「生活保護急増」と闘う市長が「大阪都構想」を論破する
連載 インタビュールポ 平松邦夫と「もうひとつの大阪」 最終回

第四回 『「選挙で勝ったら何でも自由にできる」というのは民主主義ではない』はこちらをご覧ください。

[取材・文:松本創]

 マスメディアを席巻する橋下徹・大阪府知事の主張とは一線を画す、平松邦夫・大阪市長の考え方や改革の手法が明らかになってきたところで、2人の対立の火種となった「大阪都構想」について、あらためて問うてみたい。構想とその狙いをどう見ているのか。反対する理由はどこにあるのか。

 「都構想」の端緒となる考えを橋下が口にしたのは、ちょうど1年前。「大阪市を解体し、府と市を一体化して国際的競争力を持つ都市圏を形成しなければならない」という主張だった。その後、「都」の名称の是非や特別区の区割りと位置付け、分市案など、さまざまな言葉がメディア上に踊ったが、それ以上の具体的な中身はほとんど明らかになっていない。

 橋下率いる「大阪維新の会」のホームページには、構想の二本柱として、(1)広域行政を現在の大阪府のエリアで一本化する、(2)大阪市内に公選の首長を8から9人置き、住民に身近な行政サービスを担わせる、その流れで大阪市役所も改革する、とある。

 広域行政とは「大阪全体のグランドデザインを描き、財源を集中投資し、世界と勝負する」ことだという。空港、港湾、高速道路、鉄道などのインフラ整備。教育機関の競争力向上。病院や初等教育機関の整備。法人減税や規制緩和を軸とする特区の設定。さらには観光客誘致。橋下が最近関心を示すカジノ構想も、ここに入るだろう。

 つまりは、企業や産業を誘致し活動しやすくする仕事、平たく言えば「カネを稼ぐ」部門は「都=府」が担当する、ということらしい。実際、教育機関の競争力向上は「人材を獲得しやすいよう」、病院や初等教育機関については「従業員が暮らしやすいよう」と、企業目線からの理由を挙げている。

 一方、大阪市域の再編については、市域を分割し公選首長を置く、「その仕組み自体が住民にとってのメリット」なのだという。区ごとに地域に応じた予算を編成し、区長を競わせることで住民サービスが向上するという主張は一見、「地域主権」的な発想に見えるが、その実、企業経営やマーケティングの論理に近い。

 橋下の競争至上主義、また、ブレーンとして絵を描く上山信一・慶応義塾大学教授の考えが如実に反映されているようだ。上山は旧運輸省を経て、経営コンサルティング会社「マッキンゼー&カンパニー」に在籍した経歴を持つ。平松の前任の關淳一市長時代には、大阪市市政改革推進会議の委員長を務め、「市役所リストラの尖兵」として恐れられていたと、当時を知る報道関係者は言う。

「大阪都構想」には中身がない。「大阪都妄想」だ。

 なぜ「都構想」に反対か、ですか? 理由はたくさんありますけど、最大の理由は、地方分権に完全に逆行する考え方だからですよ。上から市域を切り分けて、財源や大規模な事業、それに関わる権限は府に集めるというのは、地域主権でも何でもなく、「府県集権主義」にほかならない。

 カネと権限を中央に集めて地方に分配した高度成長期の夢にすがるような、あるいは、大企業の利益や効率・合理化ばかりを優先させた小泉・竹中路線を踏襲するような、まったく時代遅れの発想ですよ。

 地域の問題意識や住民の創意工夫をすくい上げ、行政はそれを解決・実現するためにサポートするという、これから目指すべき自治や協働の発想が、彼らにはまるでない。それどころか、市民生活に関わる基礎自治体に関しては「枠組みを変えるから、あとは区長を選んで好きにやれ」という。無責任極まりない。

 彼らの恣意的な線引きによって切り分けられる地域は、産業の集積度合いも住民の構成も異なるわけで、そうすると税収や支出で必ず格差が生まれます。これまでは大阪市が市域一体で行政運営してきたから、均衡を保ちながら発展することができた。その歴史や行政の役割を根本的に分かっていないんです。

 彼らは、基礎自治体は30万人が適正規模だとか、「都」にすれば二重行政が解消できるとか、産業が発展するとか言いますが、それを裏付けるデータや分析、論拠はどこにもない。ただ耳ざわりのいい言葉を並べ立ててイメージを煽っているだけ。1年あまり経っても、構想の具体的な中身も出てこなければ、どう進めるのかという道筋も示されない。だから僕は先日、ある集会で「これは"大阪都妄想"だ」と言ったんです。

 連載第1回で触れた通り、府市対立の歴史は長い。1951~52年に大阪・横浜・京都・神戸・名古屋の5大都市が府県から独立する「特別市」に移行しようとしたが、府県の反対により挫折。大阪市は55年に周辺6町村を合併したが、この時も府議会の猛反発に遭っている。

 一方、府の「都構想」が浮上したのも、今回が初めてではない。市町村を自治区とし、「都」が広域行政を担う「大阪商工都構想」を府が表明したのは同じ55年。2000年には、橋下の前任の太田房江知事が今回とほぼ同じ構想を提案。逆に市は、府から権限と財源を大幅に移譲させる「スーパー指定市」構想で対抗した。

 60年に及ぶ「府市合わせ(不幸せ)」の構図。その延長線上に2人の対立はある。ここに風穴を開けたい橋下は昨年4月、「新たな大都市制度を議論するため」として、「大阪府自治制度研究会」(座長=新川達郎・同志社大学大学院教授)を設置した。

 ところが、5人の委員は昨年末の最終会合で「大阪都構想の導入は困難」との見解で一致。府市関係を改善するため、大阪市の分市案や区役所の権限強化などを提示したものの、まずは両者による政策協議会を設置するべきだとし、「ポピュリズムにならないよう」「一時の熱狂に踊らされないよう」という意見まで相次いだのである。

 自ら委嘱した行財政の専門家たちの思わぬ"反乱"に橋下は激怒。「府としては受け止めるが、政治活動は別」「府の一研究機関が政治団体(大阪維新の会)に間違ったコメントをするのはやってはいけないこと」と述べ、知事の立場で研究会に抗議する考えを示した。

 研究会の結論は、分市案は別としても至極真っ当ですし、一定の重みはあると思います。それにしても、自分の政治的主張の材料とするために研究会を設置しておいて、思い通りに行かなければ知事として抗議というのは、あまりに身勝手ですよね。あのメンバーを集めた府の職員は、かなりきつく責められているのではないかな。

 橋下知事や(知事顧問の)上山氏は、要するに大阪市の持っている財源や権限を奪いたい、そして好き勝手に使いたいだけだと見る人もいます。知事になってみたものの、思いのほか権限が少なかった。邪魔なのは政令指定都市であり、市域も大きい大阪市だ。これを自分のものにしなければ権力が振るえない・・・と。

 自らの権力と意向のために大阪市を解体するという話だとすれば、市民を守る市長として反対するのは、ますます当然でしょう。

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