政治政策 地震・原発・災害
「原発再稼動なら大丈夫」という杜撰シミュレーションで破綻リスクを隠し、国民負担を強要する「東電第3者委報告」の国家的詐欺
待ち受ける雪だるま式の電力料金値上げ
【PHOTO】Bloomberg via Getty Images

治癒する見込みがないことを隠して、破産を招きかねない治療費のアリ地獄に患者を落とし入れる――。

東京電力による福島原発事故の賠償を支援するため、その経営実態の調査を担当した政府の第3者委員会が先週(3日)公表した「報告」は、そんなとんでもない内容だ。

問題点をあげると、報告は、賠償金額を過小に見積もった。負担しなければならない膨大な除染コストをカウントせずに、東電が深刻な破たんの危機(債務超過リスク)に瀕している事実の隠ぺいを試みた。

東電には、甘い蜜のような報告だ。自助努力の根幹になるはずの発電所売却を検討した形跡もなく、端から免除してしまった。

そして、ツケを払わされるのは、我々国民だ。今すぐ手を打たないと、公的支援を返済できないという屁理屈を列挙して、安全性への疑問が残る原発の早期運転再開と10%の電気料金引き上げという痛みの甘受を迫る内容となっている。まるで「国家的な詐欺」である。

野田佳彦首相は、手遅れにならないうちに、こんな東電支援のスキームを白紙に戻し、当事者の東電に一元的に責を負わせる本来の原則に立ち戻るべきだ。さもないと、日本経済全体が東電擁護の重荷に押し潰されかねない。

本コラムが過去2週にわたって警鐘を鳴らしてきた、この報告をとりまとめた政府の第3者委員会は、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」(委員長・下河辺和彦弁護士)という。

政府は、その使命を、福島原発の賠償の公的支援に当たって「国民負担の極小化を図る」ことにあり、「東京電力の厳正な資産評価と徹底した経費の見直し」を行わせると説明してきた。

 だが、羊頭狗肉も甚だしい。

 9月末という取りまとめ期限を守れず、先週になってようやく公表された報告は、物理的な量ばかりが膨大で、その内容は「国民負担の極小化」という設置目的と対極の作文に変質した。

  もちろん、部分的に見れば、新聞各紙が喧伝したように、「届出時と実績の料金原価の乖離を合計すると、直近10 年間の累計で6,186 億円となる」(報告127ページ)とか、「東電の退職金水準(従業員拠出分を含まない)は依然、他産業と比較して高い」(同50ページ)として3つの改善案を示すなど、丹念な調査ぶりを感じさせる記述は存在する。

しかし、それらは、あまりにもマニアックなだけでなく、230ページの膨大な報告のごく一部に過ぎない。当局のレクを鵜呑みにして記事を書く新聞記者を念頭に、第3者委員会の奮闘ぶりを印象付けて、報告全体の杜撰さを覆い隠すために盛り込まれた目くらましとしか思えない。

10%の値上げは避けられないというシミュレーション

中でも根本的なミスリードは、報告が結論として打ち出した今後10年間の東電の事業・資金収支のシミュレーションだ。

もっともらしく、原発の運転再開を、(Ⅰ)直ちにできる、(Ⅱ)1 年後にずれ込む、(Ⅲ)再稼動できない――の3つのケースに分類。それぞれについて、料金を、①値上げなし、②5%値上げ、③10%値上げ――の3 パターン設定して、東電の将来像を描いている。

結論は、「(原発さえ早期に稼働すれば、)①料金改定(値上げ)なし、②5%値上げ、③10%値上げ、のいずれのパターンにおいても、実態純資産調整項目考慮前の段階で資産超過が維持できると試算されたが、原子力発電所の稼動時期が遅れるとともに、徐々に純資産が減少するリスクが拡大する」(報告105ページ)というもの。要するに、国際資本市場の抱く東電破たん懸念を拭い去ろうと、原発さえ再稼働すれば大丈夫という太鼓判を押したのである。

とはいえ、決して、それだけで賠償金の支払いや公的資金の返済をまっとうできるとしているわけではない。というのは、「資金面では原子力発電所稼働ケース、1 年後原子力発電所稼働ケースともに、料金値上げの状況に応じて約7,900 億円から約4 兆3,000 億円の不足資金が発生する」(同)、「原子力発電所非稼働ケースにおいては、約4 兆2,000 億円から約8 兆6,000 億円の資金調達が必要との結果」(同)などとの文言を挿入することも忘れていないからである。

この文言は、かねて東電が目論んでいるとされていた、10%の値上げが避けられないという援護射撃に他ならない。われわれ国民にとっては、福島原発事故の賠償を円滑に進めたうえで公的資金(最終的には税金)の返済を履行させるために、安全性に疑問が残る原発の早期再稼働を受け入れるだけでは不十分であり、電気料金の10%引き上げまで呑めという理不尽な話なのである。

はっきり言うが、国民が2つの重荷を受け入れても、このシナリオを実現するのは難しい。むしろ、せいぜい2年ぐらいで立ち行かなくなる「絵に描いた餅」に過ぎない、と筆者は睨んでいる。早晩行き詰まって、何度も電力料金を引き上げられるアリ地獄に国民は追いやられかねない。

その理由の第一は、第3者委員会が、必要な賠償額を過小に見積もっている点にある。同委員は、主に福島第1原発事故で避難している住民や福島市内の営業被害への補償だけを対象としただけで、他の多くの賠償義務の存在を無視するどんぶり勘定をやったのだ。

例えば、報告は、「政府による航行危険区域等又は飛行禁止区域の設定に起因して、漁業者、内航海運業又は旅客船事業を営んでいる者又は航空運送事業者に何らかの減収や追加的費用が発生していることが確認されている」(報告92ページ)としながら、その見積もりとなると「損害額を推計するための適切な資料は見当たらない。したがって、現時点で営業損害額について合理的な損害額を推計することは不可能である」と算定しなかった。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら