雑誌
告発レポート
どこまで被災者をバカにするのか!
東電が補償書類に入れた「恫喝文句」

川俣町で行われた個別相談会に参加した村井さん(下)。およそ2時間にわたり東電相談員に説明を求め続けたg〔PHOTO〕濱﨑慎治(以下同)

 156ページもある「補償金請求案内書」に音を上げる被災者たち。しかも「合意書」の中には、一度補償金を受け取ったら文句は言えない旨の文言がこっそり記されていた!

「こんな書類、全然、書き方が分かんねぇ! 東電の頭のいいヤツが集まって作って、頭の悪いヤツがカネを請求しないように、うまく作ってんだべ」

 福島県南相馬市の鹿島中学校体育館。福島第一原発事故の被災者に対する金銭補償の個別相談会に参加した鈴木芳雄さん(63)は、怒りを爆発させた。それもそのはずだ。東京電力が作成、配布した『補償金ご請求のご案内』は、A4判で156ページもある分厚い冊子。提出を求められる『補償金ご請求書類』の冊子も別にあって、こちらは60ページ。専門用語も多く、難解極まりない代物なのだ。鈴木さんの怒りは収まらない。

「俺は警戒区域(20km圏内)に住んでたんだけど、避難所を転々として8月20日から仮設住宅に住んでいる。で、学校に通う孫のために自転車を買ってやった。説明会で、『自転車代は請求対象になるのか』と聞いたら、『〈その他の請求明細〉の欄に書いてください』と言うから、『それでカネは戻ってくんのか』って聞いたら、『分かりません』だ。何を言っても、『すみません』『申し訳ございません』ばっかりで、会話にならねぇ! どうせ、東電はカネ出す気なんてないんだべ!」

 今回、補償対象となるのは、避難対象区域に住んでいた人たちだ。冊子は約50万人に配布された。補償金の支払い対象となるのは以下の8項目となる。

福島市飯野学習センターの個別相談会では東電の予想以上に被災者が詰めかけた。4時間待ちの被災者もいた

(1)避難生活等による精神的損害
(2)避難・帰宅費用
(3)一時立入費用〔編集部註・一時帰宅の際の費用〕
(4)生命・身体的損害
(5)就労不能損害
(6)検査費用(人)〔同・放射線量確認のための健診などの費用〕
(7)検査費用(物)〔同・土地、家屋などの線量確認の費用〕
(8)財物価値の喪失又は減少---。

 それぞれについて、細かく補償対象や金額が定められていて、それが何より複雑で分かりづらい。そもそも、補償金の請求にあたっては、『同意書』『各種証明書類』など4種類もの書類を提出しなければならないのだ。これを見たら、誰だってうんざりする。

 いみじくも、飯舘村から福島市に避難している50代の男性は、
「こんなのいじめだ! 資料を読んでもどう書けばいいのかさっぱり分からない。口座番号だけ書いたよ」

 と、吐き捨てた。本誌は、他の相談会の会場も回って、参加者の話を聞いて歩いた。南相馬市原町区の警戒区域から避難して川俣町の親戚宅に身を寄せる村井フジ子さん(67)は、およそ2時間に及ぶ相談を終えて、会場の中央公民館から消耗しきった表情で出てきた。

「震災の後、あちこち逃げ回って、いつ何やったかなんて覚えてねぇよ。領収書だって取っといてねぇしなぁ。南相馬市でパートで働いてたんだけど、職場が警戒区域に入ってるから、もう働けねぇ。だけど、だんだん無気力さなってくんのが分かったから、シルバー(人材センター)さ登録して、仕事さ始めたんだ。誰もやりたがらねぇ草むしりさ。熱い中、汗かいて側溝の草取りして、『うわ~放射能あっぺした』と思いながら、そうやって月5万円稼いだんだ。ほんだら、今日、ここ(相談会場)に来てみたら、6~8月は働いていたことさなって、就労補償さ減額なんだってば。前はパートで月6万2000円貰ってたから、その差額1万2000円しか出ない。そんなことあっか。汗水たらして働いて、したら減額。がっかりした。こんなこと、働く気なくすべ。働き損だ!」

(左)合意書にある《一切の異議・追加の請求を―》の一文は、非常に小さな文字で記載されていて気付きづらい (右)精神的損害の賠償金額は最大で月額12万円。しかし9月以降は一律5万円と、半額以下になってしまう

 伊達市霊山町の中央公民館での相談会では、介護士の加島志織さん(22)が1歳になる娘を抱いて相談に来ていた。自宅が特定避難勧奨地点(いわゆるホットスポット)に指定され、現在は伊達市内のアパートに避難している。

