中国
落ちこぼれ科学者がいまや「レノボのドン」楊元慶の背後に中国政府あり
IBM、NECを次々に買収
〔PHOTO〕gettyimages

 このほどNECが、中国最大のPCメーカーの聯想(レノボ)との全面提携を発表した。こちら中国では、「聯想が日本最大のPCメーカーNECの買収に成功」と一斉に報じられた。この6月までに聯想がNECに1億7500万ドルを支払い、5年後に2億7500万ドルを支払うことで、NECの個人用パソコン部門を完全買収する予定だという。

 聯想は2004年に、17億5000万ドルでIBMの個人用パソコン部門を買収したが、この時の「アメリカ制覇」に続き、今度は「日本制覇」を成し遂げたというわけだ。聯想集団の楊元慶CEO(46歳)は東京で、「企業買収はわれわれの最大の'武器'だ!」と中国メディアに興奮気味に語り、その雄姿が中国全土に映し出された。

 聯想は、1984年に、中国科学院計算技術研究所の科学者だった柳伝志会長(66歳)が、北京のシリコンバレー「中関村」で興した会社だ。柳会長は現在でも、「聯想のドン」として君臨している。私はこの春節(旧正月)の連休を利用して、かつて中国科学院で柳会長の教授だった旧知の老科学者を訪ねた。「NEC買収のニュースに驚いた」という老科学者は、感慨深げに語った。

「柳伝志が中国科学院にやって来たのは、確か1970年頃の事でした。当時は文化大革命の嵐が吹き荒れていて、広東省珠海の農場からやって来たひょろっとした青年が、柳だったのです。その後、われわれの助手として働いてもらったが、科学者としては凡庸でした。本人も途中で科学者の道を諦め、総務畑に移った。

 1984年になって、その柳が、『鄧小平の改革開放政策の波に乗って、われわれも中国のIBMを創ろう』と提議した時は、『アジア最貧国の中国にそんな会社は創れない』と、反対したものです。当時は、われわれのもとにも3つの大部屋にまたがるような大型コンピュータが一台あったきりで、中国のコンピュータ産業は五里霧中の状態だったのです。

 それでも柳の発案に、10人の同僚が同意して、20万元(現在の邦貨に換算すると250万円)の元手を捻出して起業しました。それが今や、アメリカ最大のIBMを買収し、日本最大のNECを買収する巨大企業に成長したのだから、まったく信じられないことです」

 この老科学者は、自宅隣にある聯想の巨大な本社ビルを、窓越しに眺めながら続けた。

「聯想は、始めはIBMの中国国内の代理商を細々とやっていました。それで、1980年代末に初めて社員の公募をし、その時応募してきたのが、中国科学技術大学で修士号を取ったばかりの若い楊元慶でした。柳は楊を息子のように可愛がり、年若いのに異例の出世をさせたのです。

 以来、柳が社内外で睨みを利かせ、楊が自由奔放に事業を拡大していくというのが、聯想の経営スタイルとなりました。IBM買収の時も同様でしたが、今回のNEC買収も、おそらく楊が発案し、柳が社内と共産党幹部を説き伏せたのではないでしょうか」

美人秘書に英語を通訳させ

 私は柳伝志会長とは面識がないが、楊元慶CEOには、一度だけ話を聞いたことがある。2004年に、あるヨーロッパ系の団体が北京で主催したパーティに、招かれて行った時のことだ。当時、IBMを買収し、一躍「時の人」となっていた楊氏が、そこへ顔を出したのだ。この時、38歳の楊氏は、美人の秘書を4人も侍らせ、意気揚々としていた。英語は苦手のようで、欧米人との会話の際には、秘書の一人に通訳させていた。

 私はその時、楊氏に、「5年後、10年後にどのような見通しを持ってIBMを買収したのですか?」と聞いてみた。すると楊氏は、「明日のことなんか誰にも分からないさ。でもチャレンジしてみることが大事なんだ」と、ぶっきらぼうに答えた。大企業の経営者というよりは、無鉄砲でやんちゃな坊やのように映った。

 いまにして思えば、柳伝志という「押さえ」が利いているからこそ、楊元慶の「やんちゃ経営」も成り立つのだろう。楊氏はこの5年ほどは、アメリカに拠点を移し、買収したIBMの経営を行っている。

 ところで、今回の「NEC買収劇」で見誤ってならないのは、聯想は、完全な民間企業ではないことだ。現在の聯想は、2009年の売上げ1063億元(1元=約12・6円)という聯想ホールディングスの下に、聯想集団、神州数石馬、聯想投資、融科智地、弘毅投資という5つの企業が連なっている。IT、投資、不動産の3業種にまたがり、聯想ホールディングス、及び神州数石馬を除く4社の会長に、柳氏が収まっている。

 楊氏は、聯想集団のCEOである。そして、聯想ホールディングスの株式の36%は、いまだに中国科学院が保有しており、最大株主となっているのだ。中国科学院は、言うまでもなく中国政府直轄の国策研究機関である。つまり聯想は、あくまでも中国政府の国策に則って企業経営を行っている「国有企業」なのである。

 社会主義を標榜している中国では、上場している主な大企業は国有企業である。昨年の国有企業全体の売上げは、前年比32・1%増の16兆6968億元にも達し、純利益も前年比40・2%増の8489億元に上った。実に半年間で、国有企業が日本の国家予算分を稼ぎ出している計算だ。

 そして現在、中国政府が掲げる最大の国策とは、中国企業の「走出去」に他ならない。これは「走り出て去る」の言葉通り、中国企業の海外進出奨励策である。かつて日本政府がODA(政府開発援助)などを通じて日本企業の海外進出をバックアップしたように、いま中国政府は、中国企業の海外進出を、全面的に後押ししているのだ。今回の聯想の「NEC買収劇」も、まさにその典型例と見るべきなのである。

 現在の中国は、欧米が250年、日本が150年かけてきた経済発展の道のりを、わずか30年余りで突き進んでいる。そのため中国企業は、地道に新技術を研究したり、新製品を開発したりしている余裕がない。そこで政府の懐にモノを言わせて、「そんなものは買ってしまえ」という発想になるわけだ。

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