社会保障・雇用・労働
産業空洞化は円高だけが理由ではない。東電維持、法人税据え置き、定年延長など「政策の失敗」が本当の原因だ
韓国のインフラコストは日本より劇的に安い

 円高が止まらない。対ドル為替レートは76円台で推移。対ユーロでも26日には101円台を付け、10年ぶりの円高水準となった。安住淳財務相も過度な円高には断固たる措置を取ると繰り返し発言、為替介入も辞さない姿勢を取っている。だが、民主党政権が行ったこれまでの為替介入の効果がいずれも短期間で終わっていることもあり、市場では長期的な円高定着は避けられないとの見方が広がっている。

 野田佳彦首相が財務相当時に為替介入を決断したわけだが、周囲の政治家によれば、野田氏は当初は介入に否定的だったという。為替市場の現在の取引規模を考えれば、政府が介入しても効果は限定的だというのが理由だった。つまり、効果がないことは分かっていながら、世の中の声に押されて為替介入を実行しているというわけだ。政府の無策を叱責されないための、いわばアリバイ作りの介入と言える。

 実際、産業界の介入を求める声は強い。日本経団連の米倉弘昌会長は26日の記者会見でも、「企業は追い詰められている。政府と日本銀行は連携して市場介入を含めた断固とした対策をやっていただきたい」と語っている。

 企業が追い詰められているとは、円高が進めば、輸出に依存している製造業の日本国内での立地が難しくなり、海外脱出が増加するということだろう。いわゆる「産業の空洞化」である。

日本より劇的に安い韓国のインフラコスト

 だが、空洞化と言われる製造業の海外移転が進むのは円高だけが原因なのだろうか。ここに興味深い資料がある。ある大手メーカーが調べた日本と韓国のインフラのコスト比較だ。賃金、不動産、光熱費、輸送費、法人税などを比較しているが、いずれも韓国が大幅に安い。

 課長級の人件費は43%、土地代16%、インターネットの基本料金36%、産業用電力料金38%、産業用水道料金2%、産業用ガス料金86%、対米向けコンテナの輸送代金40%、法人税60%という数字が並ぶ。

 ドル換算して比較してあるので、円高ウォン安が全体に反映しているのは間違いない。だが、為替だけで説明が付く格差レベルではない。日本の高コスト構造が指摘されて久しいが、抜本的に是正されてこなかったことをこの数値は示している。

 電力料金は現状でも韓国の2・6倍だが、このままでは東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う原発の停止で、LNG(液化天然ガス)などの使用量が増えることから、電力会社は電力料金の引き上げを検討している。産業用の電気料金は米、英、仏、独など先進国の料金水準を上回り、韓国や中国よりも高い。それがさらに上がるというのだ。

 日本の電気料金はもともと、燃料費などのコストの増減が料金に反映される仕組みになっている。コストに一定の利潤を加えた料金が認可されるため、コスト増を経営努力で吸収しようというインセンティブが働きにくい。

 東京電力の場合、現在のスキームでは、放射能被害の損害賠償責任も背負い続けるため、このままでは電力料金の大幅な引き下げは絶望的だ。電力供給体制を抜本的に見直すことなく、東京電力の存続を安易に決めたために、電力コストの引き下げという国家的命題を放棄せざるを得なくなっているのが、今の日本の現状なのだ。

 法人税も同様である。法人税の実効税率は日本の40・69%に対して、韓国は24・20%だという。日本の法人税は世界的に見ても高いうえ、競合するアジア諸国の中でも高率だ。国際競争を繰り広げる多国籍企業が立地を考える場合、法人税率の違いは大きい。それだけに、法人税率を引き下げることで企業を誘致しようという税率引き下げ競争が世界で行われてきた。

 民主党政府は昨年まとめた新成長戦略で、法人税率の5%引き下げを決めた。日本の産業空洞化を防ぐには税率引き下げが不可欠と判断したためだった。ところが、東日本大震災の復興予算の財源として検討されている復興増税と相殺されることになりそうな気配だ。つまり、税率は高いまま据え置かれることになるわけで、日本の「立地競争力」は法人税率の面では改善されない。

 東日本大震災からの復興は現在の日本の大きな課題であることは間違いない。だが、被災地の経済立て直しを優先するとして、日本全体の競争力を失わせるとしたら、元も子もない話になる。

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