国債格付けもマネジメントにも「疎い」菅首相に変わり答弁を考えてみる
やっぱり日本は「宰相不幸社会」なのか
ダボス会議には出席したものの、その効果は疑問     PHOTO:getty images

 1月27日に米国系の格付け会社、スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社(以下「S&P」)が、日本の長期国債の格付けを引き下げた。この件に対して、菅首相は、首相官邸で記者団に「今、初めて聞いた。衆院本会議から出てきたばかりで、そういうことに疎いので改めてにしてほしい」と言ってコメントを避けたが、この際の「疎い」が問題発言として取り沙汰されている。

 首相の発言は、一言一言が重い。発言の全てが吟味される菅直人氏個人に対してはご苦労なことだと思わぬでもないが、今回の発言は、いかにも間抜けで拙かった。

 先ず、S&Pによる日本国債格下げを「初めて聞いた」というのが本当だとすると、これはいかにも拙い。格下げは、国家の債務の価値に関わりかねないニュースであり、これについて日本政府の長たる首相に情報が入っていないというのは困ったことだ。現実に即していうなら、首相本人よりも、首相の周囲の官僚やスタッフの落ち度だが、それは、菅首相が頼りにもされていないし、大切にもされていないということを表しているように思われる。

 しかし、首相の立場であれば、こうした事態に対して何が適切な反応なのかを常日頃から考えておく必要がある。スタッフの仕事ぶりが拙いのだとしても、トップに立つ者としては、表面上はこれをカバーして、蔭で厳しく指導するくらいの度量が必要だろう。菅首相はたぶんマネジメントにも疎いのだろう。菅首相は、会社の経営者にも向いていないにちがいない。

 では、菅首相はどう言えば良かったのか。

 以下の4つの選択肢を考えてみて欲しい。読者の中には会社の経営者もいらっしゃることだろう。どう思われるだろうか?

1. 重大な問題なので後ほどお答えします。少し時間を下さい。
2. 日本国債の格下げなんてバカげている!論外だ。
3. 財政改革は必ず実現させるので、この点をご理解頂きたい。
4. これは、消費税増税を早くやりなさい、とのメッセージだ。

 はじめに申し上げておくが、筆者も正解に絶対の自信があるわけではないのだが、順番に考えてみよう。

 (1)は、内容的には、「疎い」とあまり変わらないが、国債格下げを重大な問題だと認識していることが伝わる点でほんの少しましだろう。「市場の反応を慎重に見極めたい」とでも付け加えておけば、もう少し格好が付きやすいかも知れない。

 「疎い」と言ってしまうと、格付けというものに関する知識のなさ、ひいては、国債の信用リスクの問題に関する理解の乏しさが表面に出てしまうので、情報の入りが遅いという点にさらに無様な印象が加わる。

 それにしても、菅首相は、ギリシャ・ショックを引き合いに出して日本の財政改善の必要性を説いていたのであり、格付けや国債市場に関して十分な理解が無いのだとしたら(現に無いのだろうが)、本人が重要だと言っている政策課題に真面目に取り組んでいないことになる。国民としては(たぶん、官邸回りの記者達でさえ)「何と薄っぺらい人物なのか」という印象を持ったことだろう。

 (2)は、乱暴だが、実は、筆者の推奨する正解はこれだ。菅首相は国の台所の最高責任者なのだから、国の債務の価値にケチを付けられたときには、本気で怒って見せて構わない。

 もちろん、日本の社会的安定、日本政府の大きな保有資産、日本の大きな対外純資産、国内投資家が95%保有する日本国債の強固な消化構造、現実に低金利でありインフレではないこと(デフレは日本政府の債務の価値上昇を意味する)、などをその場で説明できれば申し分ないし、そこまで出来るなら、菅政権自身が財政改革に取り組むことを、ずうずうしく「安心材料」として説明しても許せる気がする。

ダボス会議こそ絶好の反論の場だった

 経済評論家なら「スペインよりも日本の方が悪いという格付けがまともだとは思えない」とか、「アメリカなどは国債の4割以上を外国投資家に買って貰っている」などと、外国を引き合いに出して今回の格下げを嗤ってやりたいところだ。さすがに一国の首相の立場で他国の国債をけなすと外交問題に発展しかねないから、これは却下しよう。

 尚、29日にダボス会議で行った演説は、同会議が世界の金融関係者が多く参加するイベントであることを思えば、日本国債格下げに反論する絶好の機会であったが、菅首相はこの機会をみすみす逃した。

 菅首相のダボス会議出席には、小島順彦三菱商事会長や古川元久前官房副長官が熱心に根回しをしたらしい。しかし、「『日本の首相』もダボス会議で世界にメッセージを発して欲しい」という気持ちは分からなくもないが、国債格下げに反論もせず、TPP参加を自分の信念として語ることもせず、「最小不幸社会」などといった念仏を唱えに外遊するような人物を連れて行くのは、日本のブランド価値にとって逆効果ではないだろうか。

 (3)は、菅氏が頭の回る人であれば、答えたかも知れない内容で、ポイントは外していない。しかし、丁寧すぎるように思う。

 国民に対してなら丁寧な物言いは悪くないが、S&Pに対して、菅首相の立場であれば、日本国債の健全性と、菅氏自身が目指すと言っている財政改革の実現性を強い言葉で語っていいはずだ。

 首相は、国債の信用が万全であることを語りつつ、財政の再建には力を尽くさなければならない。両方を別々に堂々と行うことが王道だ。

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