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浜田宏一イェール大学教授「経済学の現実を無視する菅内閣と日本銀行が国を滅ぼす」  聞き手:高橋洋一
「経済学の泰斗」が憂国の提言 第1回 
高橋洋一氏(左)と浜田宏一イェール大学教授(右)

高橋: 浜田先生は、海外からいまの政権や日本経済をご覧になられて、どんな印象を持たれていますか。

浜田: 今回、サンフランシスコから日本行きの飛行機に乗ったとき、ちょうど新内閣の閣僚名簿が載った新聞が配られたんです。目を通した途端に驚愕したというか、がっくりしてしまった。デフレ不況で悩んでいる日本経済を治療しようとする医者たるべき閣僚に、よくもこれだけ"ヤブ医者"を揃えたなという感じがしましてね。びっくりしました。

高橋: 本当にヤブ医者ばかりです。

浜田: 今回、「人前で、友人を失うようなことを言わないで!」と家内から釘を指されていました。しかしこの組閣を見て日本経済、そして日本国民のこれからを想像すると暗澹たる気持ちになり、やはり言うべきことは言わないと、と思ったのです。

 彼らは医者なのに解剖学がわかっていない、つまり高橋さんの指摘するバランスシート間の関係を経済の基本的なこととしてまったく理解していないのです。さらに、経済を動かすメカニズム---どこにどういう経済政策で働きかけると、どういう形で波及していくのか---という生理学もまったく理解していない。

 そんなヤブ医者ばかり、しかも老齢の人たちも多い。よくもこれだけ集めたもんだと。これは少し言いすぎかな(笑)。

高橋: いえいえ、上品すぎるぐらいです。ヤブ医者の名前は私から言いましょう。

 まず官房長官を補佐し、事務方を取り仕切るトップである官房副長官になったのが、ここ20年以上、「円高は日本にとっていい」と言い続けている藤井裕久さんです。この方は元大蔵官僚で、政治家になってからは大蔵大臣や財務大臣も経験していますが、その当時からずっと円高論者です。なぜか頭の中が「円高がいい」という考えで凝り固まっている。そのうえ、財政再建派です。この方はずっと同じ主張をしている筋金入りですね。

 もう一人が経済財政担当大臣の与謝野馨さん。この方も2000年以降、「円高がいい」とか「デフレでいい」という言い方をしている。「円高デフレの時にも財政金融政策を使わなくてもいい」という非常に珍しい政策を掲げる方です。

浜田: 言ってみれば、目の前で横たわっている重篤な患者に、自分が直せる薬を持っているのに、「薬は使うな」と指示する医者ですよね。私は、日銀や政府の政策担当者にはまったく個人的恨みは持っていません。しかしそれが国民生活に波及する効果、弊害を考えると、「人は憎まずとも、その政策の及ぼす帰結を本気で憎まずにはいられない」のです。

高橋: そうです。菅内閣にはさらにとんでもないことを言う人もいるんです。

 菅直人総理は、「増税すれば経済成長をする」と言い、それから枝野幸男官房長官は、「利上げすれば景気回復する」という立場です。もう笑うしかない。

浜田: 新聞の政治面を読むと、永田町ではかつて民主党の政策を批判していた与謝野さんの政治信条が問題視されていますけど、日本国民にとってみれば、君子が豹変することよりも、ちゃんとした医者がちゃんと診療をしてくれる状態と内閣の理解、主張がかけ離れている方がずっと深刻な問題です。

 全く間違った、逆の方向の政策をやろうという人が新内閣の一番重要なポジションに就いている。しかも官房長官はじめ、取り巻きがみんなデフレ賞賛派であるというのはまさに驚くべき布陣ですね。

高橋: 実はそこにもう一人加えなければならない人がいます。前の官房長官の仙谷由人代表代行です。彼は今回、民主党の「社会保障と税の抜本改革調査会」の会長になった。この方も、「需給ギャップがあっても何もするな」ということをはっきりおっしゃった人です。

「経済学200年の積み重ね」を無視する人を集めた内閣

浜田: 経済学というのは、これでも200年以上の歴史がある学問です。その中でいろいろ試行錯誤をしつつ事実を観測しながら、それを整合的に説明しようと考えてきた。

 経済学の場合には全部を実験して確かめるわけにはいきませんから、生理学的側面は、ある程度、秩序立てて予測しながら業績を積み重ねてきました。そうした中で、「どこに水を流せばどこに水が流れる」とか、「この場合はこの薬を使えば熱が下がる」とか、いったことでは分かってきたことも多い。それなのに、今挙げたような方々は、その積み重ねをまったく理解していないどころか、反対のことをしようとしているわけです。

 経済学は精密科学ではないので、自然科学のようにパッと予測するとか、制御に関してはまだ曖昧な面があるということは認めます。それでも200年ほどいろんな人が事実を積み重ねつつ、考えてやってきた。

 その現実をまったく無視するアイデアに取り込まれや人ばかりを集めて一つの内閣を作ったというのは、まあ見事と言えば見事ですね。国民にとっては非常に恐ろしいことですが。

 そういう中で、学期中のイェール大学の講義を補講までして帰国するのは時間の無駄かも知れないなとも考えたのですが、私が直接教わったジェームズ・トービンとかフランコ・モディリアーニという先生の顔を思い浮かべると、そうも言っていられないなと思ったんです。

 彼らはそういうときこそ、分かってもらえなくても一生懸命正しいことを言い続けていた。やはりそれが学者の役割なんです。彼らは学問に対して真面目でした。

 しかし日本では、学問を自分の業績を上げるためのゲームのような感じで捉えている学者が多くなってきている。学問で分かったことがどの程度まで正しいのかを十分に確かめて、本当に国民の生活を変えることができるのか---そこに経済学者は、自分の職業の価値や役割をおかなければいけません。

 経済学には、ケインズ経済学とかマネタリズムとかいろいろな学説の流れがありますが、経済学全体として不況やデフレに関しては世界的にこれまでにかなりの共通認識の蓄積があります。

 不況に関していえば、経済学では大恐慌の時の教訓が非常に重要ですね。

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