『赤い三日月 小説ソブリン債務』黒木亮が緊急寄稿
「ハゲタカ」に狙われる欧州の金融危機を横目に、急浮上する「オスマン帝国」のルネッサンス

 最近、米系投資銀行の幹部で長年不良債権ビジネスを手がけている人物から「今度、出張でロンドンに行くから食事でもしないか」と連絡があった。その人物は、1980年代後半から90年代前半にかけてロンドンに駐在し、1982年頃から始まった経済危機で債務削減に追い込まれた中南米向け債権(融資、債券等)や旧ソ連圏崩壊後のソ連・東欧諸国向け債権の売買を手がけ、その後、バブル崩壊後の不良債権処理で苦しむ邦銀から大量の不良債権を二束三文で買い取っていた。

 1990年代後半からは香港に拠点を移し、アジア通貨危機で焼け野原になったインドネシア、韓国、中国本土などの不良債権売買を手がけていた。数年ぶりに連絡を受けて「なるほど、今度はヨーロッパに目をつけたのか」と合点がいった。彼らは、海面の上で群れる海鳥に似ている。我々はその姿を見て、ああ、あそこに魚群がいる(すなわち不良債権が発生する)のかと分かる。

著者近影

 こうした不良債権ビジネスを手がけるのは、米系投資銀行や欧州系マーチャントバンクのほか、マラソン・アセット・マネジメント(米)、オークツリー・キャピタル(米)、コマーシャル・インテリジェンス・ファンズ・グループ(スイス)など、不良債権投資を専門(ないしは部門)として行う投資会社や投資ファンドである。

 9月に入ってからも英国のTPGキャピタルが15億ドルの不良債権投資ファンドの組成を始めたり、米国の未公開株投資グループのカーライルが、同じく15億ドルの企業物不良債権投資ファンドの組成を行っていると報じられている。ちなみにTPGキャピタルのファンドでは、元ゴールドマン・サックス幹部のアラン・ワックスマン氏が責任者を務める予定だという。

 彼らがいかにして不良債権から利益を上げるかは、1.債務者から回収、2.値上がりを待って転売、3.資産の切り売り、4.債務者(会社)のリストラや再建などさまざまであるが、最大のポイントは、元々の債権者が体力がなくなって持ち切れなくなって処分するとき、本来の価値よりはるかに低い価格で手に入れるということだ。

欧州の銀行に群がる「不良債権ハンター」

 九月半ばに、ムーディーズが仏銀2行を格下げして以来、欧州通貨危機は一段と深刻化した。今、欧州の金融市場で何が起きているかというと、北海道拓殖銀行や山一證券が破綻した1997年末から1998年にかけての日本とまったく同じである。すなわち、マネーマーケット(短期金融市場)の機能不全と貸渋りだ。