『ウィキリークス アサンジの戦争』 著者:デヴィット・リー&ルークハーディングアサンジにもっとも早く、深く密着した『ガーディアン』が明かした真相

2011年02月21日(月)
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取引 ベルギー ブリュッセル
レオポルド・ホテル 2010年6月21日午後9時30分

「地球上で最大のデカいネタだと思った」 ニック・デイヴィス(「ガーディアン」記者)

 ベルギーにあるレオポルド・ホテルのガーデンカフェで3人の男がコーヒーを注文する。もう何杯目になるだろうか。

 ある夏の日の午後、男たちはすでに何時間にもわたって話をしていた。軽くパスタを腹に入れただけで、とうに日は暮れている。ようやく一番背の高い男が黄色いナプキンを、がたつくモダンなカフェテーブルの上に広げて何事か書き始めた。

 3人のうちの1人、「ガーディアン」欧州総局長のイアン・トレイナーがそのときの様子を振り返る。

「ジュリアンが小型のラップトップを出した。すぐに開いて、キーを叩いて何かを打ち込む。それからナプキンを持ってこう言ったんだ。『オーケー。これで君たちの物だ』。『何が?』と訊くと、ジュリアンはこともなげに答えた。『ファイル全部。パスワードはこのナプキンだ』って」

 トレイナーが続ける。

「びっくりしたね。まだまだ交渉が続いて、いろいろ条件をつけられると思っていたから。だけど、あっというま。信頼の証だよ」

 アサンジはナプキンに印刷されていたホテルの文字やロゴをいくつか丸で囲みながら、「ノー・スペース」と書き加えた。これがパスワードだ。そして隅に3つのアルファベットを書く。GPG。これはアサンジが一時的に使用するウェブサイトに用いる暗号化ソフトである。

 暗号めいたナプキンは、まるでジョン・ル・カレの推理小説を思わせ、演出効果抜群だった。その場に居合わせた2人の記者はただただ驚いていた。

 トレイナーと共に同席した「ガーディアン」紙のニック・デイヴィスは、スーツケースに、汚れたワイシャツと一緒にこの黄色いナプキンをしまい込んだ。英国に持ち帰った後は書斎に山積みになった本やメモの横に置き、たびたび眺めている。

 デイヴィスは言う。「額縁にでも入れようかな」。

 その数日前、デイヴィスはまさにその書斎に座ってのんびりと朝刊を読んでいた。ときおり顔を上げ、自宅の庭やサセックスの風景を眺める。

 デイヴィスは「ガーディアン」の中でも指折りの調査報道記者だ。ジャーナリズムの世界で30年以上にわたるキャリアを積み、警察腐敗、誤審、刑務所の実態などといった権力濫用を暴く記事をたびたびものにしてきた。自著『フラット・アース・ニュース』では、時間とコスト節約のために裏取り作業を怠り、プレスリリースやあらかじめ用意された資料をそのまま垂れ流す昨今のジャーナリズムを「チャーナリズム」と表現し、新聞業界がいかに堕落してきたかを批判した。

 彼の最近のスクープは、2009年7月に「ガーディアン」に執筆した「ニュース・オブ・ザ・ワールド」紙の電話盗聴疑惑だろう。政治家や芸能人、王室関係者など数千人もの有名人の電話を、ルパート・マードックがオーナーである同紙が盗聴していた疑惑を報じたもので、デイヴィスは長期にわたってその全容を調査していた(なお、「ワールド」紙で当時編集長を務めていたアンディ・コールソンはその後辞任、保守党のデヴィッド・キャメロン首相の広報責任者に就任していたが、2011年1月に結局そこも辞め、「部下が著名人の電話を不法に盗聴していた一件については何も知らなかった」などと釈明している)。

 その日、デイヴィスの興味は「ガーディアン」の国際面に惹きつけられていた。

「米国当局はウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジを捜索し、機密外交公電の公開を中止するよう圧力をかける構えだ。数千にも及ぶとされる外交公電が公開されれば、中東諸国の政府や指導者についての〝遠慮のない評価〟が明らかになる可能性が高い」

次ページ  記事はさらにこう続く。 「米…
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