雑誌
クルマ作りの常識を破れ!ゼロスタートからの開発。
ハイブリッドじゃなくても脅威の燃費!!第3のエコカー
SPECIAL特集 ダイハツ ミラ イース

チーフエンジニアの苦悩と挑戦
上田 亨エグゼクティブチーフエンジニア

上田 亨エグゼクティブチーフエンジニア 1960年2月奈良県生まれ。1984年ダイハツ入社以来、シャシー設計部門に所属。2008年よりイースの開発を担当

 ダイハツが9月20日発表した新型軽自動車、ミラ イース。CMでも「第3のエコカー」として事前展開されていたことからもわかるように、新時代のエコカーのあり方を提案する、ダイハツ渾身の新型車だ。

 燃費がJC08モードで30・0km/ℓ、従来の10・15モードだと32・0km/ℓにも達する。これは非ハイブリッドのガソリンエンジン車では国内トップ。ミラ イース以前は同じダイハツの軽自動車ミラが10・15モード値27・5km/ℓでトップだった。

 開発を指揮、担当した上田亨エグゼクティブチーフエンジニア(ECE)は、「第3のエコカーとは、ハイブリッドカー、電気自動車に次ぐ低価格なみんなのエコカーという意味」と説明するとともに「エコにはエコロジーの意味と同時にエコノミーの意味持たせている。つまり、価格も安く、燃費もいいクルマがミラ イース」と説明を補足した。

 ミラ イースが誕生するには、少なからぬ壁があった。その誕生秘話を徹底取材した。

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 上田は1960年奈良県に生まれ、1984年ダイハツ工業に入社した。シャシー設計部門に配属され、ABSの設計、その後'98年には軽初のVSCの開発などにたずさわる。2006年にはシャシー設計部部長となり、2008年よりイースの開発を担当。現在はエグゼクティブ・チーフエンジニアの肩書きが示すように、社内に数名いるチーフエンジニアを統括する立場。

徹底的に低燃費を追求することで、それはイコール、原材料の省資源などにもつながると上田亨ECE

 実は上田、入社以来シャシー設計部門の経験が長く、製品企画の経験はけっして豊富ではない。そのため過去の常識やしがらみにとらわれず、ゼロスタートの舵取りをするのに適正だと判断されたのだろう。イースの開発に上田が抜擢されたのは、そのような意味もあった。

「2009年の東京モーターショーにコンセプトカーとしてイースを出展しました。あれがすべての始まりでした」と上田は回想する。

 '09年10月に開催された東京モーターショーで話題を集めたイース。新時代の軽自動車のあり方として、車体をより軽く、よりコンパクトにすることで燃費を向上させるとともに、原材料などの省資源化も実現する。そんなコンセプトで開発に取り組んだ。

「2年前のモーターショーに間に合わせるためにコンセプトカーの開発に着手しました。その時点では燃費についてはJC08については不透明だったこともあり10・15モードで考えていました。10・15モードで30・0km/ℓを達成しようという目標。車体を軽く、小さくするためには3ドアしかない、とコンセプトをまとめていったのです」

 しかし上田は言う。

「2年前とは大きく状況が変わりました。実際に市販モデルとして開発を進めるには、やはり5ドアが必要だという結論になりました。また、コンセプトカーではフェンダーやドア外板に樹脂素材を使っていましたが、コストがかかりすぎる。今回市販したミラ イースに向けて、根本的にコンセプトを考え直す必要があった」

 ミラ イースへの企画見直しは'09年の東京モーターショーの直後にスタートしたという。今回の発表日まで2年を切っていた。一般的に新型車間開発には3~4年の時間が必要だと言われている。

「しかも開発要件は'09年のコンセプトカーよりも圧倒的に厳しいものです。軽量化のための樹脂素材は使わない、ドアを2枚増やした5ドアで成立させる、さらに燃費についてはより厳しいJC08モードで30・0km/ℓを達成する、しかも軽に相応しい価格で実現する」

 上田は自らを追い込むように、すべてをゼロからスタートさせた。

「まずは社内の組織システムを変えるところからスタートさせたのです」

開発現場を徹底改革 すべて原点に立ち返る

 一般的な新車開発では、チーフエンジニアが各部門の取りまとめ役として上に立ち、エンジン、ボディ設計、デザインなどがそれぞれ独立したかたちで各部署に求められた開発目標をクリアするかたちで仕事が進められていく。

 しかし上田はミラ イースの開発にあたり、各部門の壁を取り払い、互いに顔が見える距離で仕事ができる態勢を作った。特別プロジェクトチームである。

「会社として、新車開発のスタイル改革に向けての新しい仕事の進め方の雛型にしようとの判断がされたということ」と上田は言うが、開発チームの人事権まで含め、チーフエンジニアの上田がすべての権限を掌握し一元的に管理する態勢でミラ イースの開発は進行した。

 このシステム改革が、わずか2年足らずの短期間でまったく新しいクルマを開発、世に送り出すことができた最大の要因だ。

「とにかく仕事がスムーズに進むようになりました。燃費という絶対的な目標を達成するのに、エンジン側でどうしてもクリアできない問題に行き当たった場合、ではボディ側でフォローしようという態勢が現場レベルでスムーズにできるようになったことで開発期間が大幅に短縮できた」と上田は言う。

「設計素質という考え方を取り込みました。設計部門がする、素質ナンバーワンの図面を作る、という意味です」

 こうした考え方で60kgの軽量化も実現することができたのだ。設計図の無駄を徹底的に検討し、必要ならばゼロに立ち返って効率のいい材料配置を考え直す。

「軽量化のためには部品点数を減らすことが効果的です。ですが、従来のボディ骨格をベースに補強材などの部品点数を減らしてしまえば、強度や剛性が低下してしまう。ならば、補強材を用いなくても強度、剛性の出るボディ構造を設計しよう、ということです」これが上田の言う設計素質の考え方だ。部品点数を抑えることで使用する原材料が少なくなり、また製造工程も削減できる。軽量化と同時に低コスト化も実現したのだ。

 いままでにない開発のスタイルで、当然各部門の担当者間での衝突はあったという。しかし、それは〝いい意味での〟衝突で、それまで自分たちの仕事の領域しか知らなかった各担当者たちが、他の部門の仕事の内容を知ることで相互理解を深め、より柔軟な発想で開発に取り組むことができたという。

「ミラ イースについては、なんの〝飛び道具〟も持っていないということが最大のアピールポイントです」と上田は自信たっぷりに語りかける。

 飛び道具とは、例えばハイブリッドのようなわかりやすい新技術という意味である。特別な新技術を用いなくても、既存の技術をしっかり見直して、徹底的に無駄を省いていくことで車体の軽量化を実現。そしてこれまで為し得なかったJC08モード30・0km/ℓという驚異的な低燃費を実現することができたのだという自負であろう。

79万5000円からという車両価格もまた、無駄を省くという設計思想のたまものである。

(本文中敬称略)

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