胴元の暴力団摘発は諦めて決着する大相撲・野球賭博事件の禍根
大山鳴動して鼠二匹
〔PHOTO〕gettyimages

 大相撲の野球賭博問題を捜査していた警視庁組織犯罪対策3課は、1月26日、賭博(賭博開帳図利)容疑で元十両の古市(古市貞秀・34)、元幕下の梓弓(山本俊作・35)らを逮捕した。

 大相撲が野球賭博に汚染されていることが発覚したのは昨年6月だった。以来、日本相撲協会は特別調査委員会(座長・伊藤滋早大教授)を発足させて全容解明に努め、警視庁は賭博をめぐる恐喝事件で古市の兄の古市満朝被告(38)と暴力団関係者らを逮捕するとともに、賭博捜査に当たっていた。

 大相撲と賭博と暴力団---。格好のテーマを見つけてマスコミは、連日、報道合戦を繰り広げた。その勢いに押されるように相撲協会は、大嶽親方(元関脇・貴闘力)、大関・琴光喜らを解雇。野球賭博に関わるか暴力団との関係が判明した親方と力士30数名に、降格、出場停止、けん責などの処分を下した。

 賭博罪での立件で「角界汚染」には幕を引かれた形になる。しかし、その元凶である野球賭博の胴元にはメスが入っていない。賭け事の好きな力士は、ほとぼりが冷めた頃、また賭け始めるだろう。

 野球賭博の胴元は、ほぼ例外なく暴力団関係者である。胴元は、ハンデ師を使って試合ごとにハンデを決め、それを仲介役に伝え、賭客は、そのハンデを考慮のうえで勝負をする。

 野球が行われるのは、1日にセパ両リーグで6試合。何試合賭けてもいいが、試合のない月曜日に精算するのがルール。1万円の小口客もいれば、数十万円、数百万円を賭ける大口もいて、精算の月曜日には数十億円が動くのだという。

 警視庁捜査の目的は、野球賭博のシステムを解明、胴元に行き着き、暴力団の資金ルートを断つことにあった。胴元の"テラ銭"は1割。ハンデの巧拙で胴元が負けることもあるが、長く主催すれば確実なもうけをもたらす"シノギ"である。

 警視庁は、梓弓の「名古屋の弘道会系列の元組長が胴元で、その人に誘われて始めたが、(発覚の)1年前に亡くなった」という供述をもとに、組事務所を家宅捜索するなど、胴元の摘発に意欲を見せていた。しかし、本人が死去しているのでこのルートは事件にできない。

 結局、仲介役の古市、梓弓といった力士の口は堅く、それ以上の「胴元証言」を得ることはできなかった。

 また、賭博罪の立件は難しい。胴元と仲介役と賭客の三者を特定し、「賭博をしました」という"自白"の供述を取ったうえで、賭け台帳、メモ、ハンデ表、携帯メール、通帳コピーといった証拠を押収、どの試合に誰がどれだけ賭けて、収支がどうだったかを裏付けなくてはならない。

 今回、胴元に行き着かなかったために、仲介役の古市や梓弓を胴元に見立て、古市と口座管理の母親(63)、梓弓とその手伝いの元力士(29)を補佐役と見なし、摘発したのだった。

 警視庁は、胴元同様、賭客も「どの試合にいくら」という詳細を明らかにすることができなかった。結果として悪質性を立証できる親方・力士がいないとして、10名弱を書類送検して終わらせる方針だ。

胴元が漏らした「ホンネ」

 割を食ったのは、初期段階でターゲットにされて廃業、焼肉屋に転じた元大嶽親方と、解雇されたものの復帰を願う元琴光喜の2人、そしておそらくテラ銭の一部を受け取ったに過ぎない逮捕された仲介役である。

 野球賭博をシノギとしていた暴力団関係者は、ホッと胸をなで下ろしている。胴元のひとりが本音を漏らす。

「警視庁が力士の携帯電話をすべて押収、ハンデ表なども残っていたと聞いて、少しビビった。でも、結局、立件できなかったのは、我々が証拠を残さない努力を重ねてきたからだろう。

 これからはメールを残さず、決済は一部にあった振り込みは止め、すべて現金で手渡しにする。(言った言わないを防ぐための)メモや録音も決済のあとはすべて消去、アナログに徹すればいい。

 これで、野球賭博は今シーズン開幕から再開できる。野球ファンなら賭けて観たい。客はいくらでもいる」

 なんのことはない。大騒ぎした大相撲の野球賭博騒動は、胴元たちに「摘発されない方法」を"伝授"したことになる。

 プロ野球に限らず、スポーツは暴力団の有力なシノギの道具である。高校野球、サッカー、相撲、格闘技、プロボクシングと、あらゆるスポーツが賭けの対象となる。

 「夜の繁華街」にルートを持つ暴力団は、主にクラブ、スナック、料理屋といった飲食店人脈などを使って賭客を集め、スポーツを博打場にする。

「山口組(弘道会)壊滅作戦」を展開する警察庁にとって、弘道会の名も出た野球賭博の解明は、時宜にかなったもの。狙いは「暴力団がうごめく胴元」に絞られていた。

 しかし、関係者の口は堅く証拠は残さない。苦肉の策が「仲介役を胴元に見立てた捜査」であり、この決着のつけ方は捜査員にとっても屈辱だろう。

 胴元にどう切り込むのか---。

 角界を使って失敗した捜査当局だが、経験を踏まえた次の摘発に期待したい。

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