雑誌
JR新小岩「死を誘う危険な駅」の秘密
2ヵ月あまりで5人が成田エクスプレスに飛び込み!
他社との時短競争に湾曲ホーム・・・
魔の空間の謎に迫る
事故は全て北口側のホームで発生。4番線より北側には貨物列車の線路が2本走る(A~Dはそれぞれ写真の撮影地点を指す)※事故地点は大まかに示してあり必ずしも一致はしていません
4番線を通過するNEX。車幅が広いために、車体はホームにはみ出している(見取り図のA地点より撮影)〔PHOTO〕郡山総一郎

「階段を上がるとホームが騒然としていたので、『またか』と思いました。線路上にあった血の付いた塊が視界に入ったんですが、あれは腕だったのか脚だったのか、思い出したくもありません・・・・・・」(3件目の現場に居合わせた30代男性)

 城東地区のある駅が今、「自殺の新名所」として悪名を馳せている---。

 今年7月~9月のわずか2ヵ月あまりの間に、飛び込み自殺が5件も発生したのは総武線のJR新小岩駅(東京都葛飾区)だ。死亡した5人はいずれも同駅を通過中の特急「成田エクスプレス」(NEX)に飛び込んでいる。

 最初の事故が起こったのは7月12日。午前10時過ぎ、江戸川区在住の45歳女性が、大船行きの下り列車・NEX10号に向かってホームから飛び込んだ。女性は列車にはね返される形で、5~6m離れたキオスクの店舗まで飛ばされた。

「ホーム中央付近で『バキッ』という物凄い音がしたので恐る恐る近づいてみると、店の窓ガラスが割れて、中に人間らしきものが横たわっていました。すでにピクリとも動かなかったです」(現場に居合わせた40代男性)

2番ホームより、1人目の自殺者が飛び込んだ3番ホームの中央部分を望む(見取り図のB地点より撮影)〔PHOTO〕郡山総一郎

 この事故では4人の男女が巻き添えとなり負傷している。店内にいた買い物客の女性は、死亡した女性にぶつかり左足を打撲。近くにいた男女3人は割れたガラスを浴び、腕などに切り傷を負った。

 すると翌7月13日の午後1時過ぎ、50~60代と見られる男性が、またも通過するNEXへと飛び込んだのだ。

 悲劇はなおも続いた。その12日後の7月25日には30歳前後の男性が、さらに1ヵ月後の8月25日には20~30代男性が、そして9月18日には40~50代女性が、いずれも同じホームから身を投げた。

 頻発する飛び込み自殺。今やネット上には「自殺をするなら新小岩」、「成田エクスプレスで天国へのフライト」などの不謹慎なフレーズが躍る始末である。

 この駅が抱える問題の本質を探るために、本誌は現地に向かった。

〝空港まで大至急〟の弊害

 まずは新小岩駅の基本的な構造を見ておこう(1ページ上の見取り図参照)。いわゆる高架駅であるこの駅は、島式ホーム(両側が線路に接しているもの)2つで4線を有する。飛び込みが頻発しているのは北側ホームの3、4番線だ。ダイヤによると、NEXは約30分に1本のペースで新小岩駅を通過する。上り・下りの両線があることを考えると、ほぼ15分に1本はお目にかかれる計算になる。

4番ホームの飛び込み多発地点。ホームは左側に湾曲していて先が見えない(見取り図のC地点より撮影)〔PHOTO〕郡山総一郎

 ホームに降り立った記者が聞き込みを始めようとした瞬間だった。風を切り裂くザーッという音とともに、巨大な鉄塊が記者の脇を通り過ぎていく。さっそくNEXの迫力を体感してしまった。そのスピードは時速120km/h。鉄道アナリストの川島令三氏によると「NEXの営業最高速度は時速130km/h」とのことなので、およそ全速に近いスピードで駆け抜けていることになる。

