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「次世代テレビ戦争」の勝者―世界を制するのは韓国か日本か/立石泰則
ラスベガス発 世界最大の家電見本市(CES)を
現地リポート
最大規模のサムスン電子のブース。3D対応の液晶パネルを組み合わせた巨大スクリーンが来場者を迎える [PHOTO] 立石泰則(以下同)

[取材・文:立石泰則(ノンフィクション作家)]

 年明け早々の1月6日から、アメリカのラスベガスで世界最大の国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(以下、CES)が4日間の日程で開催された。その年の家電製品のトレンドが分かるCESには、世界各国のメーカーが出展しており、今年の出展企業は約2700社、来場者は約14万人を数えた。

 年々海外からの出展企業が増え、今年は対前年比で25%以上の増加を記録。特に韓国、中国を筆頭にアジアからの出展が増えたという。

 展示会場の中心「コンベンションセンター」は3つのホールからなるが、有力メーカーはセンター・ホールに集まっている。

巨大スクリーンを3D対応メガネをかけて観賞する来場客。サムスン、LGという韓国勢が会場の主役だった

 その正面入り口付近に薄型液晶テレビの世界シェア2位を誇る韓国のLG電子、ほぼ中央に1位に輝くサムスン電子、そして一番奥まった場所にソニーがブースを構えていた。

 日本を代表するメーカーを押しのけ、韓国メーカーが世界市場で圧倒的な存在感を示している。

 サムスンのブースの入り口付近は、開幕早々、すでに入場者で混雑していた。人混みを縫って歩けば、3D対応の液晶パネルを張り合わせた巨大なスクリーンが最初に目にとまる。

 3Dテレビのコーナーを覗けば、デモ映像にKポップのスター「少女時代」のプロモーションビデオが使われていた。彼女たちのダンスを立体映像で楽しめるのは、コンサートに行くのには照れがある世代にとっては、ちょっとした余禄かもしれない。

 そして「スマートTV」のコーナーにたどり着いた。ネット接続を介して番組を視聴するテレビを、韓国勢はこう総称している。日本では、まだなじみ深いとは言えないが、ソニーは昨年、米検索サイト大手「Google」との共同開発で、OS「アンドロイド」を搭載した「ソニー・インターネットTV」を米国内で発売している。

LG電子が発表した84インチ3D液晶テレビ。HDの4倍密度の高精細を誇る4Kパネルとしては世界最大

 「想定した販売台数に到達していない」、「番組制作にかかわる事業者によってはGoogleへのソフト提供に難色を示している」などのネガティブな情報はあるが、今年の商戦にネットテレビが加わることは、CESの各ブースを見れば一目瞭然だった。

LGのシンプルなリモコン。世界のマーケットを狙うべく、誰にでも扱えるデザインだ

 韓国メーカーのみならず、中国のハイアール(Haier)とハイセンス(Hisense)も出展していた。中国メーカーはブランド力こそまだないが、巨大な市場を背景に持つ。

 日本ではソニー、パナソニック、シャープ、東芝など有力メーカーのブースを回ったが、今年のトレンドは「3D」、「インターネットテレビ」、そしてスマートフォンを含む「タブレット」という3つのキーワードに集約できそうだ。

 各社とも、その3つの製品の差別化には、当然の事ながら力を注いでいたが、ネットテレビを比較すると、リモコンにその思想の違いが表れていた。

 一歩先を行くソニーではパソコンのキーボード型のリモコンを使用している。

 それに対し、LGのそれは見慣れた細長い形で、かつボタンが6つしかない。電源の出入力、チャンネル、音量、選択(十字キータイプ)、メニューを呼び出す「HOME」ボタンなどだ。

 画面に向けてHOMEボタンを押してメニューを出し、画面上のカーソルをリモコンの先を向けて動かし、選択ボタンを押して決定する。任天堂のゲーム機「Wii」と同様、ジェスチャー(動作)で操作ができるのだ。

