリカ・中東危機が火をつけた原油高の裏には「QE2」による溢れた過剰流動性マネーの原油・食糧など商品市場への流入があった。そして、米国はいま過剰流動性とインフレ圧力というジレンマに直面しており、一方の中国など急成長新興国は「QE2」が余剰ドルを生み、食品価格高騰や資源インフレ、さらに新興国の不動産バブルの温床となったと批判を強める。こうして今や「世界最強の通貨の番人」バーナンキ議長はFRB内部からも批判を浴び、孤立感を深めている。

 ベン・バーナンキといえば、プリンストン大学教授・学部長としての前歴が有名であるが、実は、バーナンキ批判の急先鋒であるテイラー教授の本拠地・スタンフォード大学が古巣である。事ここに至っては、いつバーナンキFRB議長が量的緩和外しに踏み切るかが焦点となった。

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