八百長調査の難航で5月場所も危ぶまれる
新公益法人への移行に高いハードル[大相撲]
苦悩の日々が続く放駒日本相撲協会理事長。会見で春場所中止を発表した=東京・両国国技館で2月6日

 「土俵際」どころではない。土俵そのものが底なし沼と化している。警視庁による野球賭博捜査は相撲界の疑惑の本丸、八百長相撲の実態を暴き出した。事態を重く見た日本相撲協会は3月の春場所(大阪府立体育会館)の中止を決定、八百長相撲の実態解明を最優先する姿勢を示したが、協会による調べは難航しており、5月の夏場所開催も危ぶまれる事態だ。大相撲が「消滅する日」すら現実味を帯びてきた。

 まさに「動かぬ証拠」だった。警視庁が警察庁を通じて文部科学省に資料を渡した力士による八百長メール。

 「立ち合いは強く当たって流れでお願いします」「了解しました!では流れで少しは踏ん張るよ」---。力士間でやりとりされた八百長相撲を疑わせるメールは46通に上った。具体的に取り口を指示するメールから金銭のやりとりを疑わせるものまで多岐にわたる。しかも罪悪感のかけらもなく、あっけらかんと星の売り買いが行われていた様子がうかがえる。

 これらのメールは、野球賭博事件の捜査で警視庁が押収した十両力士ら数人の携帯電話の「消去済み」メールの復元作業で明らかになった。

 日本相撲協会はメールの存在が表面化した2月2日、臨時理事会を開き、携帯電話の所有者やメールに名前が残った14人の力士から直接、事情を聴き、現役親方の竹縄(元前頭・春日錦)、十両・千代白鵬、三段目・恵那司の3人は八百長への関与を認めた。

 協会は外部委員7人による特別調査委員会を設置、全力士への聞き取り調査などを始めたが、強制権を持たない調査委による調査には限界もある。八百長メールで名前が挙がった力士の中には「携帯がないと不便だ」「携帯は妻が踏んで壊した」など、笑い話のような理由で携帯電話の提出を拒む者もいるという。真相解明に向けた協会の「本気度」が疑われても仕方のない状況が続いている。

 これまでも大相撲の「八百長疑惑」は何度も協会を揺さぶり続けてきた。古くは1963年秋場所千秋楽、大鵬・柏戸の横綱全勝対決を作家の石原慎太郎氏(現都知事)が「八百長」と指摘、協会が同氏を告訴する騒ぎとなった。その後も週刊誌など各誌が相次いで「八百長疑惑」を特集。協会と激しく火花を散らしてきた。

 「八百長相撲は一切ない」という立場の協会側の一貫した姿勢だ。しかし、テレビの普及とスロービデオ再生など放送技術の飛躍的な進歩は、「疑わしい相撲」の存在をいやでも相撲ファンにクローズアップする。

 協会は「八百長」は否定しつつも72年に「故意の無気力相撲」に対する罰則規定を設けた。だが、気力に欠けた一番があっても「故意」であるかどうかは力士本人の心の持ちようで、外部からの認定は難しい。せっかく規定を作ってもこれまで一度も罰則を適用することはなく、協会側のポーズだけに終わった。

 「八百長疑惑」の報道に、従来以上の高圧的な姿勢で疑惑報道に対処するようになったのは北の湖理事長時代だ。同理事長本人も俎上に載せられた週刊誌報道に数億円に及ぶ高額な損害賠償を求める訴訟を起こし、裁判所も協会側を支持、数千万円の賠償を命じる判決が相次いだ。

 協会側が勝訴する一番の決め手は「八百長の証拠がない」という一点だったのだが、今回の「八百長メール」は、その前提を根底から覆す結果となった。

 協会執行部が居丈高に「八百長なし」のバリアを対外的に張り巡らすその内側で、力士たちは警戒心も罪悪感もなく八百長相撲にうつつを抜かす---。相撲ファンの知らない間に相撲界は内部から腐り始めていたようだ。

「八百長相撲」はファンに対する背信行為ではあるが、犯罪には当たらない。だが、協会に与えるダメージの大きさは大麻汚染や野球賭博などとは比較にならないほど計り知れない。中でも13年秋にゴールが設定されている協会の「新公益法人」への移行問題に及ぼす影響は大きい。

 現在、日本相撲協会は公益性が認められ、本場所開催に伴う事業所得は軽減税率が適用されるなど優遇措置を受けている。新たに公益法人と認可されると公益目的の事業は非課税となる。

 だが、新制度の公益法人の認可が得られないか、あるいは現行の公益法人の認可を文科省が取り消すと、協会は解散、国技館の土地、建物など協会所有の財産は手放さなくてはならなくなる。

 協会は当初、年内をめどに新公益法人への移行申請手続きを行う予定だった。協会内に設置した「公益法人制度対策委員会」(委員長・放駒理事長)は八百長問題のあおりを受け、作業が中断している。

 新公益法人への移行には、高額な金銭が絡む譲渡が常態化している年寄名跡の問題など、相撲界特有の不透明な部分をクリアにする必要に迫られる。

独立委、改善策で助け舟

 この問題に実質的に「助け舟」を出したのが「ガバナンス(組織の統治)の整備に関する独立委員会」(座長=奥島孝康・日本高野連会長)だった。野球賭博事件で大揺れしていた昨年7月、日本相撲協会の改革を目指して設立された委員会だが、2月17日、「日本相撲協会の公益法人化へ向けての改善策」と名付けた最終答申を協会に提出した。

 答申は理事会メンバーの半数近くを外部の有識者とすることを求め、現在50ある相撲部屋を30程度に削減することも提案。また、しばしば高額な金銭で売り買いされている年寄名跡については、売買の禁止を強く求めた。

 一見すると協会側に厳しい要求を突き付けたようにも思えるが、裏返せば「こうすれば公益法人の認定を受けられますよ」と指南した形でもある。

 親方たちの既得権益が大幅に削減される内容だが、八百長問題に揺れる協会側に「外圧」をはね返す力が残っているとは思えない。監督官庁の文科省は最終答申に沿って公益法人格の取得に向けた工程表を作成するよう協会に求めた。答申に沿った形で協会改革を進める以外に大相撲が生き残る道はなさそうだ。

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