朝日がん大賞の疑問
新聞社は「読者目線」が欠落しているのではないか

 朝日新聞社の外郭団体である公益財団法人・日本対がん協会(箱島信一理事長)が9月1日付で、今年度の「朝日がん大賞」に福島県立医科大副学長の山下俊一教授(長崎大学を休職中)を選出したことが物議を醸している。

 福島県では、山下氏は「100ミリシーベルトまでなら大丈夫だ」と言って避難を遅れさせた張本人とされ、こんな賞をもらっていいのかといった声が出ているからだ。「朝日新聞社には抗議の文書や電話も殺到している」(朝日新聞関係者)という。

罷免と求める記事と同じに「ひと欄」で紹介

 朝日新聞は9月1日付の朝刊ひと欄で山下氏を「がん大賞」受賞者として紹介。記事では、山下氏が旧ソ連のチェルノブイリ原発事故後の医療協力に現地に100回を超えて出向いたことや、福島第一原発の事故直後から現地入りして、福島県放射線健康管理リスク管理アドバイサーとして住民に放射線の健康影響を語ったことなどに触れている。

 一方で、同日付朝日新聞福島版では、3つの市民団体が福島県に対して県民健康調査の見直しを求める要請書と、放射能汚染で県民に退避を呼びかけなかったなどとして山下氏のアドバイザー罷免を求める6662筆の署名を8月29日に提出した、と報じている。

 ひと欄では受賞を称える記事、県版では罷免要求の記事を同じ日の紙面にそれぞれ載せるとは、それがニュースという価値判断であったとしても何となく不自然に感じる。

 市民団体のひとつである「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」事務局は筆者の取材に対してこう説明した。

「震災直後から山下氏は福島県内で講演しており、ラジオなどメディアにも頻繁に登場していました。山下氏が『大丈夫だ』と言ったおかげで、本当だったら避難して被ばくしなくて済んでいた人が被ばくしてしまった可能性があります。『がん大賞』受賞には、ふざけるなという気持ちです。抗議文を朝日新聞社や他メディアに送りました」

 また同ネットワークのホームページには9月6日付で「朝日がん大賞に山下俊一氏を選んだ朝日新聞に抗議します」と題する文書も掲載されている。その一部を以下に紹介する。

「なぜ、山下俊一氏の行っている行為がこのような形で評価されるのか、理解に苦しみます。氏の発言が、子どもを守ろうとしている福島の親たちをどれだけ苦しめてきたのか、またこれからも福島医大の副学長として福島県民を苦しめるつもりなのか、貴社の選考基準には入っていなかったのでしょうか」

「山下俊一氏は、3月下旬から福島県に入り、『年間100ミリシーベルトでも問題ない。妊婦でも子どもでも危険はない』という発言をくりかえしてきました。当時の同氏のこの発言は、福島市政だよりにも掲載され、福島県で『安全神話』を築き上げてきました。同氏は医学系の雑誌には、低線量被ばくのリスクを指摘する記事を書きながらも、福島では逆に低線量被ばくのリスクを全く否定する言動をとったのです」

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