Vol.2「わたしがコンテンツを探すのではなく、コンテンツがわたしを探す:フェイスブックに見るコンテンツ・シンジケーション」
インターネットが普及し、ユーザー数も当初とは比較にならないくらい爆発的に増大した。
あらゆる場所と人々がつながったいま、インターネットを利用するということは、ただ検索や買い物、情報発信のためだけではなく、社会そのものを変える可能性にも満ちている。
実際に、新しい産業が生まれ、旧来の産業のなかには価値転換を迫られているものもある。あまりにも変化の速度が激しいため、我々自身がその状態に適合する術を知らない。

本連載ではインターネットを介在させることで、これまで見過ごされてきた価値や経験などのヘリテージ(財産)を、新しい未来へとどう接続し直していくのか、コミュニケーションやメディアの変遷を通じて探ってみたい。
例えば、それは筆者のフィールドであるメディア産業を軸に、金融、製造など、多岐にわたる分野で起きつつあることを取り上げながら、新しい環境に我々が適合するためのヒントを探っていきたい。

 前回に説明したアフォーダブル・メディアのなかでも、今回は個人メディアの新しい環境について述べたいと思います。日本でも注目されつつある「フェイスブック」というソーシャル・ネットワークを中心にお話しします。

 ちなみに、フェイスブックを筆頭とするソーシャル・ネットワークも、ブログのように個人・企業が情報発信を行うのに、ほとんど投資コストがかからないメディアとなります。ゆえに、本稿では「フェイスブック」も、わたしが言うところのアフォーダブル・メディアのひとつに数えたいと思います。

フェイスブック」HPより

 また、フェイスブックは個人の発言や交遊関係は、グーグルなどの一般的な検索エンジンに露出することはありません。それ自体が閉じた小宇宙のようなものです。そこのなかで発信された個人の情報はグーグル等の検索エンジンから検索できません [註1]

 しかし、外のインターネットとの繋がりがないとはいえ、「facebookページ」(旧称ファンページ)と呼ばれる個人間ネットワークとは別のインターネット上に公開されたページもあります。こちらは企業ならば製品やサービスについてのそれぞれ独自のページを作成することが可能となっていて、すでに多くの企業がそのfacebookページ内で「Fコマース」(フェイスブックを経由した物販)やファンウェアと呼ばれるアプリケーションを利用してユーザーを自社の優良顧客に囲い込もうとしています。

 フェイスブックについては、すでにあちこちで語られているので、それ自体の説明はしませんが、この超巨大なソーシャルネットワークを、メディアという観点から語ってみたいと思います。

 ネットの世界ではかなりの旧聞に属す話ですが、ようやく日本でもフェイスブックについて関心が高まってきたので、あえてこの記事を引きたいと思います。2008年3月27日付けのニューヨークタイムズ紙のウェブサイトに掲載された“オンライン上で政治ニュースを発見、若者たちが知らせ合う(Finding Political News Online, the Young Pass It On)"という記事では、若年層の個人が有力なニュースの送り手になりつつあるという話が書かれています。

 その内容は、選挙キャンペーン中にバラク・オバマが5分間だけテレビカメラに向かって語った内容が、新聞やテレビの興味をあまり惹かなかったかわりに、インターネット上で口コミが加速し、大きな話題になったという話です。オバマの映像はYouTubeやグーグルでもっとも検索されたコンテンツとなり、130万回視聴され、500以上のブログやフェイスブックのようなソーシャル・ネットワークからリンクが張られたようです。

[註1]  2011年2月にマイクロソフトの検索エンジンBingが検索結果に対し、米国内にいるfacebookユーザーのLikeを表示する機能を発表しました。このようなアクティビティ(行動)についてのみ表示されます。

 つまり、若年層のインターネット・ユーザーはニュースサイトやマスメディアといったプロのフィルターを通さずに、自らソース(情報源)を見つけると、その存在を次々と友だちたちにフェイスブックやツイッターを介して知らせていきました。

