悲哀!角栄の"晩年"にそっくり小沢一郎の落日
勝てないから見切られて、人が離れていく。焦っても、かつてほどの力(カネ)がない。
そして「どじょう」に寝返るユダが止めを刺す
〔PHOTO〕gettyimages

 かつて田中角栄は、「頂上を極めるためには敵を減らすことだ」と語った。だが弟子は、その言葉を実践することができなかった。政界一の憎まれ役になった末、政治家・小沢一郎の黄昏が迫っている。

腹心たちが見放した

「小沢はもう終わりだな」

「決まってるじゃないですか。終わりですよ」

 野田佳彦内閣が発足した直後のことである。今回の組閣で政務三役に抜擢された議員2人が、密かにそんな会話を交わしていた。

 2人は小沢一郎元代表に対抗する民主党内の非小沢勢力・・・・・・ではない。彼らはともに、小沢グループでは中核と目されるメンバーだ。

 自他ともに認めるバリバリの小沢系---にもかかわらず、2人は小沢に対する憤りを隠さず、すっかり見限った様子だった。

「なぜ小沢は、代表選の前に野田と会っていたんだ。あれは俺たちに対する重大な裏切り行為だよ」

 民主党代表選が告示される直前、8月下旬のこと。小沢はかつての同志・細川護煕元首相を介し、野田首相との極秘会談を行った。

 細川の証言によれば、小沢と野田の会談時間は約40分。ともに幹部として長く同じ党に属していたにもかかわらず、両者がサシで話をするのは、これが初めてだったという。

 会談は終始、和やかな雰囲気だったようだ。細川によれば、野田が代表選で披露した〝どじょう演説〟に対し、小沢は「よかった」と電話で感想を伝え、さらに側近の輿石東参院議員会長が党幹事長に就任したことについても、「とても良い人事だ」と、野田を手放しで褒めたという。

 だがこの極秘会談は、小沢を支えるべく、野田や前原誠司政調会長、仙谷由人政調会長代行ら「反小沢勢力」との闘争を繰り広げてきた小沢の側近たちにとって、「許しがたい裏切り」にしか思えなかった。

 小沢グループのベテラン議員の一人は、忌々しげにこう語った。
「野田だけではない。小沢は我々には何も言わず、仙谷とも会っていた。結局、代表選が終わったら野田・仙谷にスリ寄って裏で手を結ぶつもりだったんじゃないか」

 冒頭で「小沢は終わり」と言い放った政務三役の一人も、こう吐き捨てた。

「これじゃあ来年9月(の代表選)も、野田が続投するのは決定的だな。小沢はもう終わったんだよ。今後、たとえ裁判がうまくいって無罪になったとしても、総理を目指すなんてとても無理だ。せいぜい野田の下で、副総理止まりだろうよ」

 2年前の政権交代の時点で、小沢とその「軍団」の力は、まさに他を圧倒していた。当時の鳩山由紀夫首相以下、閣僚も党役員も、小沢〝大〟幹事長に逆らうことはできなかった。

 その影響力は、小沢が政治の師と仰ぐ故・田中角栄元首相を彷彿とさせるものだった。角栄は'76年にロッキード事件で失脚するも、その後の内閣は「角影内閣」「直角内閣」などと呼ばれ、政界のキングメーカーとして君臨した。

 時の総理も大臣も逆らえない、圧倒的な権力。小沢はほんのひと時、師匠に並びかけたのかもしれない。だが、絶頂は長く続かなかった。

 角栄がロッキード事件の裁判の過程で力を失っていったように、小沢もまた「政治とカネ」の裁判を抱え、昨年6月に幹事長を失職する。以来、自ら代表選に出馬するなど、幾度となく復権を図ってきたが、今回の代表選では野田に敗北。9月26日には、元秘書の大久保隆規被告ら3人の政治資金規正法違反事件の判決が控えている。小沢の政治生命は、いよいよ「落日」を迎えようとしているのだ。

 代表選で事実上の3連敗を喫した直後、小沢は自身の傘下にある3つのグループ、「一新会」「北辰会」「参院小沢グループ」の統合を発表した。約120名を一つに統合し、来年9月に予定される次回代表選に備えるため、と見られている。

 ところが驚くべきことに、「絶対服従」のはずの配下の議員たちが、小沢の号令に従わなかった。それどころかグループ内から統合案への異論が続出し、計画が頓挫したのである。

 小沢グループの議員たちからは、こんな反対意見が次々と飛び出した。

「小沢さんが有無を言わさず1人で統合を決めてしまった。代表選の敗因の分析もしないうちに、統合という結論ありきはおかしい」(小沢グループ中堅議員)

「代表選の連敗により、党内で反小沢票のほうが過半数を占めていることがはっきりした。小沢グループの数は減る一方だ。まずは仲間を増やすべきなのに、グループ統合論になるのは解せない。統合なんてすれば、締め付けを嫌がって仲間がさらに減るだけ」(同若手議員)

「いくらタマがないからと言っても、西岡武夫参院議長や輿石東参院議員会長なんていう、突拍子もない名前が飛び出した時点で、政治的に終わっている。小沢さんは、カンがすっかり鈍ってしまったのではないか」(同ベテラン議員)

 小沢グループは、かつての「田中軍団」を彷彿とさせる、鉄の結束力を誇ると言われてきた。

 しかし、領袖の角栄本人を含め、その後に何人もの総理大臣を輩出し、七奉行と称された幹部など人材の宝庫だった旧田中派に対し、小沢グループはまだ総理の椅子を手にしたこともなければ、お世辞にも人材が豊富とは言えない。

 政治評論家の小林吉弥氏はこう評する。

「田中元首相と小沢氏の人間性の違いが、集団の特性にも影響しているのでしょう。田中氏のもとには、彼の人間的な魅力に畏怖や尊敬の念を持った有能な人間が集まり、それが政治を動かす力に繋がっていた。

 一方で小沢氏の場合、田中氏が持っていたような懐の深さ、心の広さを感じることが少ない。小沢氏の周囲には、『選挙でバックアップしてもらえるかどうか』など、損か得かの利害関係に基づいた人間関係しかありません。そこが田中氏ともっとも異なる点であり、小沢氏が決して田中角栄にはなれない所以なのです」

 その権力の源泉がカネであるのは共通しているが、角栄の人間力で結びついていた面もある田中軍団に対し、滅多に人前に姿を現さず、引きこもりがちで人見知りな小沢の率いる軍団には、そうした「陽」の雰囲気がほとんどない。

 それでも、どうして表面上の結束を保っているかと言えば、カネをバラまき、一部の側近が「恐怖政治」を布いて、新人・若手の不満を抑えつけているのが実態だ。

 同グループの若手の中には、代表選前に先輩議員から「てめえ」呼ばわりで怒鳴られ、「従え」と恫喝され、渋々、方針に従ったという者が少なからずいる。

 そんな空気に辟易していた新人らが、「グループを統合し結束をより強化する」などと言われたら、「これ以上はもうごめんだ」と考えるのは当然だろう。

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