「まず、案内書の分量の多さに驚きました。ページを開いたんですが、特定避難勧奨地点に指定されている人はどう書けばいいのか、分からないんですよ。それで困惑して説明を受けに来たんですが、実は、案内書に書いてありました。とにかく、素人には分かりにくいですね」

 相談会に訪れた被災者たちの多くは、冊子の難解さについて不満を訴えたが、中でも酷いのが『合意書』に記されたある文句だった。それは、加害者としての自覚がないどころか、被災者を〝恫喝〟する内容だったのだ。住所、氏名などを記載する欄の下に、ごく小さい文字でこうあった(本ページ上の写真参照)。

〈上記金額の受領以降は(中略)一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません〉

 今回の補償金額で一度合意したら、後で新たな損害に気づいても、再請求はできないですからね---と、謝罪すべき東電が逆に、被災者らの首をねじ伏せているのだ。この恫喝文句については衆院予算委員会でも取り上げられ、参考人として出席した東電の西澤俊夫社長が「削除」を約束させられた。その翌日の9月27日、東電広報も本誌にこう釈明した。

「削除を決定しました。賠償の範囲と金額を明確にするための一文でしたが、誤解を招いたことをお詫び申し上げます」

 しかし、今回の恫喝文句で見えたのは、「金銭補償はできる限り小さくしたい」とする、東電の卑しい姿勢である。

 そうした東電の姿勢は、お手盛り感が溢れる「精神的損害にかかる請求」の基準からも分かる。案内書によると、避難所で生活した人には、月に12万円が支払われることになっている。が、それは8月末までで、9月からは5万円に減額される。この基準は、文部科学省に設置された第三者機関「原子力損害賠償紛争審査会」が策定した中間指針に基づいて、東電が作成したものだが、審査会の文書には、金額は自動車損害賠償責任保険による慰謝料を参考にしたとある。

南相馬市の仮設住宅に住む鈴木さんと妻の藤子さん。警戒区域にある自宅は築5年で、ローンが残っている

賠償額の「お手盛り基準」

伊達市にある霊山中央公民館での個別相談会をあとにする加島さん一家。1歳になる娘もお疲れのご様子だ

 12万円を上限とする東電の基準について、原発被災者弁護団に所属する佐藤篤志弁護士が厳しく批判する。

「東電が参考にしたという、原子力損害賠償紛争審査会で示された指針では『自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4200円。月額換算12万6000円)を参考』とあります。

 しかしこれは、事故被害者について国が定めた最小限の補償、いわゆる自賠責の基準です。我々、原発被災者弁護団では、月額35万円が妥当と考えます。我々も交通事故補償を参考にしましたが、むち打ちに任意保険が適用されたケースを参考にします。被災者が受けた苦しみは、東電が参考にした最小被害の基準で補償できるものではありません」

 9月から5万円に減額される理由について東電は、「仮設住宅等への入居が可能となり避難生活の過酷さが緩和される」と、案内書で説明している。被災者らの避難所暮らしを余儀なくさせた東電は、「仮設住宅にでも入れば、精神的な苦痛も和らぐでしょう」と、言うのだ。

 この点については、損害賠償に詳しい谷原誠弁護士がこう批判する。

「避難生活が6ヵ月経つと、金額が減るのはおかしな話です。交通事故の場合、時間が経って治療が進めば痛みも低減していくわけですが、今回の場合は、避難生活が長引けば長引くほどストレスもたまるし、精神的な疲労も増える。金額を減らす理由は何もない。むしろ、増やしていくほうが自然だと思います」

個別相談を終えた村井さんの資料は付箋まみれ。まだ疑問点が多く、翌日も参加するつもりだと話していた

 相談会に参加した人たちを取材すると、「補償の範囲」についても怒りの声が上がった。伊達市在住の自営業・Aさん(40代)がこう話す。

「福島の人は、農家でなくとも、自宅で食べるために畑や山で作物を育てています。原発事故後は畑の作物を食べていないので、買った野菜代を請求できるのかと聞いたんですが、『食料は請求できない。農協を介している農家でないと請求できない』などと言われました。被った被害を賠償してくれるのではなかったのですか。おかしいと思います」

 東電が被災者の立場に立って補償を考えているとは到底思えないことが、如実に分かるだろう。前出の佐藤弁護士は、被災者にこうアドバイスする。

「立派な本(案内書)が送られてくると、これが賠償のすべてと思いがちです。しかし、これはあくまでも東電が定めたものです。要するに東電が『こうしてくれ』と言っているだけで、損害賠償の手段としては他にもあります。個人で訴訟を起こすこともできるし、第三者機関の原子力損害賠償紛争解決センターを利用することもできる。一度冷静になって、どの解決手段が自身にとって有効なのか、考えることが必要だと思います」

 この期に及んでも、自らのことしか考えない東電に騙されてはならない。

「フライデー」2011年10月14日号より

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