「増資マフィア」の次は「増資インサイダー」の摘発がSECの課題
当局が目をつけた3銘柄の動き

 日本の証券界の誰もが、「こんな不公正は許されるべきではない」と感じている。

 上場企業が大規模増資を発表、希薄化で株が暴落するのを見越して投資家は「売り」をかけようとするが、その前段階で情報を入手、空売りを仕掛けて儲けようとする「増資インサイダー」の連中の行為のことだ。

 インサイダー取引は、増資など企業の重要事項の決定に関与した当事者と、その人物から直接、情報を得た「一次情報受領者」のみが罰則の対象になる。

 そこでインサイダー取引の確信犯は、「一次情報受領者」から情報を得た二次情報、三次情報の受領者となるなど工夫を凝らして違法状態を逃れようとする。その分、摘発は難しく、立件しても国民の理解を得られないような処理の仕方となる。

 例えば、私が本誌の2010年11月11日付けで報じた「社外取締役とTOBが西友インサイダー事件の核心」と題するインサイダー取引事件である。

 大手スーパー・西友の社外取締役が、夫にTOB(株式公開買い付け)情報を漏らし、それを利用して夫が事前に西友株を仕込んで売り抜けた事件だ。夫は在宅起訴されたが、妻は「知らなかった」ということでお咎めなし。世間一般の"常識"では通らない決着となった。

 しかし、証券市場のグローバル化が進むなか、日本市場が「インサイダー天国」では、世界の機関投資家が相手にしない。きっちりと犯罪の芽を積む必要がある。

 そこで証券取引等監視委員会(SEC)が調査に乗り出した。

「事前の売りがどうして可能なのか。そのメカニズムを解明するとともに、違法性の高い『売り』を仕掛ける確信犯の軌跡を追って、一罰百戒的に摘発する方針。すでに、国内で派手に事前売却を仕掛けているファンド主宰者のX、スイスで投資ファンドを運営するZなどの名が"候補"として挙がっている」(SEC関係者)

 対象銘柄は、昨年、公募増資を実施、あまりにおかしな株価の動きをした国際石油帝石(増資額5500億円)、日本板硝子(同400億円)、東京電力(同5500億円)の3社である。

 10年9月29日、東京電力は取引終了後、約5500億円の大型増資を発表した。それを見越したように、当日、大規模な空売りが相次ぎ、出来高は数倍に膨らみ、価格は約8%も暴落した。

 「増資インサイダー」のメカニズムはある程度、判明している。

 増資の引受証券会社が、機関投資家に対して潜在的な需要動向を探る市場調査を実施することがある。「プレ・ヒアリング」と呼ばれ、海外の機関投資家に行うことだけは認められており、その情報が国内外の確信犯に流れ、「売り」の攻勢にさらされる。

 証券業界は、こうした事態を憂慮、東京証券取引所の斎藤惇社長は、10年11月24日の記者会見で、「増資インサイダー」を防止するための「空売り規制」に言及した。また、日本証券業協会の前哲夫会長は、12月14日、情報管理体制のチェックなど実態調査に乗り出すと記者会見で言明した。

 ただ、自主規制や自主防止策には限界がある。「空売り規制」にしたところで、ヘッジファンドが「借株」をして売れば「空売り」にあたらず、楽々と規制をクリアする。結局、確信犯を取り締まるには、摘発して刑事罰を問うか、巨額課徴金で、「増資インサイダー」がいかに割に合わないかを思い知らせるしかない。

 市場を監視、不良を退治するのはSECである。ということで、「増資インサイダー」の摘発が、SECにとって当面、最大の課題になりそうだが、佐渡賢一委員長のもとで「増資マフィア」の根絶に動き、かなりの成果をあげたことがあるだけに、期待はできる。

芋づる式の摘発も可能

 「増資マフィア」とは、業績不振企業に資金調達を持ちかけ、第3者割当増資などを実施、資金提供するスポンサーに利益をもたらすために、株価操縦、インサイダー取引、粉飾決算などの違法領域に踏み込む連中のことである。

 実は、2007年7月、福岡高検検事長を退官、SEC委員長に就任した佐渡氏が、最初に捜査指揮、根絶を目指したのは「増資マフィア」だった。

 今は、メンバーと手口が解明され、検察だけでなく、警視庁、大阪府警といった捜査当局が、SECと連携して摘発に乗り出している。主要メンバーは次々に逮捕され、直近の春日電機を食った篠原猛容疑者も「増資マフィア」の一員であり、増資に絡まなくとも彼らは、経済事件の主役だった。

 ただ、最初は、合法を装っていたことで捜査は難航、「元祖マフィア」の西田晴夫氏の摘発に、1年以上の時間を費やすありさまだったが、佐渡氏は「とにかくやれ!」と尻を叩き、逮捕起訴に漕ぎ着けた経緯がある。

 今も、「増資マフィア」のメンバーは生き残ってはいるものの、正体は割れ、手口を知られているだけに、無法を仕掛けることができなくなった。

 「増資インサイダー」も構造は同じ。国内外の確信犯が、情報ネットワークを構築、合法をしつらえて「売り」に入り、確実な儲けを得ているが、メカニズムを解明、メンバーを特定すれば、芋づる式の摘発も可能だろう。

 証券市場は、放置すれば淀み、濁り、腐臭を発する。それだけにSECには不断の努力が求められるわけで、増資発表の前に、必ず出来高を伴って「売り」が仕掛けられ、ストンと株価が下落する情けない日本市場の状況は、必ず、改善しなければなるまい。

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