菅政権の命運を握る税との一体改革
医療・介護「消費増税がないと……」厚労省
[社会保障]
政府・与党社会保障改革検討本部の会合であいさつする菅直人首相=首相官邸で1月21日

 菅直人再改造内閣は、自公政権当時の社会保障国民会議や安心社会実現会議を主導してきた与謝野馨氏を経済財政担当相と社会保障と税一体改革担当相に起用し、改革への意気込みを見せた。社会保障制度がこのままでは財政的に底割れすることは与野党とも認識を共通している。野党を巻き込んだ前向きな議論ができるか。首相は6月までの政府の一体改革案策定に向けて、4月までに厚生労働省案をまとめるよう指示した。その成否は政権の命運を握りそうだ。

「政治生命をかけて、覚悟を決めてやっていきたい」。1月5日夜、テレビ朝日の番組に出演した菅首相は、税と社会保障の一体改革実現に強い決意を示した。それほどに社会保障制度のほころびは目立ち始めている。昨年暮れには、それを強く印象づける出来事が相次いだ。

 昨年11月29日、吉田泉財務政務官は記者団に「11年度は基礎年金の国庫負担割合を(現在の2分の1から)36・5%に戻したい」と述べた。

 基礎年金の国庫負担割合は04年の年金改革で3分の1から段階的に2分の1に引き上げることが決まっている。引き上げに必要な2・5兆円の財源は、09、10年度は埋蔵金で賄い、11年度からは消費税を念頭に恒久財源を充てることになっていた。

 だが、自公政権は消費税論議を避け続け、財源のめどが立たないまま民主党が政権を獲得。11年度予算編成を迎えていた。

 現実に基礎年金の国庫負担割合を引き下げるのは政治的にあり得ないというのが政府内の共通認識だ。吉田氏の発言は、もはや埋蔵金も底を突き、消費税増税が避けられない状況を示す「ショック療法」との見方が強い。

 最終的には12月22日に野田佳彦財務相と細川律夫厚労相、玄葉光一郎国家戦略担当相が協議し、11年度は独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」の利益剰余金などで賄うものの、12年度以降は法的にも「埋蔵金」が使えないように法改正することで合意。「背水の陣」を敷くことになった。

 同じ頃、医療・介護を巡っては、厚労省の改革案に民主党政策調査会が強く反発する「身内の反乱」が起こっていた。

 「負担増となる法案を容認することはできない」。民主党高齢者医療制度改革ワーキングチーム(WT)主査の柚木道義衆院議員は12月9日、厚労省の高齢者医療制度改革案に強い不満をもらした。

 09年衆院選での民主党マニフェスト(政権公約)の目玉の一つだった、75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度の廃止をめぐっては、厚労省は同8日に

①75歳以上の高齢者の大半を国民健康保険(国保)に移し、都道府県が運営
②18年度以降は国保の運営を全年齢で都道府県に移管――を柱とする改革案をまとめた。

 この改革案には▽70~74歳の窓口負担(現在1割)を順次2割に引き上げる▽所得の低い75歳以上の高齢者の保険料軽減措置(最大9割)を段階的に縮小する---という高齢者の負担増も盛り込まれた。民主党WTが反発しているのは、この点だ。

厚労省の医療制度改革案先送り

 厚労省の改革案には全国知事会も反発している。赤字体質の国保の「尻ぬぐい」を任されるとの警戒感があるからだ。国保は元々自営業者を主な対象とした制度だ。しかし、今は高齢者ら無職の人が全体の4割に達する。病気になりやすいうえ、保険料の負担能力が低く、国保の赤字は全国で約2400億円にも上る。

 厚労省の高齢者医療制度改革案は与野党と知事会の反発で暗礁に乗り上げている。関連法案の通常国会提出は見送る方向で調整しており、当初予定していた新制度の「13年3月施行」は1年先送りことを決めた。

 厚労省は介護保険制度でも、12年度の次期改定に向けて改革案をまとめた。厚労省の試算では、65歳以上の高齢者の全国平均の月額保険料(現在4160円)は、何もしなければ12年度から5200円程度に跳ね上がる見通しだ。これを5000円未満に抑えるため、年収320万円以上の高齢者の利用者負担(現行1割)を2割に引き上げることや、介護計画(ケアプラン)の有料化など高齢者の負担増を盛り込んでいた。

 しかし、民主党介護保険制度改革WT主査の藤田一枝衆院議員は「民主党政権になって初めての制度改正。国民の期待に応える中身にしたい」と語り、負担増の撤回を要求。厚労省は昨年12月24日、通常国会に提出する改正法案に負担増案を盛り込まない方針を明らかにした。

 医療・介護ともサービスの費用の増加分は税か保険料か自己負担で賄うしかない。負担の急増を嫌えば税の投入を増やすしかなく、厚労省内からは「消費税増税がなければ何もできない」との悲鳴が上がっている。

 社会保障費は高齢化によって毎年1兆円以上も増え続ける。99年度以降は予算総則で消費税の国収入分は基礎年金・高齢者医療・介護の「高齢者3経費」に充てることになっている。だが、11年度は消費税収入7兆円に対して高齢者経費は17兆円に上る見通しだ。不足分の10兆円は消費税率に換算して4%、地方自治体に回る分を除けば7%程度必要で、仮に消費税を5%引き上げてもまだ足りない計算だ。

 しかし、菅政権は、これまで高齢者に過度に傾斜してきた社会保障費の配分を現役世代にも振り向ける方針を示している。子育て支援や雇用対策だ。現役世代も「受益者」の感覚を感じてもらわなければ、負担増には耐えられないからだ。

 政府が昨年12月14日に閣議決定した社会保障改革の推進に関する基本方針には「優先的に取り組む課題」として▽子ども手当法案▽子ども・子育て新システム法案▽求職者支援法案――を挙げている。これは、子育て支援や雇用対策にも消費税増税分を充てる考えを示したものだ。

 だが「足りないから増税」では国民は納得しないし消費税は打ち出の小づちではない。そこで、増税に見合う改革の具体像が求められ、政府は6月をめどに「税と社会保障の一体改革」案をまとめる。これに先立ち、厚労省が首相の指示を受けて、4月の大型連休前に社会保障改革の具体案をまとめる方針だ。

 しかし、「社会保障の強化に名を借りて甘い要求をされては困る」(財務省幹部)と早くも財務省側は警戒感を示している。

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