メディア・マスコミ
ハフィントン・ポストの共同創業者レーラーが語った「凋落する新聞とよみがえるジャーナリズム」
「最強のネット新聞」が示すジャーナリズムの未来は明るい
新聞臨終ウォッチ(ニュースペーパー・デス・ウォッチ)HPより

 「新聞臨終ウォッチ(ニュースペーパー・デス・ウォッチ)」---。新聞界が激震に見舞われているアメリカでは、新聞の凋落を克明に記録しているウェブサイトもある。

 同サイトによると、タスカン・シチズン、ロッキー・マウンテン・ニューズ、ボルチモア・エグザミナー、ケンタッキー・ポストをはじめ、2007年3月以降にアメリカで廃刊に追い込まれた日刊紙は12紙に達する(インターネット専門などへの移行も含めると20紙)。

 苦境に直面する印刷メディアをしり目に、短期間で躍進するネットメディアがある。代表格は「ハフィントン・ポスト(ハフポスト)」だ。設立5年余りの新興ニュースサイトでありながら、3億1500万ドルもの値段(ネットサービス大手AOLによる買収金額)が付いた。

 ハフポストの共同創業者ケネス・レーラーは、新聞が凋落した原因について「独占にあぐらをかいていたからネット時代の変化に乗り遅れた」と手厳しい。同時に、「ジャーナリズムの未来にわくわくしている」とも語っている。

 「独占にあぐらをかいている」という点では日本の新聞界はアメリカと変わらない。いずれアメリカの新聞界と同じ苦境に見舞われるかもしれない。その意味で「アメリカで最も成功したネット新聞」の立役者の話に耳を傾ける価値はある。

前回(「印刷・宅配をやめ、キンドルを無料配布せよ」)に引き続き、2009年4月にレーラーがニューヨークのコロンビア大学ジャーナリズムスクールで行った講演を再構成したうえで紹介する。

 〈 アメリカでは1990年代半ば以降、デジタル化の大波が押し寄せているのが明らかだった。それなのに、なぜ新聞経営者はビジネスモデルの抜本改革を見送ったのか? 彼ら自身の子供たちは次世代の読者であり、10年以上も前にネットに慣れ親しんでいた。そんな事実にも気付かず、メディアの将来を見通せなかったというのか? 

 変化に乗り遅れた一因はメディア企業のコングロマリット(複合企業)化だ。

 メディア業界では、バイアコムやタイム・ワーナーなど一握りの巨大コングロマリットが数々の再編を経て覇権を握り、雑誌、テレビ、映画、書籍など膨大なコンテンツを支配するようになった。新聞社もコングロマリット化に熱心で、ニューズ・コーポレーション、ハースト、ニューヨーク・タイムズの3社で合わせて200紙以上も発行している。

コングロマリット化で業界の垂直統合が進むと、競争が制限され、イノベーションが起きにくくなる。デジタルの世界が拡大している時に、メディア企業はアナログの世界でバリケードを築いていたということだ。

新聞が直面する「イノベーションのジレンマ」

 ハーバード大学ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンが唱える「イノベーションのジレンマ」に直面していたのだ。優良企業は顧客の声に耳を傾け、顧客が欲する商品を提供し続けることで、最終的に競争に負ける---これがイノベーションのジレンマだ。

 従来の商品よりも圧倒的に優れた商品が何なのか見通すうえで、顧客が企業よりも優れているわけではない。つまり、「顧客が欲しているから」という理由で従来型の商品を売り続けている企業は、新興企業が「圧倒的に優れた商品」を売り出した段階で行き詰まる。

 何年にもわたり、新聞社は一定の基準に従って従来の商品を改良してきた。読者の求めに応じて「遅滞なく新聞を宅配する」「特集記事を掲載する」「別刷りの雑誌を送り届ける」「汚れにくいインクを使う」といった分野に投資してきたのだ。熱心な読者のニーズに応えてきた結果として、現在の苦境がある。

 長年の読者は「大ニュースが起きたら直ちに新聞を届けてほしい」と求めなかった。ニュースについて読者同士で意見交換したいとも思わなかった。「読者からの手紙」がなかなか掲載されなくても気にしなかった。そんなことから新聞社は「顧客が求めていないのにネット上へコンテンツを流す必要はない」と判断したのだ。

 これが大失敗の始まりだった。新聞社は手遅れになるまで「パソコン画面でニュースを読みたいなんて思う人はいない」と決めつけていた。本格的なデジタル化を推進するための経営資源を十分に備えていたにもかかわらず、である。

 結局、クリステンセンが言う「破壊的イノベーション」が起きた。従来の商品を破壊するほど圧倒的に優れた商品が登場したのである。

 新聞社は事態を軽視していた。「ネット上を流れる情報は新聞記事ほどプロフェッショナルではない」「新聞のようにパソコンは持ち運べない」「パソコン画面でニュースを読まなければならない」などと負の側面にばかり注目していたからだ。

 破壊的イノベーションが起きると、真っ先に新技術を取り入れた企業が支配的地位を築く。デジタル化という破壊的イノベーションが起きたジャーナリズムの世界では、新聞社は新技術の導入に消極的であったため、新興企業が圧倒的な力を持つようになった。新技術が普及した段階になって既存の印刷メディアは慌てているが、もはやキャッチアップ不可能なほど出遅れてしまっている。

 新聞社が危機に見舞われている要因はイノベーションのジレンマ以外にも3要因ある。ネットメディアのコスト競争力、新規参入の拡大、1日24時間ニュース体制の到来だ。

 まずはネットメディアのコスト競争力。彼らは少人数のスタッフで大きな影響力を発揮できる。ネットの登場によってパラダイムが変わったのだ。逆に言えば、新聞社のコスト競争力が相対的に大幅低下してしまった。

 ネット時代に備え、新聞社は印刷メディア部門からネットメディア部門へ社内人材の配置転換を進めた。これでは新興のネットメディアに勝てるわけがない。

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