明らかになったモトローラ買収劇の裏側
グーグルを手玉にとるカール・アイカーン氏

アンドロイドOSを生み出したアンディ・ルビン氏(グーグル社、上席副社長)(2011年9月、インテル開発者会議で筆者撮影)

 グーグル社による携帯電話大手モトローラ社の買収から約1ヵ月が経過した。モトローラ社は9月13日、同買収に関する暫定の情報開示文書(preliminary special proxy statement)を米証券取引委員会(SEC)に提出した。多くのメディアが指摘したとおり、グーグルはモトローラのパテント購入を狙い、交渉の末に同社買収へと進んだ様子が推察できる。一方、百戦錬磨の投資家カール・アイカーン氏が、同買収に関わった経緯も興味深い。

 今回は同書類を手がかりに、想像の羽を伸ばしながら、同買収について綴ってみたい。

ノーテル競売を契機に動き出す両社の交渉

 7月上旬、グーグルのアンディ・ルビン上席副社長(Andy Rubin、モバイル部門)は、モトローラ・モビリティのサンジェイ・ジャ(Dr. Sanjay Jha)会長に連絡をいれた。ルビン氏は「ノーテルのパテント競売に関係して、色々と議論したい」とでも切り出したようだ。

 カナダの破産裁判所は6月27日、会社清算に追い込まれた通信機器大手ノーテル(Nortel Networks)の特許を競売にかけた。その件数は約6,000件におよび、質量ともにまれに見る大規模な パテント競売だった。グーグルは競売に先立ち、最低落札価格9億ドル(約720億円)で応札を表明していた。

 グーグルが通信特許を狙うのは、アップルに対抗するためだ。アップルは、グーグルの携帯OS"アンドロイド(Android)"が急成長しているため、同OSを採用する機器ベンダーに特許侵害訴訟で圧力を掛けている。そのため、台湾のHTCや韓国のサムスン電子などがアップルとのパテント戦争に巻き込まれている。

 パテント戦争はお互いに特許侵害を訴え合い、最終的には和解に持ち込むのが定石だ。しかし、グーグルはネット系ソフトウェア企業として成長してきたため、通信分野の特許を持っていない。通信パテントは同社のアキレス腱となっている。そのため、ノーテルの特許競売で、大量のパテントを一気に手に入れようとした。

 しかし、カナダのハイテク業界をノーテルと2分したスマートフォン・メーカー"RIM(Research In Motion)"は黙っていなかった。同社は、ソニーやマイクロソフトなど大手企業を誘ってグーグルに立ち向かった。アップルは、単独で競売に参加した。

 当初、競売はグーグルとアップルが激突したが、応札額が予想を超えて上昇し、アップルはオークション9回目から他社(Microsoft、Research in Motion、EMC、L.M. Ericsson Telephone、Sony)との共同入札に切り替えた。この戦略が成功し、6社連合が45億ドル(約3,460億円)で最終落札して、グーグルは敗退した。

 ルビン氏がモトローラにコンタクトを取ったのは、たぶん競売期間中あるいは、その直後のようだ。その後、7月6日にはジャ会長とグーグルのニケシ・アロラ上席副社長(Nikesh Arora、Chief Business Officer)が、パテント訴訟からどうやってアンドロイドを守るかについて、突っ込んだ議論をしている。

 グーグルはこの時期、モトローラだけでなくIBMにも特許売却を持ちかけている。そして7月末にグーグルは1000件を超えるパテントをIBMから購入した。

 しかし、IBMからのパテント購入では不十分と考えるグーグルは、大量のパテントを買いたいとモトローラを正面から攻めた。しかし、ジャ会長はためらう。パテントをグーグルに売却してしまえば「モトローラ自身がアップルの脅威にさらされる」ことを心配したからだ。

 モトローラとアップルは、アンドロイドのパテント競争が始まる前から冷めた関係にあった。2007年にアップルがiPhoneを発表する直前、モトローラはアップル社のiTune機能を乗せた音楽携帯電話を発表している。アップルのスティーブ・ジョブス会長は、自らモトローラ製iTune携帯のデモをおこなった。

 だが、すぐにiPhoneが登場し、モトローラのiTune携帯は"空振り"に終わる。これを契機に両社の間には"溝"ができたと言われている。モトローラが、アップルに対して特許侵害訴訟を起こしたのはこの頃だ。こうした緊張関係にあるアップルの前で、グーグルに特許を売り払えば、何が起こるかわからない---ジャ会長のためらいは当たり前といえる。

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