 記事は、米国の30代以下のウェブユーザーの3分の2がフェイスブックのようなソーシャル・ネットワークを通じて情報を共有していることを伝え、そのような層をリサーチ会社インテリジェンス・グループの創業者は「ソーシャルメディア・ジェネレーション」と呼んでいます。そして、記事ではその世代にあたる学生の言葉~「もし重要なニュースだとしたら、ニュースがわたしを見つけるでしょう」~を引いて、フェイスブックやツイッターの影響力の大きさを紹介しています。

 わが国では、まだそれを聞いてもピンと来る人は少ないと思われます。日本でのフェイスブック・ユーザーは約255万人を数え(本稿執筆時の2011年3月初旬)、2000千万人以上を擁するミクシィほど普及していません。しかし、本稿執筆時の週ごとのユーザー数の伸び率は世界でもトップレベルです(http://www.checkfacebook.com/より)。

フェイスブックはブログ・メディアと何が違うのか

 今後も日本で同サービスが米国のような人気を獲得できるかはまだ未知数ですが、少なくとも英語圏に留学したり、そこで働いた経験のある人たちは海外の友だちたちとの連絡用ツールとして活用できるため、ミクシィ以外にフェイスブックを兼用する可能性は高いと思います。

 また、コネクション・サーチという企業名や出身校ほかからユーザーを検索できる機能ももつため、就職活動等のリクルーティングに強い力を発揮するでしょう。それに、日本で1位とならずとも、英語圏ではすでに述べたように圧倒的なユーザー数を抱えているため、国内から海外に向けて情報を発信したい企業にとっては、まさに低コストで利用できる理想的なオンライン上の戦略拠点であると言えるでしょう。

 フェイスブックは、初期の頃から実在性を重んじ(実名というよりは、実在する人物なのか否かといった観点のほうが大きいと思う)、そんなユーザーたちの交遊関係に紐づいたネットワークです。口コミの伝播力がほかのソーシャル・ネットワークより高い傾向にあります。それについては、自分との関係性が希薄な匿名ユーザーの推薦よりも、自分がよく知る友だちの推薦のほうが強力であることは予測されますが、ただ実名主義だからとか、実存性を重んじているというだけではその効果は発揮されません。

 フェイスブック内には友だちの行動履歴を瞬時に知ることができるニュースフィードという機能が備わっています。それが実在する人のアクティビティ(フェイスブック内での行動)を可視化していきます。たとえば、友だちが誰かの紹介した動画にコメントを添えたり、誰かのフェイスブック・ページ(旧称ファンページ)をお気に入りに加えたなら、それらすべての情報が(設定次第で)友だちのあたなたにも知らされるのです。

 友だちが誰かの勧めたある本を絶賛し、その本にはほかにも多くのコメントや「いいね!」と呼ばれるリンクボタンを押すことでエール数が多く寄せられていたとしたら、あなたはその本について書かれた投稿の元リンクを読むでしょう。そして、その友だちはきっとあなたと似たような傾向の性質をもち、あなたはその言葉や行為に重きを置いていることでしょう。そのため、その友だちがしたのと同じようにあなたも同じ対象に関心を寄せ、行動する可能性が高まります。

 フェイスブックが、本連載の第一回で紹介したようなブログをシステムとして利用したメディア(ブログ・メディア)と違うのは、ブログ・メディアがコンテンツをノード(ネットワークを構成するひとつの拠点)からノードへ枝のようにつないで、時に受け取ったノードが文脈を補完・反証等していくコンテンツ中心主義であるのに対し、ソーシャルメディアは人間がノードとなる人間中心主義であるためです。

 そこでは、誰から誰に伝わるのかという経緯が文脈(コンテクスト)を紡ぐように思えます。中東の国々で反政府デモが起きたことも、流れた情報そのものよりも、ノードからノードに手渡され、最終的にデモという文脈に繋がり、さらにそれが他国のユーザーやマスメディアによって拡大されたことを考えると、ブログ・メディアの影響力とは異なるもののように思えます。

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