 NEXが走り去った後、ホームで巡回に当たっていた駅員に話を聞いてみた。

「私どもとしては、徐行して通過してもらいたいというのが正直な気持ちです。NEXが通過する時は駅員が見回りをするのですが、ホームから飛び込もうとする人を阻止するのは、現状ではほとんど不可能だと思います」

 確かに、多くの乗客で溢れかえるホームの中で自殺しようとする人を視認し、行動を起こしたら即座に駆け寄って摑まえるというのは至難の業だろう。

 では、駅員が望むように、せめて駅を通過する時だけでもスピードを落とせないのだろうか。〝徐行〟は難しいとしても普通列車並みの速度にまで下げれば解決できるように思えるが・・・・・・。残念なことに、現実的に不可能なようだ。

「なぜ時速120km/hという猛スピードで駆け抜けるのか---、その背景には『スカイライナー』(京成電鉄)との競合があります。空港行きの特急列車は、とりわけ所要時間の短縮を求められます。それはJRや京成に限った話ではなく、各社とも1分1秒を縮めるのに必死なわけです。最高速度を時速160km/hに設定し、日暮里―成田空港間を最短36分で結ぶスカイライナーに対して、最高速度130km/hのNEXは東京―成田空港間を最短でも53分。顧客満足度で大きく差をつけられているのです」(前出・川島氏)

 熾烈な〝時短競争〟がある以上、みすみす速度を下げるわけにいかないというのが現状なのだ。だが、新小岩駅の通過スピードが特に速いのは何故だろうか。

「近隣の総武線快速停車駅を見てみると、市川駅(千葉県)には追い越し車線があり、NEXはホームを通過しない。錦糸町駅(墨田区)では新小岩と同じようにホームを通過しますが、東京駅から来たNEXは地下の線路を走ってから地上に上がってきて、すぐ錦糸町駅を通過する。その時点ではまだスピードが上がりきっていないのです」(鉄道雑誌ライター)

 駅を通過する際の列車の速度は、その前後のアップダウンによって決まる。駅周辺の線路状態が平坦な新小岩駅は、スピードを出す〝好条件〟を満たしていたわけだ。

 さらに、ホームそのものの形状にも問題があるという見方がある。「3、4番線のホームは緩やかに湾曲しています。特に、弓なり状の〝外側〟にあたる4番線は、ホームの中間地点に立つと先端が見えない。つまりNEXの運転士からも、駅に差しかかった時点では自殺しようとする人を視認できないんです」(沿線在住の鉄道ファン)

 確かに、1人目の自殺者こそ3番ホームからの飛び込みだったが、それ以降の4人はいずれも4番ホームの中央付近から飛び込んでいる。より確実に死ねる手段を選択したと見ることができそうだ。

「列車への飛び込み自殺が報道されると、同様の自殺が増える---というデータがあります。最近の新小岩駅の場合だと、1件目の事故がニュースで大きく報じられ、かなり話題を集めました。その翌日の2件目の事故で飛び込んだ人は、前日のニュースを見ていた可能性が高い。さらに3人目、4人目と続き〝自殺の名所〟が生まれる。よく『年末の中央線は飛び込み自殺が多い』と言われますが、これも同じような理由で定着していった経緯があります」(前出・川島氏)

 抑止策はないのだろうか。すぐ思い浮かぶのはホームドアの設置である。JR東日本に問い合わせると、「現在、人員を増やしてホーム上での巡回を強化しています。ホームドアの設置計画については未定です」(広報部)

 との回答だった。ホームドアの設置には多額の費用がかかる。山手線ですら全駅への設置が完了するのは '17年だというから、新小岩駅は〝後回し〟にされているのが現状のようである。

「飛び込み自殺でダイヤが乱れた場合でも、車両や架線などに物損が生じなければ、鉄道会社が損害賠償を求めるケースはほとんどない」(弁護士・生越照幸氏)とのことだが、列車への飛び込みは運転士はもちろん、清掃や復旧作業に当たる鉄道員たちの心に大きな傷を残すこともしばしばある。〝死の誘惑〟に全力で抗ってほしいと願ってやまない。

「フライデー」2011年10月14日号より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら