メディア・マスコミ
「印刷・宅配をやめ、キンドルを無料配布せよ」ハフィントン・ポストの共同創業者レーラーが唱えた「新聞の生き残り策」
「城壁の構築」は最悪の選択だ
ハフィントン・ポストのアリアナ・ハフィントン〔PHOTO〕gettyimages

「ニューヨーク・タイムズは直ちに印刷所を閉鎖し宅配をやめ、代わりに読者にキンドルを無料配布すればいい」---。これは、有力インターネット新聞「ハフィントン・ポスト(ハフポスト)」の共同創業者ケネス・レーラーの言葉だ。

 2月7日にインターネットサービス大手AOLがハフポスト買収で合意すると、同紙の共同創業者アリアナ・ハフィントンに注目が集まった。

 ギリシャ生まれのハフィントンは筋金入りのリベラル派で、各界の有力者と交友関係を持つ。2003年のカリフォルニア州知事選に立候補し、対立候補のアーノルド・シュワルツェネッガーと激論を交わすなど、抜群の知名度を誇る。

 ハフィントンの陰に隠れ、日ごろ目立たない存在なのがもう1人の共同創業者レーラーだ。ハフィントンがハリウッド的な西海岸のセレブだとすれば、レーラーは保守的な東海岸のビジネスマンだ。前者がハフポストの顔として活動してきたとすれば、後者は同紙の経営を実務面で支えてきたといえる。

 もともとはAOLの経営幹部だったレーラー。AOLによるハフポスト買収が決まると、ニューヨーク・タイムズの取材に応じ、2003年のハフィントンとの出会いを振り返っている。

「友人からアリアナに会うように言われた時、最初の反応は『とんでもない』だった。有名人には興味なかったからね。でも、ニューヨークのイタリアレストランで会ってみると、彼女に対する印象はがらりと変わった。いわば一目ぼれ。直ちに意気投合できた」

 それから1年後、2人は「リベラル版ドラッジレポート」の創刊で一致した。ドラッジレポートとは1997創刊の保守系ニュースサイトであり、1998年に大統領ビル・クリントンの不倫スキャンダルをスクープしたことで知られている。

 前回(オバマやビル・ゲイツもブログを寄稿)書いたように、「リベラル版ドラッジレポート」は2005年5月にハフポストとして創刊された。ハフィントンは編集長、レーラーは会長に就任した。

 ハフポスト創刊からちょうど4年経過した2009年4月下旬、レーラーはニューヨークのコロンビア大学ジャーナリズムスクール(Jスクール)を訪れ、数百人の同スクール同窓生を前に1時間半にわたって講演した。「アメリカで最も成功したネット新聞」を立ち上げた実績を持つだけに、新聞など伝統的印刷メディアの発想に縛られずに大胆に語り、聴衆を沸かせた。

 私もレーラーの講演を生で聞いて以来、ハフポストにずっと注目していた。2年経過してもなお彼のメディア論は新鮮だ。実質的に「ガラパゴス化」している日本の新聞界にしてみれば、「印刷所を閉鎖しろ」といった発言は荒唐無稽にさえ聞こえるのではないか。

ファックス機のように時代遅れになるのか

 AOLによる買収でハフポストに改めて注目が集まったのを機に、Jスクール事務局へ連絡を入れ、講演を当コラムに再掲載する許可をもらった。以下、日本向けに読みやすく再構成した講演の内容だ。

〈 ネットの普及を背景に新聞など伝統的印刷メディアは激震に見舞われている。2008年の金融危機によって経営基盤は一層揺らいでいる。

 地方紙のロッキー・マウンテン・ニュースとシアトル・ポスト・インテリジェンサーは廃刊に追い込まれた(後者はネット専門新聞へ移行)。2紙とも、リンカーン大統領時代に創刊された名門紙だ。シカゴ・トリビューンやロサンゼルス・タイムズなど有力紙を傘下に抱えるトリビューン・カンパニーは倒産した。

そんななか議論百出である。「新聞の宅配がなくなるとジャーナリズムは死ぬ」と言う人もいれば、「ニュースが紙に印刷されるかどうかは無関係」と言う人もいる。

 ここで根本的な問題提起をしたい。新聞は印刷メディアとして存続できるのか、それとも個人小切手やファクス機のように時代遅れになってしまうのか。もし未来がネットメディアならば、旧システムはどの程度残すべきなのか。

 以上は難しい問題であり、正解はない。新聞社は非常に苦しい決断を強いられるだろう。重要なのは、現実を直視するということだ。まずはこれまでに何が起きたのか振り返る必要がある。

 2008年の金融危機が原因で新聞が危機に陥っているとみるのは間違いだ。ツイッター登場以前、ブッシュ(子)政権誕生以前、グーグル誕生以前にさかのぼり、原因を探る必要がある。

 各地の求人情報や不動産情報を掲載するコミュニティサイト「クレイグリスト」が登場したのが1995年だ。この時までにAOLやインターネットブラウザーの登場でネットの利用は国民の間で日常的に行われるようになっていた。ネット接続のスピードは遅かったものの、変革を引き起こす潜在力があった。

 1998年、“事件”が発覚した。現職大統領クリントンの不倫スキャンダルがネット上でスクープされたのだ。スクープしたのはドラッジレポート。CNNの記者は「ネット時代では、30代前半の元ギフトショップ店員(ドラッジレポートの創業者マット・ドラッジのこと)でもニューヨーク・タイムズと同程度の影響力を発揮できる」と嘆いた。

 ネットメディアは印刷メディアの付属物ではない。スクープ競争で主導権を握ることもできるのだ。

 クリントンの不倫スキャンダルは10年以上も昔の話だ。グーグル創業から1年後、ネット専門の文芸誌「スレート」創刊から2年後だ。すでに多くの人たちがネット上でブログを読むようになり、新聞の発行部数下落には歯止めがかからなくなっていた。

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