巨大証券取引所誕生の衝撃
東証・大証のとるべき道は

NYSEとドイツ取引所が経営統合へ
最高経営責任者(CEO)にNYSEユーロネクストのダンカン・ニーダーアウアーCEO(写真左)を抜擢し、会長にドイツ取引所のレト・フランチオーニCEO(右)が就任する。        PHOTO:gettey images

 ニューヨーク証券取引所の親会社NYSEユーロネクストとフランクフルト証券取引所を傘下に持つドイツ取引所は、年末までに経営統合し、上場企業の時価総額で17.8兆ドルと世界の3割を占める巨大取引所を誕生させる計画に合意した。

 実現には欧米政府や株主の承認が必要でハードルが決して低くない。それにもかかわらず、両社があえて統合を目指す狙いは、超高速で大量の売買をさばく取引システムの開発に不可欠な資本力を強化することにある。市場では、投資家の機関化が急ピッチに進んでおり、1秒間に数千回の注文をするような例が増えているからだ。

 そこで注目されるのが、両社と同じ課題を抱える東京、大阪の両証券取引所の対抗策だ。欧米の巨大取引所の傘下に入り生き残りを目指すのか。それとも "ジャパン取引所"を模索するのだろうか。

 取引所は経済社会にとって、血液を循環させて人間の命を支える心臓のような存在だけに、今後の展開から目が離せない。

 経営統合によって誕生する新会社は、世界に例のない圧倒的な規模に達する見通しだ。

 傘下の取引所に上場する企業数は合計で約4000社。それらの時価総額は17兆7500億ドルと、第2位の米ナスダックOMXグループの3.6倍に達するという。

 売買高のシェアを見ても、欧州のデリバティブが90%、米国のオプションが40%、欧州の現物株が28%、米国の現物株が27%と圧倒的な支配力を持つことになる。

 両社の時価総額は、NYSEユーロネクストの8210億円に対し、ドイツ取引所は1.6倍近い1兆2810億円を誇る。しかし、今回の統合案は、そうした体力差を完全に反映したものとは言い難い。むしろ、随所で米国側株主への配慮をした内容となっている。

 例えば、新会社株への交換比率は、NYSEユーロネクスト株式1株が新会社株式の0.47株、ドイツ取引所株式1株が新会社株式1株となっている。これにより、新会社株の40%はNYSE ユーロネクスト株主が、同じく60%はドイツ取引所株主が保有することになる。この点は、ある程度、体力差が反映された形だ。

 しかし、これと対照的に、統合形式をみると、時価総額の大きいドイツ取引所がNYSE ユーロネクストを吸収する形を採っていない。新たにホールディング会社(持ち株会社)を設置し、その傘下に両社が入る形で、両社が対等と受け取れる形になっている。

 本社の所在地・機能も、ドイツ取引所側に一本化することはしない。ニューヨークとフランクフルトの両方に置く。

 逆に、経営陣のトップ人事はNYSEユーロネクストを優先した格好だ。最高経営責任者(CEO)にNYSEユーロネクストのダンカン・ニーダーアウアーCEOを抜擢し、会長にドイツ取引所のレト・フランチオーニCEOを充てることとしたからだ。このほか、取締役17名のうち、7人をNYSE ユーロネクストから、10人をドイツ取引所から登用する。

 NYSEユーロネクストへの配慮が目立つのは、国境を越えた取引所の経営統合が感情的なものも含めてナショナリズム的な反発を招き易いからとされる。

 しかし、あまり効果はなかったようだ。

 米議会や金融界にも多い反発の声

 経営統合の発表の翌日、米国ではニューヨーク州やデラウェア州のNYSEユーロネクスト株主が、経営統合案が自分たちの経済的な利益を損なうものだとして、計画の白紙撤回を求める提訴に踏み切った。

 新会社の巨大なシェアが足かせになる可能性も小さくない。米国の証券取引委員会(SEC)及び商品先物取引委員会(CFTC)、独禁当局はもちろん、欧州のデリバティブでの売買シェアが圧倒的に大きいため、欧州の独占禁止当局からの承認の難航を予想する向きが多い。さらに、米外国投資委員会(CFIUS)が立ちはだかる可能性もある。

 加えて、米議会や金融界にも反発の声が少なくない。報道によると、上院金融委員会のオリン・ハッチ委員長は、「米国の重要な取引所であるニューヨーク証券取引所が外国資本に乗っ取られるのは避けるべき事態だ。この経営統合をストップさせるべきである」と反対のコメントをしている。ゴールドマンサックス証券元会長のジョン・ホワイトヘッド氏も「米国の資本主義の象徴であるNYSEユーロネクストが、ドイツ取引所の影響が強いかたちで統合に入ることに関しては、懸念を持たざるを得ない」と述べたと言う。

 賛成派は、ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏ら、ごくわずかで、紆余曲折も予想されている。

 ただ、見逃すことができないのは、こうした強い反発が当初から予想されていたにもかかわらず、NYSE ユーロネクストとドイツ取引所があえて経営統合を目指した背景だ。この点については、1.ドイツ取引所(29億ドル)とNYSEユーロネクスト(25億ドル)の合計で、54億ドルという大きな収入が見込める、2.最大で年4億ドル程度のコスト削減が見込める3.巨大化によって、アジア地域から投資や上場を呼び込みやすくなる、―など多くの利点があると聞く。

 そうした中で特に大きなポイントは、統合によって豊富な資金を獲得できて、高速取引をさばける売買仲介システム開発競争を有利に進められるという事情にある。

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