減税・小さな政府を掲げた「愛知の反乱」は「平成の薩長連合」になれるか
「増税=大きな政府」の菅政権を揺さぶる

 菅直人政権が日を追うごとに、かつての自民党のようになってきた。国会論戦を聞けば聞くほど「いったい民主党は何をしたかったのか」とあきれてしまう。

 たとえば年金改革だ。

 菅首相は2日の衆院予算委員会で、4月にまとめる社会保障制度案について「民主党案をベースにするが、民主党案が4月に提示するものにスライドするわけではない」と述べた。ようするに、2009年総選挙の政権公約(マニフェスト)で示した税方式による月額7万円の最低保証年金案にはこだわらず「4月には修正しますよ」と言っている。

 玄葉光一郎国家戦略相にいたっては「民主党の考え方はかつては基礎年金を全額税とする方式だったが、数年前からは社会保険料の所得比例年金を軸に『補足年金』として最低保証年金をつけるもので『社会保険料方式』と呼んだほうが正しい」とまで述べている。

 こうなると、いまや税方式による最低保証年金案は事実上、撤回したも同然だ。こんな重大な政策路線をろくな党内論議もしないで、首相や閣僚が勝手に変えてしまう政党とは、いったいなんなのか。自民党でも(と言ったら失礼だが)、こんなことが起きたら、党内政局で大騒ぎになっていた。

 消費税引き上げも、菅首相は先の参院選で独断専行のように打ち出した経緯がある。今度は年金である。この党の政策論議はどこまで本気なのか、まったくあてにならない。

 筋金入りの増税論者である与謝野馨を経済財政相に起用した時点で、菅政権の増税路線はあきらかだった。そこへ今度は自民党で税制調査会会長を務めた柳沢伯夫元厚生労働相を政府の社会保障改革に関する「集中検討会議」の民間委員に任命した。

 消費税は引き上げ、年金も保険料方式でOK、細かい制度設計は与謝野・柳沢ラインでとなると、これはもう完全にかつての自民党路線である。

 その一方、政権交代の立役者だった小沢一郎元代表に対しては、強制起訴されたとはいえ党員資格停止やら離党勧告を検討とあっては、菅政権はようするに「自民党と一緒になりたい」とみるべきだ。

 事実上、自民党に「大連立ラブコール」を送っているのである。

 相手の自民党はと言えば「ばらまきマニフェストを見直さずに増税を」と言っても受け入れられるわけがない、という姿勢である。逆に言えば、ばらまきマニフェストを見直せば、大連立を受け入れる可能性があることになる。

 では、菅政権はマニフェストを大胆に見直すだろうか。私は「見直す」とみる。

 なぜなら、菅首相が「政策に生きる政治家」とは、とうてい思えないからだ。自分が生き残るためなら、政策路線の変更だろうがなんだろうが、なんでもする。これまでの政治活動から判断すれば、菅はそういう政治家なのではないか。

 少なくとも理屈の上では、菅政権がマニフェストを含め政策路線を大胆に変更して、自民党との大連立に動く可能性がある。そう見ておいたほうがいい。

 そんな永田町の一方、地方の動きも目を離せない展開になっている。

市民税、県民税10%削減を掲げる

 愛知県では県知事選、名古屋市長選、さらに市議会解散の是非をめぐる住民投票の「トリプル選」が2月6日に迫っている。この選挙結果は統一地方選を待たずに愛知県のみならず、中央政界にも大きな影響を与えそうだ。

 優勢と伝えられる市長選の河村たかし候補(前市長)、県知事選の大村秀章候補(前衆院議員)はそれぞれ、市民税と県民税の10%減税を訴えている。

 加えて、河村は元民主党、大村は元自民党と出身政党がそれぞれ異なっているにもかかわらず、既成政党の枠組みにとらわれない固い連携を掲げた。

 河村と大村の「減税公約と出身党派を超えた連携」という点が、新しい政治の発想と枠組みを連想させるのである。

 永田町では、民主党の菅政権と自民党がともに増税に傾いて連携する可能性が出ているのと好対照だ。河村と大村が勝利すれば、2人が作り出す「減税を軸にした新しい政治潮流」が永田町にも押し寄せる可能性がある。

 大阪でも、橋下徹知事が「大阪維新の会」をつくり、市と府を再編して新しい大阪府創設を唱えている。橋下は河村と大村のタッグにエールを送った。みんなの党が公認した薬師寺道代候補は知事給与や議員報酬の3割カットに加え、県公務員の人件費2割カットで総額1500億円の歳出削減を打ち出した。

 河村や大村の減税も薬師寺の歳出削減も自治体行政のサイズを小さくする方向への改革である。永田町で議論されている増税=政府を大きくする方向とは正反対だ。

 民主党政権の変節がだれの目にもあきらかになって、いまや永田町政治に対する「うんざり感」は高まるばかりだ。薩摩と長州の連携が徳川幕府を倒した明治維新のように、愛知と大阪の連携が永田町にも波乱を呼び起こすかもしれない。

 (文中敬称略)
 

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