雑誌
ジュリアン・アサンジ被告が切った
「最後のカード」の衝撃、そして狙いとは
ウィキリークス崩壊
「25万件の米外交公電」全開示

ウィキリークスのツイッター上では米外交公電の全データベースを公開したことが表明された

 9月2日、「情報公開こそ民主主義だ」という理念の下に、数々の機密文書を暴露してきた「ウィキリークス」が、これまで未公開だった文書を含む約25万件の米外交公電を全面公開した。

「今回公開された公電の一部は昨年11月から公開されていたものですが、これまでは情報提供者保護の観点から、情報提供者に結びつく個人情報は削除されていました。ところが今回は、実名などが記載された文書がそのまま公開されてしまったのです」(在米ジャーナリスト)

公開された公電のデータベースはキーワードや文書の種類で検索可能。ツイッターに記載されたリンクからアクセスできる

 これに対して、これまで、この公電の内容を検証する作業を行うなど協力関係にあった英『ガーディアン』、米『ニューヨークタイムズ』、独『シュピーゲル』、仏『ルモンド』など5紙は共同声明を発表し、「情報提供者を危険に晒す可能性がある」と批判した。また、米国務省のヌーランド報道官も、「個人や国家の安全を脅かしかねない」と非難した。

 今回の実名公開は何を晒したのか。例えば、駐韓米国大使館が '10 年1月14日付で国務省に発送した公電では、以前公開された文書ではロバート・キング北朝鮮人権特使の会食相手の名前は伏せ字にされていたが、ウィ・ソンラク外交通商部韓半島平和交渉本部長だったことが判明した。

小沢一郎幹事長(当時)がルース駐日大使に対し、「中国の脅威」を語ったとする公電も

 今のところ、これが韓国内で問題になってはいないが、別の公電では、実名が公開されたイラン人の情報提供者が、米国に脱出する事態も起きている。これらの機密文書は、ウィキリークスがツイッターに記したリンクを辿れば、誰でもデータベースサイトで閲覧できる。

 本誌が確認したところ、駐日米国大使館発の公電も多数公開されており、例えば '10年2月9日付の、民主党の小沢一郎幹事長(当時)がルース駐日大使に、中国の脅威に対して日米関係の強化を求めたという文書も、キーワード検索で簡単に見つかり、閲覧することができた。

 いったいなぜウィキリークスはこのタイミングで公電の全面公開に踏み切ったのか。ウィキリークスは声明で、英『ガーディアン』紙の記者が今年出版した本(日本語版は『ウィキリークス アサンジの戦争』)の中に、機密文書にアクセスするパスワードが掲載され、誰でもデータを読めるようになったために公開に踏み切ったと説明している。しかし、ガーディアン側は、「パスワードは数時間で無効になると説明された」と反論、双方の言い分は対立しており、全面公開の理由ははっきりしていない。

自分の身を守る最後のカード

支援者から提供された豪邸でインタビューを受けるアサンジ氏。足には電子タグが巻かれている(6月15日)
保釈後、アサンジ氏が暮らしている豪邸。18世紀に建てられた建物は3階建てで、寝室が10部屋もある

 今回の騒動について、「ウィキリークスは最後のカードを切った」と指摘するのは、『ウィキリークスの衝撃』の著者であるジャーナリストの菅原出氏だ。

「情報をきちんと管理して信頼性のある取材をもとに公表するというスタンスが、ウィキリークスの正当性の拠り所だったわけです。それを今回、全面的に公開してしまったということで、組織としての存続の意義をなくしてしまった。代表のアサンジ氏は、米政府が圧力をかけてきた場合の最終手段として、『もし潰そうとするなら、未編集の個人情報満載の情報を公開しますよ』と話し、抑止力としてそれを保持してきたわけです。自分の身を守る最後のカードを失ったのだから、組織的にもアサンジ氏個人としても、終わりだなと思わざるを得ません」

 ウィキリークスはオーストラリア出身のジュリアン・アサンジ氏(40)を中心に、 '06年に作られた内部告発サイトで、米国の外交公電を中心に独自に入手した機密文書をネット上で公開してきた。数名の専属スタッフと世界各国にいるボランティアが活動を支え、主に寄付によって運営されていた。 

 '07年に、イラクで米軍のヘリコプターが民間人を誤射する映像を公開したことで、一躍、注目を集めた。

ウィキリークスでここまで分かった世界の裏情勢』の著者でジャーナリストの宮崎正弘氏は、ウィキリークスがこれまで果たしてきた実績をこう評価する。

「米国が、我々が思っているよりも腹黒いことを知らしめた功績は大きいでしょう。例えば、米軍がイエメンにあるアルカイダの基地を攻撃し、それをイエメン政府がやったことにしたことも暴露されました。つまり、米国がイエメンの主権を侵害していたのです。米国にしてみれば、かなりの痛手だったと思います」

 米国政府は当初からその違法性を指摘してきた。今年1月には、米捜査当局がアサンジ氏やウィキリークスに公電を漏らしたとされる米陸軍の元情報分析官(別の情報漏洩事件で勾留中)の通信記録などを押収し、スパイ容疑での立件を視野に入れた捜査が始められている。

 一方、アサンジ氏は昨年、スウェーデンで女性2人に性的虐待を加えたとして、イギリスで逮捕され、強姦罪で起訴された。しかし、その内容は性行為の際に避妊具を使わなかったというもので、アサンジ氏は一貫して、「政治的な動機に基づく逮捕だ」として無罪を主張。

 昨年12月に保釈金20万ポンド(約2000万円)を支払い保釈されたが、保釈金の一部はドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏らが提供したという。英裁判所はスウェーデンへの身柄引き渡しを決定したが、アサンジ氏はこれを不服とし、現在も係争中だ。前出の菅原氏は、この逮捕が今回の情報公開の引き金となったのではないかと見ている。

「組織のナンバー2だったドイツ人IT技術者が抜けるなど、ウィキリークスは組織として衰退し始めていたと思います。最近は社会的な注目度も失っていました。代表者が逮捕されたことが痛手だったのでしょう。逮捕によって次のリークに手が出しにくくなる中、運営資金である寄付も集まらない。アサンジ氏は、『今注目されなければならない』という最後の博打に出たのかもしれません」

 保釈後、アサンジ氏は外出制限や位置を把握するための電子タグ装着を条件に、支援者がイギリス国内で提供した家に滞在している。保釈後、「私の人生に危険な兆候がある」と語っていたアサンジ氏に、次の手はあるのだろうか。

PHOTO AP/アフロ

「フライデー」2011年9月23日号より

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