 テレビにDVDやブルーレイレコーダーなどを接続することで、リモコンのボタンの数は増える傾向にある。ボタンの数を少なくして、もっと使い易くしてほしいという声は、ユーザーから長年あがっていた。

一方、「ソニー・インターネットTV」のリモコンはパソコンのキーボードと変わらない

 アメリカで先行発売したソニーの場合、キーボードに慣れているアメリカの文化に合わせたという面があるだろうが、LGのリモコンのほうが、ユーザー・フレンドリーだと言える。ソニーのブースでは、ネットTVの前でリモコンを持った手元とテレビ画面とに、交互に目をやる入場者の姿があった。

 ネットTVの普及、シェア拡大を考えるなら、成長著しいアジアの市場を無視できない。世界の多くのユーザーが、どちらを受け入れるかは、明白であろう。

 世界市場に焦点を当てたLGの勢いを感じるが、スマートTVはソニー同様、OSにGoogleのアンドロイドを搭載しているのだろうか。会場の説明員によれば、「OSはアンドロイドではなく自社で開発した独自のもの」だという。独自技術にこだわる姿勢は、かつての日本企業の姿を見るようである。

 LG電子のユーザー目線での製品開発は、3Dテレビにおいても顕著である。これまで3Dテレビを視聴する専用メガネは、左目と右目の画像が交互に送られてくるため、シャッターを切るように左目と右目を切り替えて見るようになっていた。そのため、フリッカ(ちらつき)が起きるうえ、重量が重く、なおかつ値段が高いと、課題が山積みであった。

 それに対し、LG電子が採用した偏光式のメガネではフリッカはなく、視野角も広い。LGは自社の3Dテレビに「シネマ3D」と名付けているように、3D映画のメガネと同じ方式のため、メガネが一つあれば、映画でもテレビでも利用できる。

 しかも単価が1000円以下だから、4人家族なら4000円の負担で済む。それに対し、シャッター式は1万円以上するため、負担も大きい。解像度が落ちるという課題はあるものの、この点でもユーザーの利便性を第一に製品開発を進める強い姿勢は、印象的だった。

日本勢の「危うい楽観」

 翻って、日本の有力メーカーは、CESで世界に何を示したのであろうか。

 東芝は、メガネを必要としない裸眼3Dテレビ「グラスレス3Dレグザ」を発表して以来、"裸眼一筋"でよそ見をしない。CESでも東芝の大型テレビ(56&64インチ)のコーナーは長蛇の列で、圧倒的な人気を誇っていた。ただし裸眼による大型3Dは、LG電子やソニーなどでも展示されており、東芝の独走とまではいかないようである。

 シャープでは、3Dテレビ以外にも、従来のRGB(赤・緑・青)3原色にY(イエロー)を加えた4原色で差別化を図った大型テレビに力を入れていた。70インチの大型液晶テレビ「AQUOSクアトロン」が代表的な商品である。シャープ常務の高橋興三氏はCESの記者発表の席で、その理由について「米国市場では60インチ以上の大型液晶テレビの需要が強い」ことを挙げた。

 パナソニックの3Dテレビは、相変わらずプラズマテレビ(注1)が中心であった。米調査会社ディスプレイサーチの調査によると、'09年の世界テレビ出荷台数は、液晶テレビが約1億4000万台だったのに対し、プラズマはその10分の1だった。

 パナソニックは「プラズマのほうが画質は優れており、3Dに適している」と従来から主張し、確かに技術的に証明されている部分もある。だが、具体的にどのようにシェアの拡大を図るのか、という疑問は消えなかった。

 独自の製品によってライフスタイルそのものを変えてしまう「ソニー神話」が崩壊したと指摘されて久しいが、ソニーのブースでは3Dの先駆者の意地を見せた展示になっていた。

 会長兼CEOのハワード・ストリンガー氏(68)はCESで、持論である「コンテンツ制作から、撮り(カメラ)、受像(テレビ)まで"一気通貫"のシステムを改めて示す」というソニーの強みを語り、実際、展示されたラインナップも、そう配置されていた。

