「乱は兵戦にも非ず、平は豊饒にも非ず」松下村塾から「大学の教育力」凋落を考える
わずか3年で維新の傑物を続々輩出できた理由
松下村塾跡〔筆者撮影〕

 今、大学の入試シーズン真っ盛りである。合格した人は、これから新しい4年間の生活に期待を膨らませていることでしょう。しかし、残念ながら今の大学というところは、皆さんの期待に応えてくれるところではない、とはっきり断言しておく。

日本の多くの大学では、学生そっちのけで権力闘争が繰り広げられている。本コラムでも大阪産業大の問題を取り上げ、経営する理事会と教育現場を預かる教授会で不毛な対立が起きているケースを紹介した。同じようなケースがどの大学でも起きている。その構図は、少子高齢化により授業料などの収入が細ると考える経営側と、既得権を維持したい(努力をしたくないといっても過言ではない)教授陣の対立である。

 また、「大学などの教育はビジネスではない」と言い張る輩も跋扈している。そのほとんどが全共闘崩れか左翼崩れである。筆者は、大学はれっきとしたビジネスであると考える。私学の教員や職員は誰から給料をもらっているのかを考えた方がいい。補助金はあるにせよ、学生側が払う授業料や入学金から出ている。学生=顧客である。

 ただ、大学はビジネスではあるが、「営利」ではなく、「非営利」であるべきだと筆者は思う。この「営利」「非営利」について、日本人の知的劣化もあり、正確に理解されていない。ここでいう「営利」とは利益の配分を役員が受けたり、関係者に配当したりする意味だ。「非営利」とは非配分・非配当のことを指す。平たく言うならば、大学運営によって生まれた利益を関係者で山分けしてはいけないという意味である。その利益は教育や研究向上のためのミッションに用いられるべきだ。だから、大学はビジネスではあるものの、配当を行うような株式会社的な利益は不必要なのだ。

 大学には教員・職員がいて給料を払わなければならない。教育環境を整える設備投資も必要であり、それには一定の利益がないと賄えない。

実働期間はわずか1年でも才能を次々に輩出

 学生=顧客であるが、実際にお金を出しているのは親が多く、顧客=親なのである。その親が「顧客面」して学校運営に難癖をつける「モンスターペアレント」もいると聞く。親としての責任を放棄した挙句、その結末をすべて大学に押し付けるのはいただけない。

 しかし、私の知る限り、大学というのはセクハラやパワハラなどが横行する「無法地帯」であり、「人面獣心」の輩も多い。教員が女子学生に単位と交換に関係を迫っても不問に付されたり、退職金の出る依願退職として処理されていたりするケースも散見される。民間企業なら即刻懲戒免職のケースだ。こうした破廉恥なケースではなくても、教育・研究といった本業そっちのけで、コンサルタント業務に邁進しているお歴々もいる。

 こうしたことを考えているうちに日本社会の劣化の大きな要因は、大学の教育力の凋落ではないかと感じるようになった。「教育力」には様々な定義があるだろうが、筆者が感じる教育力とは、「師匠」としていかに「弟子」たちを感化する力を持っているかである。

 最近、山口県萩市にある松下村塾跡を訪れ、吉田松陰の業績を改めて確認してその思いが強くなった。吉田松陰については、その業績や人物像についてご存じの方も多いだろうが、念のためにここで紹介する。松陰は1830生まれ。安政の大獄で1859年に刑死する短い人生であったが、遺したものは多い。

松下村塾跡〔筆者撮影〕

 世界史、日本史の両方から松陰が生きた時代を振り返る。世界史では1840年にアヘン戦争が勃発、香港を割譲して隣国の中国では欧米列強の侵略攻勢にさらされ始めた。1856年にはアロー(第二次アヘン)戦争も起こり、中国の植民地化が一層進んだ。この頃の日本は、1853年のペリー(黒船)来航を契機に、開国か鎖国かで国論が二分していた。ロシアも南下を狙っていた。東アジアが大きな変動期であった。アジア市場を取り込もうと各国が競い合う姿は、現在と似ているものがある。

 松陰はペリー来航の半年ほど前、江戸に勉学に向かった。そこでペリーの話を聞き、2度目の来航の折に黒船へ乗り込もうとしたことが発覚し、一度目の投獄生活が始まる。身柄を長州藩に移され「野山獄」に入れられた。1年余入獄し、1855年に許されるも実家で幽閉生活を2年近く送った。そして松下村塾の成立が1857年。しかし、すぐに安政の大獄が始まり、1858年に再入獄し翌年、江戸に送られて処刑された。

 松下村塾の実働期間はわずか1年余。幽閉時代にも学問を教えていたとされるので、その期間を含めても松陰が教育を行ったのはわずか3年ほどだ。短期間での教育にも関わらず、この塾からは明治維新を起こす原動力となった高杉晋作、初代首相となる伊藤博文ら錚々たる顔ぶれが巣立った。

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