中国
胡錦涛国家主席に正月休みを返上させた「北京砂漠」の水不足
官僚の「水利利権」で思うように対策も進まず
〔PHOTO〕gettyimages

 北京っ子が年初から'渇望'していたのは、マンションでもマイカーでもなかった。

 それは、一陣の「慈雨」であった。

 北京は2月1日に、昨年秋以降、100日間も雨が降らないという記録を作った。そのため、ただでさえ乾燥する冬場の大陸性気候なのに、町は空っからの空っから。そのせいで、北京っ子の喉は渇き、目は霞み、指はひび割れ、肌は嵩んで、さながら「旱魃ボディ」と化していたのだ。北京市内の方々で火事が頻発していることに加えて、最近、荒んだ事件が絶えないのも、この異常気象と相関関係があるに違いないと、私は睨んでいる。

 1月15日に、北京市の夏占義副市長が開いた、年に一度の記者会見では、水問題に質問が集中した。夏副市長は、「河北省から2億7000立方メートル分の水が届いており、十分賄える」と、何度も胸を張った。

 だが、その後も水不足は深刻化する一方で、市民の不安は日増しに募っていった。そこで1月末には、北京市水務局が、近郊の貯水量1億立方メートル以上の「4大ダム」のうち、懐柔ダムと海子ダムは水量が減ってきているものの、密雲ダムと官庁ダムは、いまだ水量を保っているので安心してほしいと、市民に呼びかけた。

 しかし先週、ゴルフの帰りに密雲ダムの近くを通ったという日本人駐在員の話によれば、北京最大の飲水供給源である密雲ダムでさえ、すでに相当な「危険水域」に達していたという。

 実際、北京市郊外の市民2252人が、すでに水のない生活を強いられていると、新華社通信が報じた。また、これまで200m掘れば湧き出ていた井戸水も、すでに800m近く掘らないと、水源に至らないという報告も出ている。未曾有の経済発展を誇る一方で、「北京砂漠」は、刻々と迫っているのだ。

 旱魃は、北京市ばかりか、天津市、河北省、河南省、山西省、山東省、安徽省、江蘇省など、広範囲にわたっている。中国最大の小麦の穀倉地帯である河南省も、野菜の宝庫である山東省も、被害は甚大だ。そしてこのことが、生鮮食料品の物価高騰に拍車をかけ、国民の生活を苦しめるという悪循環を起こしている。

 もともと、北方の6大水資源地域(松花江、遼河、海河、淮河、黄河、西北内陸河)は、南方の4大水源地域(長江、珠江、東南諸江、西南諸江)に較べて、面積は63・5%、人口は46・1%、GDPは44・5%、耕地面積は60・5%を占めているにもかかわらず、水資源は全体の19・1%しかない。

 そこへ持ってきて、今回の旱魃が襲ってきたので、中国語で言う「雪上加霜」(泣きっ面に蜂)なのだ。政府は、「南水北調」(南の水を北へ運ぶ)と呼ぶ雄大な運河建設計画を進めているが、これが完成するのは、はるか3年後のことだ。

 こうしたタダならぬ状況に、胡錦濤政権は、喫緊の対応を迫られた。さすがに胡主席は、最高学府の清華大学水利学科卒業だけあって、この問題の深刻さを熟知していたようだ。

水利問題を「一号文件」に

 実際、胡主席自身、2月3日の春節(旧正月)休みを返上して、急遽、北京近郊の保定を視察した。村民たちを集めて、「われわれは60数年前の偉大な革命の聖地を忘れない!」「われわれはどんな困難にも打ち克てる!」などと鼓舞し、村民と一緒に餃子を作ったり、軍人たちと食事したりした。押し寄せる旱魃の危機に対して、先手を打って河北省の住民たちを、ひいては中国中央テレビ(CCTV)のニュースでその姿を目にすることになる数億人の中国北方の住民たちを鎮めたわけである。

 中国政府は、毎年の年初に発する最も重要な通達を、「一号文件」と呼んでいる。胡錦濤主席が国政を担うようになって以降、「一号文件」は7年連続で、農業政策に関する通達だった。だが胡主席は、今年1月末に、「中国共産党中央委員会、国務院の水利改革発展の加速について」というタイトルの発令を、一等最初に出した。

 就任以来初めて、水利問題を「一号文件」に持ってきたのである。それほど重視しているという意思表示に他ならない。毎年1割以上、水利建設への投資を増加させ、今後5年間で、過去5年間の3倍以上にあたる2兆元(1元=12・6円)を投資することや、公共の土地を売却した場合、その収入の1割を水利建設に充てる義務などを盛り込んだ。

 だが、旱魃が深刻化し、水問題が人々の俎上に上るにつれて、それに付随する様々な問題も、白日のもとになった。一例を挙げれば、いくら水利建設に投資しても、技術が旧態依然としているため、その効率は日本の半分にも満たないこと、水質汚濁を始めとする環境汚染によって、最大で毎年GDPの3割にあたる4兆元もの損失を出していることなどである。

 そして何より、複雑な行政システムがネックになっていることが、問題視されている。水利問題に関しては、水利部を始めとして、環境保護部、国家発展改革委員会、国土資源部、農業部、国家林業局、交通運輸部、住宅城郷建設部、衛生部、国家資産監督管理委員会、国家電力監督管理委員会などが、複雑に絡んでいて、それぞれのラインが、北京の中央から、全国津々浦々にまで及んでいる。

 まさに、李鵬元首相以来の水利利権の構図である。つまり、いくら水利建設への投資を増やしたところで、官僚の利権を太らせるだけで、「国進民退」(国が発展し民が萎縮する)が加速化されるだけだというわけだ。

 このように、少雨が市民に与える影響はもちろん大きいのだが、それに加えて、上水道、下水道、工業用水、農業用水というそれぞれに、難問を抱えているのである。

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