留学生の減少は「企業の責任」 経団連は新卒採用時期の前面見直しを
「いまの若者が内向き」なんてウソ
経団連が発表した「新卒者の採用選考活動の在り方」

 残念だ。

 新卒大学生が長期間にわたる就職活動を強いられている問題について、ようやく日本経済団体連合会が打ち出した対応策は、遅きに失したうえに、実を伴わない内容にとどまってしまった。

 これは数年前から深刻化が指摘されていた問題だ。

 にもかかわらず、経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)が12日の定例記者会見で打ち出した対策は、会社説明会などの「広報活動」の開始日だけを、これまでより2ヵ月遅い「大学3年の12月1日」に変更するという内容だ。拘束力のない倫理憲章に書き込むと言うのだから、加盟企業の限られている経団連企業でさえ遵守するのかどうか疑問符が付く。

 さらに言えば、会社説明会より早い「大学3年の6月」から広く行われている「インターンシップ」(就業体験)の募集・実施の見直しの詳細は未定だ。さらに「選考活動」(試験・面接)そのものの開始時期(大学4年の4月)には手を付けないと結論付けてしまった。

 これではインターンシップへの応募から始まり、正式な内定が出る「大学4年生の10月」頃までのほぼ1年4ヵ月前後を要す、長過ぎる就職活動の是正は期待できない。

 今回の経団連の決定のように企業の都合を優先し過ぎることが、むしろ、企業側の望む人材の確保の障害になることや、消費を刺激しにくい雇用環境を作り出していることにこそ、経団連や企業は目を向けるべきではないだろうか。

「これ(経団連の対策のこと)によって、ゆっくり留学する時間が確保できるようになるのでしょうか。4年生の初夏に戻って来ても間にあいますか」---。

 甲南大学マネジメント創造学部の外部講師として主に大学2年生を対象にしたジャーナリズム論の教鞭を執っている筆者は、期末試験前の最後の授業(1月14日)で、学生から留学という夢の実現と就職への不安という現実に揺れる思いをぶつけられた。そして、本質的な問題の解決策を打ち出せない日本の大人たちのだらしなさを申し訳なく思った。

 経団連の対応には間髪を入れず、同じ財界から異論が出された。経済同友会の桜井正光代表幹事(リコー会長)が20日の講演で、広報活動の開始時期を経団連より3ヵ月遅い「大学4年になる直前の3月」、試験・面接の解禁を同じく4ヵ月遅い「大学4年の8月」とするように提案したのである。

 筆者は、この同友会方式であっても、就職・採用活動を行う時期が早過ぎると考えるが、それでも経団連の方式を不十分とした意見には賛成だ。

 今回の対策が遅くて不十分なことは、当の経団連の米倉会長自身も十分、理解しているのだろう。経団連のホームページに掲載された「発言要旨」には記載されていないが、日本経済新聞の13日付社説は、米倉会長が前述の記者会見の場で「多くの企業が守れる最大公約数を選んだ」と苦しい胸の内を吐露したことを伝えている。

 2年生の夏休みしか留学時期はない現実

  振り返れば、他よりも優秀な学生を囲い込みたい企業と、少しでも立派な企業に入ろうとする学生の思いが交錯する採用・就職活動の透明化・正常化は失敗の連続だった。

  旧文部省(現文部科学省)、大学、産業界の3者が学生就職懇談会を構成して1953年に就職協定を開始したものの、早くも62年には旧日経連(現日本経団連)がこれを離脱し、「青田買い」が当時の流行語になった。

 70年代に入ると、旧労働省(現厚生労働省)が関与を試みるが、同省は80年代初頭に尻尾を巻いて退散した。

 82年から、就職協定は、大学と産業界の間の紳士協定となった。この就職協定では、会社訪問の解禁は「大学4年生の10月1日」、選考開始は「同11月1日」からとなっていた。しかし、この紳士協定でも、協定破りが横行したことは記憶に新しい。

 86年に発足した就職協定遵守懇談会も無力な存在だった。89年頃には、大企業の協定破りが常態化したとされている。結局、旧日経連は97年、就職協定を廃止した。

 とはいえ、放置はできないとして、経団連は2000年に倫理憲章で、選考開始を「大学4年の4月」などとするルールを定めた。

 しかし、会員が巨大企業に限られているうえ、強制力もない経団連の倫理憲章では限界があった。これも遵守されることはなく、今回の見直し議論を招いたのだった。インターンシップ(就業体験)に名を借りた実質的な選抜テストの重症化は目に余る事態に達していた。

 一方、グローバル競争に直面している企業の多くが過去数年、新興国出身者の内外での採用や、既卒者の中途採用に人材獲得の軸足を移している問題も見逃せない。

 こうした企業の中には、あるIT企業の広報担当者のように、筆者の取材に対して「新卒の大学生を採用せず、人材の育成コストをかけない。即戦力の中途採用社員だけで戦力を整えることがエクセレント・カンパニーとしての戦略だ」と言い放った企業もある。

 こうした他人の褌で相撲をとるような行為をもって"エクセレント・カンパニー"と称するような企業は論外だが、経団連に加盟しているような責任ある立場の企業も自らの罪深さを自覚しているだろうか。

 企業自身が大学教育の半ばにも至らない未成熟な学生に就職活動を強いて、学生たちから修学の機会を奪っているのだから。その典型的な例が冒頭で紹介したような留学希望の学生たちのケースである。

 大学生が1年程度を海外の大学に留学して学ぼうとすれば、欧米の大学の一般的な新年度の9~10月に備えて、夏休みの間に現地入りして、現地の大学の英語学校で肩慣らしをしたうえで入学、翌年の夏休み前の4~6月頃に帰国するのが一般的なスケジュールだ。 

 ところが、現状のように、大学3年と4年の大半を就職活動にとられるような採用・就職活動を強いられると、学生たちには2年生の夏休み入りと同時に留学するという選択肢しか残らない。しかし、そのためには、大学の受験英語とは全く別物の英語試験であるTOEFL受験やビザ取得、入学手続きなどを1年生のうちに終えておかなければならない。

 経済的な手当ても含めて、よほど恵まれた学生でない限り、こうした手続きをすべて1年生のうちに終えるのは容易なことではない。

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