議長に招集権付与へ自治法改正案提出
大都市のリコール請求要件を緩和
霞が関ファイル[地方議会]
地方自治法改正案の成立を目指す片山善博総務相

 政府は、地方議会の招集権の議長への付与や、結果に拘束力のある住民投票制度の導入などを盛り込んだ地方自治法改正案を、今通常国会に提出、成立を目指す。

 名古屋市や鹿児島県阿久根市などで首長と議会の対立が先鋭化した事例を踏まえ、対立解消のためのルールを法制化することなどが狙い。地域主権改革の進展に伴い、自治体の判断と責任が重要視される中、相互チェック機能など二元代表制が持つ本来の機能の発揮が求められており、改正案でも地方議会改革や議会と首長との関係改善に重点が置かれている。

 名古屋や阿久根のように「首長対議会」の構図が先鋭化した背景には、二元代表制の機能不全がある。首長と議会を住民がそれぞれに選ぶ二元代表制では、本来、首長と議会が互いにけん制し合い、チェック機能を果たすことが求められている。しかし、多くの自治体では首長を支える与党会派が形成され、事実上議会が首長の「追認機関」と化している面がある。

 全国都道府県議長会など3議長会の調査では、首長が提出した条例案の99%以上が「原案可決」。改正案を検討してきた総務省の地方行財政検討会議でも「議会の役割を果たしていないのではないか」と議会のチェック機能を疑問視する声が上がっていた。こうした地方議会の形骸化による住民の議会不信が、名古屋や阿久根のように首長側の言動を助長した側面もあった。

 改正案では阿久根の事例を踏まえ、地方議会の臨時会の招集権を議長にも与えた。現行の地方自治法では、議会の招集権を首長のみに認め、議長や定数の4分の1以上の議員から臨時会招集の請求があった場合には、首長は20日以内に議会を招集しなければならないと規定。しかし罰則はないため、阿久根市の竹原信一前市長は議会側の招集請求を無視し、鹿児島県知事の是正勧告にも従わなかった。このため、首長が議会側の招集請求に応じない場合には、議長が招集できるとしている。

 また竹原氏が議会を開かないまま専決処分を繰り返したことを受け、副知事や副市町村長を専決処分の対象から除外。さらに条例や予算の専決処分の決定がその後の議会で不承認となった場合には、決定が実質的に無効となるよう不承認の趣旨に沿った条例改正案や補正予算案の提出を義務付けた。

 一方、現在の地方議会では議員の専門職化が進み、議会の年齢や職業構成が一般社会とかけ離れているとの指摘もある。この差を縮めるための取り組みの第一歩として、条例により地方議会の通年化を可能とする。現在は定例会と臨時会に分かれ、多くの地方議会では年4回程度定例会が集中的に開催されているため、他の職業との兼職は困難な状況にある。改正案では条例で定例会・臨時会の区分を設けず、通年の会期を選択できるようにする。

 ただ、北欧の議会のようなサラリーマンや教師などとの兼職には、制度以上に今の日本の社会情勢では難しい面があり、片山善博総務相は「法案を作ることはできるが、民主主義の基盤を形作る作業なので国民的合意が必要だ。会社人間が隆盛を極める社会では無理で、国民的な議論で社会も変わらないといけない」と指摘した。

拘束力もつ住民投票制度導入へ

 一方、改正案では「住民自治の強化」を掲げる片山総務相肝煎りの住民投票制度の導入も盛り込んだ。自治体による条例制定を前提に、投票結果に拘束力を持たせるのが特徴。相次ぐ大規模な「ハコモノ」建設で07年に財政破綻した北海道夕張市を教訓に、サッカースタジアムやコンベンションセンターなど予算の一定規模を超える「ハコモノ」建設に限って、議会で承認後に住民投票にかけ、過半数の賛成がない場合は施設の設置はできないとする。

 住民投票の投票権は、一部の自治体が条例で実施した拘束力のない住民投票では、18歳以上や中学生、永住外国人や在日外国人にも投票権を認めた例があった。ただ、今回の制度については「現在の有権者の政治参画機会の幅を広げるもので、有権者の概念を変えるつもりはない」(片山総務相)とし、投票権は20歳以上の日本国民とする。投票率も要件には盛り込まなかった。

また首長・議会の解職・解散請求(リコール)では、2月6日に行われた名古屋市議会の解散の是非を問う住民投票が政令市では初のケースだったこともあり、要件を緩和する。現行法では必要な署名数について

①有権者数40万人以下の部分は有権者数の3分の1
②40万人を超える部分は6分の1

---と規定し、40万人を超える大都市では①と②の部分を別々に計算した合計が必要数と定めている。

 改正案では新たに有権者数が16万人超の中規模自治体も要件を緩和し、

①16万人以下の部分は3分の1
②16万人超40万人以下の部分は6分の1
③40万人超は10分の1

---と規定。40万人超の都市では①~③の合計が必要署名数となる。

 これにより、名古屋市(有権者数179万1564人)では、必要な署名数が36万5261人(20.4%)から23万2490人(13%)に、人口最大の東京都(有権者数1062万8472人)では183万8079人(17.3%)が111万6181人(10.5%)へと緩和される。

 中規模都市でも、千葉県市川市(有権者数38万3356人)では12万7786人(33.3%)が9万560人(同23.6%)=有権者数はいずれも09年9月2日現在=となるなど、リコールに向けた手続きが容易となり、首長や議会にはより緊張感を持った行政運営が求められることになる。

 今回の法改正は、いずれも国からの押し付けではなく、自治体側の選択に委ねている点が多い。地域主権改革の流れに沿ったもので、自治体側の自主性を重んじているが、それだけに、選択する自治体の首長と議会、さらにその首長と議会を選ぶ住民の判断と責任も重要になってくる。

 片山総務相は有権者の投票行動について「首長には改革志向を望み、議員選挙は地縁や血縁とか別の基準で動くダブルスタンダードがある。自治体行政に何を望むか明確にすることが必要だ」と注文をつけた。4月の統一地方選では、「首長対議会」の構図以上に、今後の自治体の方向性を見据えた選択が求められる。

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