雑誌
八ッ場ダム 二転三転、建設再開
「〝政・官〟呆れた泥仕合」の腐臭

大迷走の現場を空撮
上空より建設予定地を望む。中央を横切る2号橋は、ダムが完成すればダム湖上に浮かぶ橋となる。山の中腹(橋の右側)には家屋が水没する住民のための代替地が造成されている。(左上の地図のA地点より撮影)

「完成させるのが一番安上がり」という官僚の検証結果に、首相は「国交相が対処する」と責任丸投げ、前原元国交相は「不愉快だ」とむくれる。地元民はもう我慢の限界だ!

ダムが計画通りに完成すると名湯として名高い川原湯温泉街を始め340世帯が水没する。(地図中のABはそれぞれ空撮写真の撮影地点)

「この2年間、政府にはずっと騙され続けてきました。地元の政治家や土建屋は『工事再開だ』と喜んでいるようですが、私は、一喜一憂するだけ無駄だと思っています。代替地の整備などの生活再建事業は、遅々として進んでいないのが現実なんです」(地元の旅館経営者)

 9月13日、建設の継続か中止かをめぐって混迷する八ッ場ダム(群馬県長野原町)について、「建設が最良」との検証結果を国土交通省の関東地方整備局が公表した。建設中止論に押されてきた霞が関の官僚たちが、「ダムは必要」と巻き返しに出たのだ。

 八ッ場ダムの建設中止は、民主党が'09年の総選挙でマニフェストに掲げたものだ。選挙後、国交相に就任した前原誠司現政調会長(49)は、事業凍結を明言。'52年の計画提示から60年近くも経ってからの工事中止決定は、すでに代替地への移住を済ませた地元住民などから批判が噴出する一方、多くの国民から支持を得ていた。ところが昨年11月には、当時の国交相の馬淵澄夫氏(51)が一転、「予断なく再検証する」として事業凍結を事実上、白紙に戻すことを表明していた。

 今回の検証は、国交省が学識者らの意見を汲み取って行ったもので、治水と利水両面からコストが見直されている。ダムを建設するほうが、堤防を増設したり遊水池などを新設する案よりも、1000億~1300億円安いと算定した。また、飲用などに使う利水面からも、ダムの水を利用した場合は600億円程度で済むのに対して、他の河川から水を引くなどの案では1700億~1兆3000億円かかるとした。結局、ダムを完成させるのが一番安上がりという主張である。

 国交省の担当者は、こう説明する。

建設途中の1号橋の橋脚を望む。左下の線路はJR吾妻線のものでダム完成時には水没する予定(前ページ地図のB地点より撮影)

「今回の発表は、目的ごとに評価を行うと、どれが有利かということを示しただけです。現在も色々な角度からの案を立てて検証を行っている最中なので、最終的な評価はまだこれからです」

 あくまで途中経過であって、最終結論ではないというのだ。だが、「八ッ場ダムをストップさせる東京の会」の深澤洋子代表はこう批判する。

「反対意見も聞いてから検証するのが本来のやり方であるはず。今回の検証は、ダムを造りたい国交省と関東の1都5県の役人が、自分たちにとって都合のいい数字ばかり積み上げ、『工事再開のほうが安くつく』と結論づけただけです」

 ジャーナリストの大谷昭宏氏も同様に、こう反論する。

「八ッ場ダム建設は、戦後間もない時期に出てきた計画です。国は利水と治水の両面が必要だと説明してきたのですが、水を必要とする人たちが何もせず60年近くもダムができるのを待っているわけがない。さっさと自分たちで水を引いて生活しているので、今さらダムができて『お待たせしました』と水を配っても喜ぶ人はいない。一方、治水に関しても、今年9月の紀伊半島の豪雨のような〝想定外〟の大雨に襲われれば、ダムや堤防は無力化してしまう。どれほどの効果があるのかは、計算する人によって数値が異なるのが実情なんです」

 国交省の検証結果を到底鵜呑みにはできないが、地元の首長たちは、今回の発表を満足げに受け止めている。長野原町の高山欣也町長(68)は、「ホッとした。2年間のつまずきを取り戻したい」と歓迎するコメントを出した。

〝お家芸〟の党内不一致

 しかし、これで八ッ場ダムにゴーサインが出るかというと、そう簡単にはいかない。9月13日、前原政調会長は「当時の大臣に事前の説明がない。極めて不愉快だ」と、国交省を非難した。これに対する省内の反応は、以下の通りである。

「関係部署の人間は『何を言っているんだ、あの人は』と呆れ返っています。そもそも今回の報告は途中経過に過ぎず、かつての担当大臣だからといって、いちいち事前に持っていく義理も慣習もない。自分に不都合な結果が出たことが不満な駄々っ子の対応そのものですよ。馬淵さんも呆れて省内の幹部に電話して、『前原さんは何を怒っているんでしょうね』と話したそうです」(国交省関係者)

 民主党内の迷走は止まらず、9月14日に藤村修官房長官(61)が「政府・党三役会議で判断する」と発言すれば、翌15日には野田佳彦首相が参院本会議で「(前田武志)国交相が適切に対処する」と丸投げの答弁。これには、大沢正明群馬県知事(65)も、「何を信じていいのか分からない」と不信感を露にする始末だ。

 前出の大谷氏が言う。

「前原さんの時は脱官僚という形を取っていたにもかかわらず、今や官僚主導に戻ってしまった。政から官への揺り戻しです。財政にゆとりがある時に、これだけの余裕があるから工事を再開するというなら分かりますが、いま再開となれば深刻な財源不足に陥る。そんなカネがあるのなら東日本大震災の被災地の瓦礫処理に回すべきなのは誰の目にも明らかなはず。結局、ダムをめぐって政と官が主導権争いをしているとしか思えません」

 政・官の泥仕合に振り回され、しかも「政」の内側もバラバラ。もつれにもつれた現状を前に、〝被害者〟である地元住民たちの我慢は限界に達している。

「フライデー」2011年10月7日号より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら