密かに進む外資による水源林の買収
資源保全、安全保障に無防備な土地制度

特集[日本の森が危ない!?]
万年野党事務局
日本の森が外国資本に狙われている――。
ここ数年、このような疑念が各地で湧き上がっている。

不動産売買が原則自由な日本だが、勢いを増す中国など大陸マネーが、貴重な地下水や河川の源流となっている水源林を買いあさっているのではないかという懸念が強まるに至って、与野党が双方から規制に向けた法整備への動きが出始めた。

しかし、背景には、国土保全や安全保障に無頓着な国民性、林業の衰退による森林放棄、土地所有者を確定する地籍調査の遅れなど、日本の土地を巡る根源的な問題が浮き彫りなっている。
民主党の「外国人による土地取得に関するプロジェクトチーム」の初会合=参議院議員会館会議室で1月20日

 通常国会開会直前の1月20日、参議院議員会館の会議室で民主党の「外国人による土地取得に関するプロジェクトチーム」の初会合が開かれ、代理出席も含めると100人近い衆参両院議員が集まった。

 座長の一川保夫参院議員は「日本の高齢化や過疎化が進んでいる中で、外国人や外国資本による土地の取得が増えているのではないかといわれている。北海道や離島、さらに安全保障上大事な施設や原子力発電所の周辺などはどうなっているのか。現行の法制度がどうなっているのか。しっかりと知り、どういう基本的な考え方で臨んだらいいのか。一つの方向性を出していきたい」とあいさつした。

 一川座長の率直な発言が、森林売買を巡る現在の問題点を直截に言い表している。まず実態が分からないことでさまざまな臆測や疑心暗鬼を呼び起こしている。

 林野庁が昨年12月9日、外国資本による森林買収の全国調査結果を初めて発表した。国土交通省と連携し都道府県を通じての調査だが、それによると、2006~09年間に北海道で29件、神戸市で1件の計30件、計574ヘクタールが確認されたという。国土の67%を占める森林面積約2500万ヘクタールに比べれば極めてわずかだが、この数字は実態を表していないと見る向きが多い。

 日本では、農地法で農業委員会の審査が入る農地の他は、土地の売買は原則自由だ。森林の場合、国土利用計画法により、1ヘクタール以上の売買は契約締結後2週間以内に市町村を通じて都道府県知事への届け出が義務付けられている。1ヘクタール未満の取引は法的に全く把握できない。大規模な売買の届け出情報についても、購入者のチェックは厳密でなく、都道府県は個人情報保護を理由に開示に前向きでないため、外資の有無などの確認は難しいのが実態という。

 不十分ながらも林野庁が調査に重い腰を上げたのには理由がある。各地方からの風評が地方議会で取り上げられ始め、一部マスコミが報道し、国会でも取り上げられたからだ。

 民主党PT事務局長の行田邦子参院議員が昨年10月25日の参院予算委員会で外国資本による森林買収問題について、「外国資本による土地取得の確認は困難だ。山林売買の規制がないことをどう考えるか」とただした。馬淵澄夫国土交通相(当時)は「わが国において土地取引は安全性や適正化を図ることを目的にしており、特段の法的規制はない」と認めた。

 行田氏は「外国人土地法という法律があるが実質機能していない」とも指摘した。これに対し、菅直人首相は「外国人土地法というのが存在していることを質問通告されて初めて知った」と正直に答えたが、「法務省にどういうふうに生かすことができる可能性があるか調査してもらう」と答弁するにとどまった。

 知る人が少なかった外国人土地法は1925(大正14)年に制定された。第4条で「国防上必要な地区においては、勅令によって、外国人等の土地に関する権利の取得を禁止・制限できる」としているが、敗戦で勅令が廃止され、その後新たな政令が定められていないため休眠している。

 軍事的な色彩が強い同法をそのまま生き返らせることには与野党双方に抵抗感が強い。また、外国人などに限って不動産取引を制限する法制化は、WTO(世界貿易機関)の「サービスの貿易に関する一般協定」に違反する可能性が高く、国際関係上も事実上不可能という。

自民党議員が関連法案提出済み

 森林や水源への外資進出問題では、自民党の動きの方が早かった。

 高市早苗衆院議員は昨年4月、党内に呼びかけ「日本の水源林を守る議員勉強会」を立ち上げた。そして昨年11月、高市氏が中心になり、新たな森林所有者の市町村長の届け出を義務化することなどを盛り込んだ森林法改正案と、地下水利用規制緊急措置法案を議員立法で提出した。政局絡みの臨時国会では審議されなかったが、野党提案でありながら廃案にならず、今通常国会への継続審議扱いになっている。

 高市氏は当初、外国人土地法を「眠りから起こし」、空港や港湾、基地、国境沿岸、離島、資源埋蔵地区などを守る法改正検討したが、法案準備段階で衆議院法制局や外務省から「条約のカベ」を指摘され、断念したという。そのため、森林取得や地下水利用に対する無防備な現行法制を少しでも改善し、「日本人であれ外国人であれ、森林の水源涵養機能や防災機能、地下水資源を守っていただく」ことを目指した立法化にシフトした、と説明する。

 民主、自民両党ともこの問題に関わっている議員は、森林と水、安全保障上重要な施設や地域を保全する必要がある、という認識では一致している。外務、法務、国交、農林水産など関係省庁との立法技術上の検討を通じて、今通常国会中の法整備が期待される。
 

北海道、森林取引届け出条例制定へ
ニセコ町は水源保全へ買収計画

 林野庁の調査で海外の企業、個人による森林買収(10年11月末現在)の全国30件のうち29件を占めた北海道。外資に狙われている証しとも見られるが、本腰を入れて売買の実態調査をしているのが北海道だけという事情もある。

 北海道や、その中でも外資による土地取得が多い北海道ニセコ町は水資源の保全などに危機感を募らせ、森林売買の際の届け出基準の厳格化や水源地の開発規制など独自の条例制定を目指している。

 北海道における外資による森林買収問題は、昨年6月に自民党道議が道議会で取り上げて道の対応を求めたことで関心が集まった。道は同8月に「土地・水対策連絡協議会」を設置し、実態把握に乗り出した。

 国土利用計画法に基づく土地売買等届出書などを基に把握した範囲では、外国の企業や個人による買収は、29件のほかに、森林を所有していた法人が外資企業に買収されたケースなどを含め少なくとも計33件、計約820ヘクタールに上った。国別では中国(香港)12件(241ヘクタール)▽シンガポール5件(25ヘクタール)▽米国4件(15ヘクタール)――の順で、中国資本の多さが目立つ。

 買収された林地を市町村別にみると、いずれも羊蹄山のふもとに位置し、リゾート地として外国人観光客も多い倶知安町13件(326ヘクタール)とニセコ町10件(97ヘクタール)で件数の約7割を占める。1970年代に買収された土地もあるが、ほとんどが06年以降の取得でここ数年の間に急増している。

 33件には、水源地が含まれる可能性のある水土保全林が16件、531ヘクタールあるほか、陸上自衛隊駐屯地から約3㌔以内と近接している林地も3件、109ヘクタールある。届け出時の土地取得目的は「資産保有」とするものが多いが、詳しい実態は分からないのが実情だ。

 外資による取得自体が悪いわけではないが、道議会では「世界的な水資源不足分を見越して、ビジネスチャンスとして、水源を購入しようとしているのではないか」との指摘や、安全保障の観点から土地取得に規制がないことを問題視する声が上がっている。道の担当者も「森林の整備や管理、災害で荒れた時にどうするのか。国内の所有者でさえ連絡が取りにくいケースもあるので、海外ではなおさら難しい場合もあると思う」と話す。

 外資による森林取得の問題をきっかけに、そもそも土地取引を十分に把握する仕組みや、外資による取得の規制がない問題も浮かび上がった。

売りに出されている森林=10年7月、北海道倶知安町で(東京財団提供)

 また、道が水土保全林や06~08年に30ヘクタール以上の森林を取得した企業など2141社に郵送で土地の所有目的や、長期的な所有かどうかをたずねるアンケート調査をしたところ、約4割にあたる913件が宛て先不明で返送されている。外資の33件についても回答があったのは1件のみだった。

 道はさらなる実態把握のため、湧き水がある土地(91カ所)▽水道、農業、工業の各用水の取水施設がある土地(785カ所)――を優先して所有者の確認調査を急いでいる。

 こうした調査と並行して、道は独自規制の検討も始めた。高橋はるみ知事が昨年11月の道議会で、「北海道の豊かな水資源は将来にわたって引き継いでいかなければならない貴重な財産で、水源をかん養する森林の役割が極めて重要」と水源地保全の必要性を強調。所有者の把握を容易にするため、新たな条例を11年度中に制定する方針を表明した。

 道は条例に、届け出が必要な面積を引き下げることなどを盛り込みたい考えだ。また、土地取引の事前届け出や、水源地を保護するための何らかの開発規制が可能かどうかも焦点となる。今後、有識者や市町村の意見を聴く場も設けて成案化する。

 国に対しても、森林売買などの情報の的確な把握に向けた法制度整備のほか、条例では対応が難しい土地売買について、水源地域など重要な森林については規制を検討することを要請している。

 一方、外資による土地取得が目立ったニセコ町も、水資源保護の観点から、独自の対策に乗り出している。

 同町企画課などによると、林地の10件を含め、外資による町内の土地取得は07年度以降で13件、約50・5ヘクタール。この中には、町が上水道の水源としている15カ所のうち2カ所が含まれ、マレーシアの企業が保有している。

 同町ではまず、この2カ所を含めた民有地にある水源5カ所の用地買収を計画。このうち、外資所有の2カ所については保有企業が売却に合意し、雪解けを待って対象面積を確定して価格交渉に入る。他の所有者にもすでに売却を打診している。

 さらに、水源保護と地下水くみ上げ規制のため新たに二つの条例の策定を進めている。水源保護では、水源の上流域を「水源保護地域」に指定し、指定地域内は、ゴルフ場や温泉施設など排水や地下水のくみ上げで水源に影響を与える恐れのある施設の設置を認めない考えだ。

 地下水規制では、くみ上げの際に届け出を義務付けることや、多量の地下水をくみ上げる場合には許可制とすることなどを検討している。いずれも年度内の成立を目指す。町民生活課の中塚寿昌課長は「かけがえのない水資源を守るため、町でできることはしたい」と話している。

 一方、倶知安町は、町内の水源は6カ所でいずれも町有地内にある。同町企画調整課は「水源地を一般の方が持っているニセコ町とは状況が違い、水資源保全上の心配はない」と、町独自の規制は考えていないという。

 このほか、都道府県レベルでは、新潟、長野、福井、鳥取、大分、熊本の各県で、外資よる買収情報の収集や実態調査に乗り出すか、議会の決議、条例化への動きなどがみられるという。東京都水道局が10年度から、多摩川上流の山梨県域にまで及ぶ水源林の買収に着手している。外資による買収や転売を防ぐ手立てとして、公有地化が有効だが、新たな財源確保が難しい自治体が多いのが実情だ。

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