 中でも、久々にソニーらしい商品と感じたのは「3Dヘッドマウントディスプレイ」である。ウォークマンという商品は、音楽を室外でも自由に楽しめる点で画期的だったが、これは3D映像を外に持ち運べるようにしたものだ。それも「500人規模の本格的な映画館で鑑賞している感覚が体験できる」という。

 仕組みは、大型のメガネの中に超小型の二つのテレビが設置されているようなもので、この方法だと両目でものを見た時と同じ原理で立体感を認識できる。この点、他の3Dテレビは1台のテレビで2種類の違う映像を交互に見ることで立体感を認識させる。だからフリッカが生じるし、目に負担を強いる。

 3Dヘッドマウントディスプレイには有機ELパネル(注2)が使用され、映像美にもこだわる。

(注1) 2枚のガラス板の間に封入した高圧の希ガスに高い電圧をかけて発光させる方式会

(注2) ジアミン類などの有機物を発光体としてガラス基板に蒸着し、直流電圧をかけて表示する方式
ソニーが独自に開発した「3Dヘッドマウントディスプレイ」。3D映像をどこへでも持ち運ぶことができる

 これと同様の商品は他社には存在せず、新しいものづくりの風を感じさせるが、肝心の世界市場で、ジャパンブランドの地位が低下している事実は覆らない。もっと言えば、韓国のサムスン、LGに取って代わられたとの印象は拭えない。CESに参加していたメディア関係者からは「なぜ日本メーカーは、サムスンやLGに対して、もっと危機感を持たないのか」という声をよく耳にした。

 '10年11月からLGは日本に3度目の進出を果たし、液晶テレビの販売を始めた。サムスンは、NTTドコモを経由しているとはいえ、スマートフォン「GALAAXY S」で新興市場に早々と参入し、ヒットを飛ばした。にもかかわらず、日本メーカーに、なぜか楽観視する風潮があるというのだ。

「サムスン製の液晶パネルのお得意様には日本の大手メーカーがいます。彼らがお得意様の本拠地に本格参入するはずがないと信じているのです。また今回、LGが液晶テレビを発売した際、大手家電量販店が相手にしなかったことも、メーカーの『日本市場は大丈夫』という思い込みに拍車をかけました」(業界誌記者)

複数のディスプレイをつなぎ合わせて映像空間を演出するシャープの「i3Wall(アイトリプルウォール)」。床面もディスプレイである

 この記者はさらに、日本メーカーの脇の甘さをこう指摘する。

「大手家電量販店との取引がうまくいかなかったのは、安い韓国製品を売れ線にしたい量販店と、ハイエンド(最上級の商品群)の液晶テレビを売ろうとしたLGとの間に齟齬が生じたからです。

 『安かろう、悪かろう』のレッテルを貼られて撤退した過去の二の舞を演じるまいと、LGはハイエンドで勝負をかけたのです。

 サムスンをライバル視するLGは、世界一を狙うためには日本市場を自社製品で埋めるのが必須という意識が強い」

 サムスンも、ジャパンブランドを押しのけることができていない日本市場を放置したまま、手をこまねくはずもない。

「他国の市場に進出する際、サムスンは携帯電話を普及させてブランドイメージを高め、そこから他の家電を浸透させてゆくのが常套手段です。すでにGALAAXYを発売した日本も、例外であるはずがありません」(前出・業界誌記者)

 ソニーをはじめとした日本の有力メーカーに在籍する優秀な技術者を、サムスンやLGがヘッドハンティングする事態は、今なお続いている。人も市場も、乗っ取られてから気づいたのでは遅い。今年熱くなる次世代テレビの競争は、すなわち各メーカーがどれだけ世界市場を意識しているかを示すものとなるだろう。

たていし・やすのり
1950年生まれ。『覇者の誤算』(講談社文庫)で第15回講談社ノンフィクション賞受賞。最新作は『フェリカの真実 ソニーが技術開発に成功し、ビジネスで失敗した理由』(草思社)

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