世界的な高騰で危機再燃の恐れ
4月の小麦値上げで日本の食卓にも影響[食料]

 穀物や砂糖、コーヒー豆などさまざまな食料品の国際価格が昨年半ばから上がり続け、食料危機の再燃がささやかれ始めた。中東諸国で相次ぐ政変の背景にも食料の高値に対する民衆の不満があるとされる。農産物市場に流れ込む投機マネー、生産国を襲う異常気象、そして新興国の需要増などさまざまな要因が絡み合い、事態が終息する見通しは立たない。国内ではまだ目立った影響が出ていないが、輸入小麦が18%値上がりする4月以降は、本格的な食料品価格への転嫁もありそうだ。

 食料高騰の事態の深刻さを示すのは、国連食糧農業機関(FAO)が毎月発表している食料価格指数(Food Price Index=FPI)だ。穀物、乳製品、砂糖、油脂、食肉などの国際価格を総合し02~04年を100として比較したものだが、1月は231。08年6月の224を上回り、90年の統計開始以来の最高値を更新した。FPIは昨年7月以降、7カ月連続で上昇し続けている。

 食料危機と言えば、食品の値上げに抗議するデモや暴動が世界各地に広がった08年の事態が記憶に新しい。だが当時は小麦やトウモロコシ、大豆など穀物の価格高騰が中心だったのに対し、最近は砂糖や油脂類など幅広い品目が上がっているのが特徴と言える。

 急速な経済成長を続ける中国、インド、ブラジルなどが需要増の主役となっている。例えば、砂糖の消費量は中国とインドで5年前より3割増、ブラジルでも15%増えている。ブラジルは世界最大、インドは世界第2位の砂糖生産国だが、それらの国内で消費量が増え、相対的に輸出余力が低下していく傾向がある。

 こうした流れを受け、ニューヨークの粗糖現物相場は昨年11月9日に30年ぶりの高値を更新。その後いったん下落したものの、再び上昇に転じ、2月上旬時点でも高騰を続けている。

 コーヒーなどの嗜好品も新興国の需要増で値上がりしている。国際コーヒー機関(ICO、本部ロンドン)が発表するコーヒー豆の指標価格は、1月12日に1ポンド(約0・45キロ)=2ドルを突破。統計のある1980年以降、2ドルを上回ったことはほとんどなく、歴史的な高値圏と言っていい。こちらも世界最大の生産国はブラジルだが、同国内のコーヒー消費が10~11年度は対前年度比4%増の117万トンに達し「自家消費」が増えている。

 もちろん、穀物も値上がりしている。生活水準が上がって肉類、乳製品、卵の消費が増えると牛、豚、鶏などの飼料向け需要が増えるため、やはり新興国の存在が大きい。シカゴ商品取引所の取引価格は2月4日現在、小麦1ブッシェル当たり8・5ドル、大豆同14・3ドル、トウモロコシ同6・8ドル。まだ史上最高値(小麦12・8ドル、大豆16・6ドル、トウモロコシ7・5ドル)を今年中に更新しても不思議ではない状況だ。また、米国ではバイオ燃料向けのトウモロコシ需要も依然として旺盛だ。

需要増に加え投機マネーが拍車

 食料価格の中長期的な上昇要因は既に触れたような新興国の経済発展だが、短期的要因としては農産物市場への投機資金流入が大きい。金融危機や景気低迷に対応して先進国が大幅な金融緩和を行い、だぶついたマネーが値上がり期待の大きい農産物や原油などのエネルギー、鉱物資源の市場に流れ込んでいる。

 米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長は、米国の金融緩和が食料価格の高騰を招いているという見方に「全く不当だ」と反論したが、市場関係者の間には実際の需給環境以上に価格が上がっているという見方が根強い。サルコジ仏大統領も食料価格の乱高下を助長する投機的な取引の規制を提案。

 6月にはパリでG20(主要20カ国地域首脳会議)の農相会合を開き、食料問題への対応を議論することになった。投機の規制には米国などが慎重で、議論の行方は不透明だが、食料増産にどう取り組むかや生産国による輸出制限の問題なども議題になる可能性がある。

 生産国で頻発する異常気象の影響も見逃せない。ロシアは昨年8月、干ばつで生産が落ち込んだ小麦など穀物の輸出を一時停止し、相場急騰の引き金を引いた。年末には豪州で大規模な洪水が発生し、シカゴ市場の小麦相場は1ブッシェル=8ドルを突破。更に2月には大型サイクロンが豪州の主要なサトウキビ産地であるクイーンズランド州を襲った。生産高は半減の恐れもあるといい、砂糖相場の高騰に拍車がかかっている。

 米農務省は1月12日に発表した穀物需給見通しで11年度末の世界の穀物在庫は前年度比12%減の4億3116万トンに落ち込むと予測。これを受けて大豆やトウモロコシの取引価格が急伸した。日本の農林水産省も同様の見方をしており、小麦、大豆は生産減による在庫の取り崩しが進み、トウモロコシは生産が拡大するものの、消費量の増加に追いつけず在庫が減るとしている。価格高騰が続けば、生産国が国内での安定供給を優先して輸出を制限する動きも広がりかねず、供給への不安は強まる一方だ。

 国内では、キーコーヒーやAGFなどコーヒー各社が値上げを相次いで発表。大豆やナタネの高値で、日清オイリオやJ|オイルミルズなど食用油大手の値上げも続いている。三井製糖は砂糖の出荷価格を昨年10月に1キロ当たり6円、11月には同7円と立て続けに値上げした。小麦は大半が政府による「国家貿易」で輸入されているが、民間製粉会社への売却価格は4月に18%引き上がられることが決まった。

 小麦粉が高くなれば、パンやめん類など幅広い食品に影響が避けられない。また、トウモロコシなどが値上がりすると、国内の畜産・酪農のコスト圧迫要因となり、農家経営への打撃は深刻だ。肉や卵、乳製品への価格転嫁も迫られることになる。

 穀物などの需給に詳しい商社関係者は「あらゆる農産物が値上がりするアグフレーション(農産物インフレ)が起きている。需要増、生産減、投機資金の流入は不可逆的なプロセスで、食料危機への備えが必要だ」と指摘している。食料自給率(カロリーベース)が40%に低迷する日本にとっては、国際市況から目を離せない状況が続きそうだ。

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