問責隠しの内閣再改造から離れる人心
最優先すべきは予算関連法案の成立だ

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 政権の浮揚を賭けて菅直人首相が14日に実施した内閣再改造は、当事者が期待したほどの効果をあげていない。新聞各紙によると、内閣支持率は毎日が29%、日本経済新聞が31%。いずれも昨年12月の調査に比べて、わずか5ポイントしか改善しなかった。

 当の菅首相は記者会見で、「危機に向かって乗り越えていく力を最大にした」などと語り、6月までに消費増税の青写真や環太平洋経済協力協定(TPP)参加の是非を示すと強調、今後も中長期的に政権の座に固執していく構えを崩していない。

 しかし、今回の改造の実態が、参議院に問責決議を突き付けられた仙谷由人前官房長官と馬淵澄夫前国土交通相の2人を閣議メンバーから外すことだったのは周知の事実である。もはや多くの有権者が、首相が続投して中長期の懸案の実現に取り組むことを歓迎していないのは明らかだ。

 そもそも首相は総選挙の洗礼を受けていない。あるのは、惨敗した参院選で突きつけられた事実上の不信任という民意だけである。

 この局面で首相に期待されるのは、これ以上、経済の回復ペースが鈍化しないよう、速やかに来年度予算と予算関連法案を成立させることだけと心得るべきではないだろうか。そして、そのために必要な野党の協力を得るのに、話し合い解散も辞さない覚悟こそ求められているはずである。

 あの態度に、呆れた人も多かったのではないだろうか。

 菅首相は14日の記者会見の冒頭で、政権の置かれた状況を率直に認めようとしなかった。

 それどころか、「今の日本の置かれた大変危機的な状況、20年間続く経済の低迷、財政の悪化、不安な社会保障、そして進まない地域主権、また外交の問題でも多くの問題を抱えております。こういった危機を乗り越えていく上で、通常国会に向かって党と内閣の体制を、最もそういう危機に向かって、それを越えていく力を最大にしたい。そういう観点から改造を行い、また引き続き党の人事についても、明日、明後日を含めて幾つかの点での強化を図ってまいりたいと考えております」と言葉を連ね、改造を迫られた事情をすり変えて説明しようと試みた。

 だが、昨年9月の内閣改造からわずか4ヵ月しか経っていない。この異例の短期間で再改造をやることになった主因が、仙谷前長官と馬淵前大臣の問責決議を参院で採択されており、通常国会を召集するために、その2人を切り捨てる以外の選択肢を首相が持たなかったことは周知の事実である。

 新聞やテレビがあまり触れない、さらに細かい事情を説明すれば、改造の背景にあったのは、国会の運営慣行だ。実は国会を召集する際には、内閣の代表として官房長官が衆参両院の理事会に出て、与野党に通告する必要がある。問責決議を突き付けられた仙谷前長官にはそれが許されず、国会が開催できない状況があったのだ。

 実際のところ、今回の改造で新官房長官に就いた枝野幸男氏は、内閣再改造のその日(14日)のうちに、衆参両院の理事会に出席を許されて、24日招集という国会の日程をなんとか通告できた。

施策の優先順位を示すべき

 一方、今回の再改造で、あえて、たちあがれ日本を離党したばかりの与謝野馨氏を経済財政担当相に起用し、財政再建や社会保障制度の維持のための消費増税シフトを敷いたことは、痛みを伴う施策の重要性を逃げずに有権者に問いかけた閣僚人事として評価する国民が少なくないと筆者は考える。

 同様に、TPPに反対だった大畠章宏氏を経済産業相から国土交通相に回し、後釜に海江田万里氏をあてて自由貿易の推進体制を固めたことも、日本の将来を考えれば、高く評価されていい。

 連立与党のある実力者は早くから、「有権者は菅さんの指導力のなさに苛立ちを募らせているのだから、内閣を改造して閣僚を入れ替えてもたいした効果はない。替えるべきはべきは首相である」と語っていた。確かに、そういう面は否定できないだろう。

 とはいえ、公平に見れば、歴代の政権が先送りしてきた消費増税と自由貿易促進という2つの懸案に取り組むという決断については、もう少し高く評価されてもおかしくない。

 残念なことに、そうならない理由は、2つの閣僚人事が再改造を迫られたことの副産物に過ぎない点にある。換言すれば、副産物を、そもそもの自発的な狙いのように脚色しようと試みたことが災いして、もっと上がってもよかったはずの世論の支持を、菅首相は取り付け損なったとの分析が成り立つのだ。

 冷静に国会の勢力図(1月13日現在、時事通信調べ)をみると、参院の242議席のうち、与党は110議席(民主、国民新、無所属の合計)と過半数を下回っている。

 衆院(総数480)においても、与党は311議席(民主、国民新、新党日本、新党大地、無所属の合計)と、友好的な社民党(6議席)を加えても全体の3分の2に届かない。

 つまり、衆院の議決が優先する予算はなんとかなったとしても、参院で否決されるのが確実で、衆院での3分の2の多数による再議決が必要とみられる予算関連法案は成立を望めない。

 こうした中で、首相らは仲間内で、非与党系無所属議員(8議席)の一部をとり込めば再議決ができるといった皮算用に明け暮れて、足もとの国会対策をおざなりにしている。加えて、政治とカネの問題で民主党の半数を占める親小沢勢力の造反を招きかねない情勢も放置したままだ。

 ところが、予算関連法案には、税制改正や国債発行に必要な法案が含まれており、成立しないと、行政の運営に大きな障害が発生しかねない。

 つまり、首相が抜擢した閣僚たちが半年後に消費増税やTPP参加を打ち出すより遥かに前に、行政サービスの麻痺懸念から、政権が崩壊の憂き目をみることになりかねないのだ。政権を維持したいなら、首相は今一度、施策の優先順位を再考すべきである。

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