田原総一朗×辻野晃一郎「ネット時代の盛田昭夫、井深大をどうやって育てるか」
『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』著者に訊く 第3回

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田原: 僕がグーグルでびっくりしたのは、創業者のセルゲイ・ブリンさんはモスクワ生まれのロシア人ですよね。その後、一家でアメリカに引っ越してきた。そういう人が、新しいアメリカの夢を作るわけです。日本人にはないですよね。

辻野: そこについて、私は特に言いたいことがあるんです。日本人を決めつけて、「日本からグーグルがなぜ出ないのか?」とか「なぜアップルに追いつけないのか」とよく訊かれるのですけど、私がそこで強調したいのは、「でも少なくともソニーみたいな会社があったし、ホンダみたいな会社もあったよ」ということなんです。

 だから問題は、それが今のネットの時代に、ソニーを凌ぐような日本発のグローバルな会社がなんで出てこないのかということです。それが今日のテーマでもあるのだと思います。

田原: それが知りたい。なんで出ないんですか。

辻野: 私は日本人がソニーを作った頃のクリエイティビティとかエネルギーっていうのを思い出し、取り戻せば、いくらでも作れると思います。

 それから日本ってすごく特殊な国ですよね。

田原: どう特殊ですか。

辻野: 例えば2010年は、『龍馬伝』が流行っていましたよね。

 あそこでは明治維新が描かれていましたけど、当時アジアの他の国がみんな欧米の植民地になっていた中で、日本だけが植民地にならなかったのは、坂本龍馬のような脱藩、つまり既存の枠組みから命をかけて抜け出し、新しい国を作ろうという人たちがいたからですよ。

ロシア生まれのセルゲイ・ブリンがグーグルを創業し、アメリカ経済を牽引する  PHOTO:getty images

『坂の上の雲』もそうです。ああいう日露戦争の時に強国に対してまったく屈服しない交渉能力を持っていた。そういうエネルギーっていうものを日本人はもともと持っているわけです。

 ですから、元来、日本人の持っているスケール感は大きかったと思うんです。現在は当時よりもはるかにグローバルな時代になっているのに、なぜだか日本人のスケールが矮小化、スケールダウンしているような感じがするんですよ。

田原: 盛田さん、井深さんは東京通信工業を「SONY」という社名にしましたが、これはまさにグローバリゼーションですよね。

辻野: おっしゃる通りです。

「成功してリッチになった人は悪」でいいのか

田原: だけどなんで第二の盛田、井深が出てこないのか。なんでだろう?

辻野: いろんなことを考えなきゃいけないんです。

 ただ希望はあります。私も現在の会社を興してスタートアップのいろんな若い人たちと交流すると、確かにそんなに数は多くはないかもしれませんが、いるんです、高杉晋作みたいな人達が。

田原: 辻野さんもその一人でしょう。

辻野: 私などはもう老兵ですけど、 大学を出たてで元気が良く、グローバル思考で新しい時代の企業、それこそソニー以上、あるいはグーグルみたいな会社を作りたいと思って起業している若者なんかもちゃんといます。

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 ただ私が思うのは、シリコンバレーに比べると、そういう人を引っ張り上げて育てるインフラが日本は脆弱なんですね。

田原: 僕はシリコンバレーも何度も行きましたけど、シリコンバレーはベンチャーが起きると、引き上げるというか応援しますよね。日本はベンチャーを潰すばかりなんです。

辻野: そうなんですよ。育てるマインドや仕組みが弱いですね。

田原: 名前を出すと反発があるかもしれないけれど、例えばライブドアの堀江貴文氏を筆頭にあの頃いろんなベンチャーが出てきた。それをみんな政府も大企業もがよってたかって潰すんです、足を引っ張って。何でしょうね、これは。

辻野: 堀江さんのケースはともかく、そういうことはありますね。例えば今回の税制改正にしたって、「法人税を軽くした分は、とにかく成功した富裕層から取りましょう」みたいなことになっている。

 だから日本って、世界から見ると唯一「成功してリッチになった人は悪」といった概念を持っている国なんだなあと思うんです。アメリカだと成功してリッチになった人は憧れの的になるんですけどね。

田原: そこが基本的に違いますね。

辻野: だから成功者を応援する、あるいは失敗した人が立ち直るために手を差し伸べるというを仕組みを---マインドの転換もそうですが---もうちょっと日本の社会の中に作っていかなきゃいけない。

 それは長期的なプロジェクトになりますが、今言ったような新陳代謝を促進するインフラ作り、環境作りはこの国にとって緊急にやらなきゃいけないことです。それからもう一つの課題は教育改革だと思うんです。

田原: どこですか、教育で改革すべきところって?

辻野: 今やインターネット上にはありとあらゆる情報があるわけですから、極端な話ですが、グーグルで検索して分かるようなことをわざわざ小学校とか中学校で教える必要はないんです。そういう知識を詰め込む教育はもう20世紀で終わりにして、これからはそれこそ地アタマを鍛えるとか、あるいは言葉の問題を含めて対外折衝能力とかさっきのコミュニケーション能力を育むとか、教育の軸足を大きく転換しないといけない。

田原: それが辻野さんの本にも書いてあるけれど、"クラウド"の時代ということですね。「クラウドの時代だ」ということはかなり前から言われているんだけれど、ただ僕にはそのクラウドとは何かが今ひとつピンと来ていないんです。

「教育もクラウドの時代だから転換しなければいけない」ということだと思うんだけれど、クラウドってどういうことなんですか? クラウドの社会ってどういう社会をイメージされているんですか?

辻野: 私は、情報シェア(共有化)が一気に進んで、意思決定が早まる世界だと思うんです。そういうものをサポートするのがクラウドの環境だと思っています。

田原: じゃあ例えば、講談社という会社の意思決定を早くするためにはどうしたらいいんですか。

辻野: ははは。講談社の問題は分からないですけど・・・。

田原: いや、A社ということでもいいんですよ。意思決定を早くするためにはどうしたらいいんですか。

辻野: 今までのパーソナル・コンピューティングの時代というのは、手元にいろんなデータや知識を置いて、手元で作業をする時代ですよね。マイクロソフトのウィンドウズというOSはそういうことを想定して作られたOSなわけです。

 だけど今の時代はクラウドが進んでいます。手元でやっていたことは全部ネットの向こう側のサーバ側でやるという時代になっているわけですね。

 ですから極端な話、ネットワークに繋がりさえすれば基本的に手元には何も持っていなくていいという時代になっているんです。

田原: なるほど、知識も何も要らない、欲しいものは全部やってくると。

辻野: 必要な知識やデータはサーバ側に置いておけばいい。

 それで何が変わるかというと、手元に知識やデータを置いておくと自分しか触れないわけです。でも、サーバ側に置いておくと自分以外の人もそれを一緒にみることが出来る。

 ですから情報シェアとか共同作業が一気に進みます。何より手元に何も持たなくていいので、例えばPCを買い換えたときにデータを引っ越したりする必要がないですよね。

田原: そうか。今まではパソコンにデータがいっぱい入っているから、買い換えたときに大変なんだ。

辻野: 酔っぱらって電車の網棚にパソコンを忘れてしまっても、そこから個人情報が漏れるといった心配もなくなるわけです。

 だからパーソナル・コンピューティングじゃないんですよ。極端な話、クラウド・コンピューティングっていうのは、自分で自分専用の端末を持っていなくてもいい。他人の端末を借りて、クラウドにアクセスして、そこにある自分のデータなどを手元に持ってきて作業したり覗いたりすればいいのです。

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