菅再改造内閣、与謝野氏起用が吉か凶か!?
見通し立たない通常国会の予算審議

霞が関ファイル [ 政局]
内閣再改造で国会に臨んでいる菅直人首相。左は与謝野馨経済財政担当相=首相官邸で開かれた政府・与党社会保障改革検討本部で

 菅直人首相は、昨年の臨時国会で問責決議を受けた仙谷由人官房長官、馬淵澄夫国土交通相を交代させる内閣改造を行い通常国会で11年度予算案審議に臨んでいる。菅再改造内閣の目玉は、自民党時代に財務相などを歴任し、財政再建論者として知られる与謝野馨氏(72)=たちあがれ日本を離党=を経済財政担当相に起用したことで、首相は6月をめどに税と社会保障の一体改革案をまとめるよう指示した。しかし、自民党など野党は反発を強め、民主党内でも与謝野氏の増税積極論にまとまりきれていない。ねじれ国会のもとで予算が成立するかどうか極めて不透明な状況だ。

 菅首相は内閣の要とされた仙谷官房長官を留任させた場合は、野党が予算案審議に応じないと判断、「泣いて馬謖を斬る」形で枝野幸男前幹事長(46)を後釜に据えた。仙谷氏は党代表代行に回り、「社会保障と税の抜本改革調査会」会長に就任した。首相は閣僚経験の少ない枝野氏を補佐する狙いで、藤井裕久元財務相(78)を異例ともいえる官房副長官に起用した。藤井氏は主に税と社会保障を担当するが、高齢であることから、細野豪志前幹事長代理(39)を首相補佐官に任命、藤井氏をサポートさせる。

 仙谷氏と同様、問責決議を受けていた馬淵国交相の後任には、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に消極的とされた大畠章宏前経済産業相(63)が横滑りし、その後任にはTPP推進派で経済財政担当相だった海江田万里氏(61)が回った。

 海江田氏の後任に起用されたのが、同氏と選挙区が同じ(東京1区)で、自民党政権下で官房長官、財務相などを歴任、昨年4月「たちあがれ日本」の設立に参画して自民党を除名された与謝野氏だ。経済財政担当相に加え、社会保障と税を担当する。小選挙区でともに戦い続けきた両氏が同時に閣内に入るというのは、政権交代可能な2大政党を導く小選挙区制において「常識では想定していないケース」(民主党関係者)。海江田氏も思わず「人生は不条理だ」とつぶやいてしまった。

 そこまで思い切った人事を断行した菅首相は1月14日の内閣改造後の会見で、税と社会保障の一体改革に意欲を示し、年金改革では民主党が掲げてきた全額税方式にこだわらない姿勢を示した。さらに、貿易の自由化を進めるTPPへの参加問題も主要課題とし、6月をメドに対処方針を決めることにしている。

 首相は21日の社会保障改革検討本部の初会合で、4月に年金・医療などの社会保障の改革案をまとめるよう指示した。6月に税と社会保障の一体改革案をまとめる〝二段構え〟の改革となる。これについて与謝野担当相は「税や負担が増えることに関して国民的な合意を得ることは、政治家のやる仕事のなかで最も難しい仕事だ」と述べながらも、自民党時代に培った手法や人脈を駆使し、民間有識者も交えた検討会議の設置など、着々とアイデアを出している。

共通番号制度推進本部設置へ

 24日には税や社会保障の情報を一元管理する共通番号制度の実務検討会を開き、制度導入に向けて国民の理解を得るため、「番号制度創設推進本部」を2月にも設置することを決めた。座長の与謝野担当相は「番号制度が法案まで検討されるのは初めて。強力に作業を進めてほしい」と指示し、今秋の法案提出、15年の導入に向けて番号制度の基本方針をまとめることになった。共通番号制度はフランスを除く先進各国ですでに導入されており、所得の正確な把握に欠かせないとされる。

 一方、首相は21日、内閣改造を受けて各府省の事務次官を官邸に集め「これまでの政治主導には行き過ぎがあり、問題があった」と述べ、過度な政治主導を修正する発言をし、「各省の次官、局長レベルでの調整が必要だ」と事務方の調整を積極的に行うよう訓示した。首相は「政治家の方も『自分たちだけで大丈夫』では物事が進まないとしっかり理解してきている。いい形の協力関係をお願いしたい」とも述べ、官僚排除ではない姿勢を明確にした。

 首相が税と社会保障の一体改革に懸命なのは、11年度予算は何とか編成したものの、毎年の国債発行額が税収を上回るいびつな財政構造をいつまでも続けてはいられないという危機感からだ。

政府は昨年6月に閣議決定した「財政運営戦略」で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を20年度までに黒字化し、15年度までにPBの国内総生産(GDP)比の赤字幅(10年度は6・4%)を半分にする財政健全化目標をうたった。

 しかし、内閣府が21日にまとめた「経済財政の中長期試算」では20年度のPBは23・2兆円の赤字となる。黒字化を達成するには、赤字分を全て消費税で穴埋めすると仮定すると、消費税1%分は2・4兆円となるため現行の消費税率5%に加え、9・6%の引き上げが必要となる。社会保障改革に伴い歳出が増えれば、さらに引き上げ幅は増すことになる。

 このような危機的な財政状況から、首相は24日の所信表明演説で09年の衆院選で掲げた民主党のマニフェストについて「実現したものもあるが公表から2年を区切りに国民の声を聞き検証する」と述べ、この夏に見直すことを表明した。子ども手当の完全実施(月額2万6000円)断念など、マニフェストの目玉政策はすでに大幅にトーンダウンしている現状がある。

 仙谷党代表代行は「麻生太郎内閣当時(09年度)の年間46兆円の税収で組んだマニフェスト。前提が違ってきており、修正を議論しなければ破綻する」と説明しているが、野党からは「国民との契約がうまくいかないならリセットすべきだ」(谷垣禎一自民党総裁)などと批判の声が高い。

 内閣改造の目玉だった与謝野経済財政担当相の起用も、「辞職して民間人として入閣するのが道議だ」(谷垣総裁)など野党からはそっぽを向かれている。加えて鳩山由紀夫前首相が「もし、野党とのパイプを期待しているなら逆効果だ」と語るなど、与党内からも疑問視する声がある。

 ねじれ国会、低迷する支持率、小沢一郎元代表の「政治とカネ」問題を抱え、何とか突破口にしたいと、野党も避けては通れないはずの「社会保障と税」の政策協議を持ち出した菅首相だが、その思惑通りに与野党協議が進むかどうかは、かなり困難な見通しだ。
 

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