メディア・マスコミ
日本の大新聞は「マックペーパー」だ! 「日付モノ」「逆ピラミッド型」と決別しアメリカのジャーナリズムを変えたWSJの改革
25日付のUSAトゥデイ1面。短いニュース記事を寄せ集め「マックペーパー」とも皮肉られたが、近年は独自のフィーチャー記事にも力を入れている

 ファーストフードのマクドナルドをもじって「マックペーパー」と呼ばれた新聞をご存じだろうか。発行部数180万部を誇るアメリカ最大の全国紙USAトゥデイだ。

 短い記事、派手な色使い、スポーツ報道重視---これがUSAトゥデイの伝統的な特徴だ。マクドナルドでさっと食事を済ませるようにさっと読めてしまう新聞という意味で「マックペーパー」と皮肉られた。来年で創刊30周年だが、ジャーナリズムの世界で最も栄誉あるピュリツァー賞を1度も受賞したことがない。

 紙面作りの点ではUSAトゥデイは最も日本の全国紙に近い。アメリカの新聞として異例なのだが、日本の新聞と同様に「ジャンプ」しない記事が多いのだ。アメリカの新聞ではジャンプ、つまり1面から中面へと記事が続く長い記事が当たり前だ。ジャンプしない短い記事が中心であるからこそ、さっと読めるのである。

 USAトゥデイと対極にあるのが経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)だ。長文の読み物である「フィーチャー記事」中心のスタイルを確立したパイオニアとして知られている。第2次大戦中の1940年代に、いわゆる「日付モノ」「逆ピラミッド型」が象徴する速報ニュース(ストレートニュース)をわきに追いやったのである。

 前回(「脱記者クラブ」を宣言したWSJ)では、「WSJ中興の祖」バーニー・キルゴアが推し進めた改革の一環として、WSJがデトロイトの自動車記者クラブを脱退したいきさつを書いた。デトロイト支局が送ってくる「プレスリリース原稿」がキルゴア改革にそぐわなかったからだ。

 キルゴア改革こそWSJ流フィーチャー記事の生みの親だ。これによってアメリカの新聞ジャーナリズムに大きな変化が起きるのである。WSJ出身のベテランジャーナリストであるディーン・スタークマンによれば、ジャーナリズムの世界でキルゴアが果たした役割は、精神分析の世界でフロイトが果たした役割に匹敵するという。

 WSJの新編集局長にキルゴアが就任したのは1941年2月。若干32歳だった。前回に続いて『ワールドリー・パワー』と『レストレス・ジーニャス』の2冊を基にしながら、WSJの1面記事がどう変わったのか紹介したい。新聞報道の質を高めるにはどうしたらいいのかを考えるうえで、1つの物差しになる。

25日付のWSJ1面。マードックによる買収以降に紙面は様変わりしたが、その日のニュースを一覧にした「ホワッツ・ニュース」(左側の2段)は70年以上も変わらない

 キルゴアは「1面トップ記事にふさわしいのは全国のビジネスマンを念頭に置いて書いたフィーチャー記事」と宣言した。通信社電のように事実を単純に伝えるニュース記事が全盛の時代、「なぜ」「どのように」に力点を置いて深く掘り下げたフィーチャー記事への全面的な切り替えを目指したのだ。USAトゥデイがファーストフードだとすれば、WSJはフランス料理レストランといえるかもしれない。

「読者の関心は過去でなく将来にある」

 キルゴアが編集局長になる前のWSJは基本的に「ウォール街のゴシップ紙」だった。1面は主にウォール街の証券マンが関心を持ちそうな雑報で構成され、10本以上の記事が所狭しとひしめいていた。短いニュース記事中心という意味で「マックペーパー」に近かった。1面の下半分は証券会社の広告で埋まっていた。

 編集局長になったキルゴアは記者に対し「銀行についての記事を銀行家向けに書いてはいけない。銀行の顧客を念頭に置いて書け」と指示した。「ウォール街のゴシップ紙」から「一流の全国紙」へ脱皮を目指していたからにほかならない。「一流紙に広告はふさわしくない」との理由で1面から広告も全面的に取り去った。

 銀行の顧客は預金者や企業など多様だ。必然的に記者は「広範なビジネスニュースを平易な言葉で書く」よう求められるわけだ。株式市場など金融関係以外のニュースを広く扱うことになれば、ウォール街という地域性にも縛られなくなる。

 ただ、「平易な言葉で書く」「地域性をなくす」はWSJにとって必要な戦略だったが、それがアメリカのジャーナリズムに変革をもたらしたわけではない。日本の全国紙も「平易な言葉で書く」「地域性をなくす」という点では合格している。ではWSJの改革の何が、アメリカの新聞ジャーナリズムを変えたのか。

 WSJが1面記事としては「日付モノ」と「逆ピラミッド型」を禁じ手にしたことである。

 日付モノとは、記事中に掲載日の前日や当日の日付が入っている記事のことだ。例えば、27日付紙面で「オバマ政権は27日、新雇用対策を決める」は日付モノだ。「A社とB社は近く合併で合意する」という特ダネには具体的な日付が入っていないが、実質的には日付モノと同じだ。

 日付モノの特徴は、記事中には単純に事実が記載されているだけで、独自の分析などは最小限にとどまっているという点だ。発表を受けて書くのであれば「発表モノ」、近く発表されるニュースを独自に入手したのであれば「特ダネ」「独自ネタ」などと呼び分けられるが、本質は変わらない。

 逆ピラミッド型は日付モノに欠かせない。大ざっぱに言えば、記事の冒頭で最も重要な事実を書き、重要度の低い背景説明や識者コメントなどは記事の後半に回すやり方だ。通常、冒頭パラグラフ(第1段落目)に「5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どうして)」を詰め込む。

 こうすれば、紙面編集段階で緊急ニュースが飛び込んできても柔軟に対応できる。すでに紙面に入っている記事を後ろからどんどん削り込み、緊急ニュースを入れるスペースを作ればいいのだ。逆ピラミッド型の記事であれば、後ろから削り込む限り重要事実は残るため、記事を書き直す必要はない。逆ピラミッド型は新聞記事のゴールドスタンダードになった。

 ところが、キルゴアは「記事には『きょう』や『きのう』という表現は要らない。読者の関心は過去ではなく将来にある」と宣言し、ゴールドスタンダードを否定したのである。当然ながらWSJの編集局内は混乱した。記者にしてみれば「過去24時間以内に起きた最新の重要情報を伝えること」がニュースであり、それ以外は考えられなかった。

 通信社電的な速報ニュースが1面から消えたわけではない。受け皿として、1930年代半ばに1面に登場した「ホワッツ・ニュース」があった。過去24時間以内に起きた主なニュースを一覧にして見せるコラムだ。個々の記事はせいぜい数行で1パラグラフに収まるほど短く、そこに5W1Hを入れている。日本の新聞に出てくる「短信」に似ている。

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