中小企業2万社4万件が購入した「日本経済の地雷原」為替デリバティブ倒産が続出
急がれる政府と銀行の救済措置

 為替デリバティブ(金融派生商品)が、「日本経済の地雷原になっている」といっても、ピンとくる人は少ない。

 だが、大半の人間にとって理解の難しいこのデリバティブを、メガバンクや地銀が競って販売、その結果、約2万社の中小企業が購入、約4万件の契約を残しているというのだから、マグマの大きさはハンパではない。

 2003年から07年頃に販売されていたこの商品は、円安に対するリスクヘッジとして組成された。例えば、マーケットレートが1ドル=120円の時、1ドル=100円で「買い予約」を入れる。

 設定金額が「毎月10万ドル」だと、毎月1200万円の必要資金を1000万円に圧縮でき、200万円の儲けである。

「1ドルが100円以下になることはないでしょう。政府も介入、円安局面が続くので、間違いなく儲かります」

 こんなセールストークが飛び交っていた。実際、03年から04年にかけて、財務省は約35兆円の「ドル買い円売り介入」を実施、円安基調を保とうとした。

 同時に、銀行界全体が、政府の庇護下の「護送船団」の時代に終止符を打つべく、さまざまな収益ビジネスに打って出ていた。為替デリバティブや金利スワップといった金融商品は、手数料稼ぎに最適だった。

 まず、顧客にはリスクヘッジという名目が立つ。また、銀行自体は反対売買を行うのでリスクがない。さらに、商品設計が複雑なために顧客にはよく理解できず、その分、手数料を"調整"できるし、クレームをつけられる心配もない。

 販売していた行員が述懐する。

「ノルマが上から降ってきて、売るのにたいへんでした。リスクヘッジの金融商品だというけれど、正直、それでは捌けないので、輸出入に関係なくドル需要もない社長さんに頼んで、『儲かります。なんとかお願いします』と、売り込んでいました」

 最初に儲けさせる---。

 これはバクチの鉄則である。デリバティブも究極は、「売り」にかけるか「買い」にかけるかの丁半バクチである。ただ、短期の為替動向は見極めがつくので、円安局面の当初は勝つ仕組みである。

 しかし、契約は5年、10年といった長期で結ばれる。それだけに、円高にふれた瞬間から地獄を見る。

 先ほどの1ドル=100円での為替デリバティブ契約を例にすると、現段階での1ドル=80円水準では20円の為替差損。実際にはこれに、2倍程度のレバレッジが効かされているので、設定金額が「毎月10万ドル」なら約400万円の損。怖いのは、それを契約期間中、支払い続けなければならない。

本業は黒字でもアリ地獄のような赤字が続く

 為替デリバティブ倒産が急増するのも無理はない。円高は、08年9月のリーマン・ショック以降に定着。米国が通貨供給量を大幅に増やしてドル安に誘導、日銀の現在の中途半端な緩和では、円高ドル安の基調は、当面、続く。

 為替デリバティブ倒産の事例では、年間数億円の差損を出し続け、「展望が開けず、倒産しか選択肢はなかった」といった例が少なくない。本業は黒字でも、アリ地獄のような赤字が何年も続くかと思うと、気力が失せるのだろう。

 2万社4万件の為替デリバティブ契約は、事態を憂慮した金融庁の調べでわかったことだが、メガバンクは3行とも「何社と何件の契約を結び、総額がいくらか、といった数値は開示していません」ということなので、契約の平均値や総額は不明である。

 だが、中小企業とはいえ、当初は、輸入を手がけている企業向けだったのだから、数十万円、数百万円といった銀行に対する"おつきあい"のレベルではなかろう。

 仮に、1社1億円とすれば2万社で2兆円。その半分の1兆円としてもたいへんな金額である。しかも、一過性ではなく、差損が、契約によっては毎月、通常は3ヵ月に一度といった期間で発生、それを払い続けると、利益がその分、吹っ飛ぶわけで、経営的にも精神的にも辛い。

 「投資は自己責任が原則」だが、今回、そう簡単に切り捨てていいものではあるまい。

 まず、銀行には「売り手責任」が生じる。

 「売り手」の行員の正直な述懐では、為替デリバティブをヘッジ商品としてではなく、金融商品として売り捌いており、そこに企業側のニーズはなく商品知識もなかったという。

 そのうえ、リスク商品であることを丁寧に説明することなく、「儲かります!」といったノリで販売、しかも融資先の顧客に販売するのだから、「買わなければ融資しない」といった露骨な"脅し"はなかったにせよ、優越的地位の乱用を疑われても仕方あるまい。

 そうした環境のなかで売り捌かれ、倒産が続出、予備軍が多く控えている現状を放置していてはなるまい。

 金融庁は、メガバンクなどに解約した際の資金手当て、あるいは為替差損による資金繰り不安に対する融資を要請、銀行サイドも専門部署を設置、専用ダイヤルを用意するなど、対策を取り始めている。

 プロの運用であるデリバティブの世界に、2万社が参入しているというのは非常事態。まず、本業はしっかりしているのに、デリバティブで倒産が続出する、といった事態を避けるのが先決。官民で方策を講ずべきだろう。

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