キリン・サントリー、経営統合破断の可能性カギを握るのは98歳のゴッドマザー社員も知らない全内幕

2010年02月08日(月) 週刊現代

週刊現代経済の死角

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「交渉は、キリンの加藤壹康(かずやす)、サントリーの佐治信忠両社長の“トップ会談”で始まった。業界団体の会合で顔を合わせた際、佐治社長のほうから声をかけ、'08年年明けに都内の日本料理店で昼食を共にしている。'08年中に何度か、会食し、'09年明けに佐治社長が経営統合を持ちかけた。

 加藤社長も結果的にゴーサインを出すのですが、それにはサントリー側の出した“条件”があったといいます」(全国紙経済部デスク)

 佐治社長のつけた条件の一つは、「サントリー」の社名を何らかの形で残すこと。そしてもう一つが、経営統合後もサントリーの大株主「寿不動産」の所有株の割合を3分の1以上に維持することだった。株式の3分の1を握る大株主は、経営の重要事項に対する拒否権を持ち、経営方針の決定に強い影響力を行使することができる。

「小が大を飲む謀略だ」と

 「寿不動産」とは非上場会社のサントリー株の大半を握る創業家・鳥井一族の資産管理会社である。この会社については後述するが、キリンの加藤社長は、2つの条件を飲んだという。交渉はこの条件を前提に始まった。少なくとも、サントリー側はそう信じていた。

 2条件にこだわる理由を、サントリー社員はこう話す。

「たとえば先日のハイチの大地震でも、ウチは赤十字を通じてすぐに1000万円の義援金を出しているんです。大阪でも養護老人ホームをやったり、学者に奨学金を出したりしている。創業者である鳥井信治郎の言う『利益三分主義』(利益の3分の1を社会貢献に使う)に基づくものですが、一定の株数を保持することで、新会社でもそういう良いDNAを維持したいと思っているんです」

 しかし、キリン側社員からは、この条件は「小が大を飲む謀略ではないか」と見えた。

「3分の1の株数を維持すれば、寿不動産が最大株主になり、もっとも強い発言権を持つ。キリン株は三菱グループで持ち合いをしていますが、自社株を合わせてもグループ全体で十数%に過ぎない。社内では、『加藤さんは佐治さんに騙されたんじゃないか』という声まで出た。大体、統合の話にしても情報が出ているのはサントリー側からばかりで、“既成事実”を積み上げている印象だ」

 キリンは三菱系の企業グループ「金曜会」メンバーで、かつて私大は早稲田、慶応出身者しか採用しなかったというほど、エリート志向の強い会社だった。「社風の違い」は、そのあたりからも来るのかもしれない。

 サントリー・佐治社長がキリンとの統合に強い意欲を持っていたのは、よく知られている。'02年に書き下ろし書籍のために受けたインタビューでは、

「5年以内に国内でM&Aを行使する可能性がある。その場合の対象はキリンビールとなるだろう」

 と語っている。「M&A」は「合併と買収」のこと。この発言を聞いたキリンの関係者は、「ウチを買収するということか」と不快感を隠さなかった。

 ともあれ、こうして始まった統合交渉は、はじめから波乱含みだった。

 サントリー側の統合チームは、青山繁弘副社長をトップとし、部長クラスを中心に15名前後。一方のキリンは、古元良治常務らのチームが窓口になった。

 統合に際して必要な双方の資産査定(デューデリジェンス)に当たったのは、サントリー側がゴールドマン・サックスの日本法人。キリンは、三菱系列の三菱UFJ証券と、モルガン・スタンレーを選定した。ビール事業の売り上げ、成長性、洋酒、清涼飲料水、食品など他事業、会社のブランド力など、あらゆる角度から会社の価値を数値化する作業が進められた。

「この作業を経て、双方が考える『統合比率』を互いに披露しあったのが、昨年11月末。その結果は、あまりに開きが大きいものでした」(前出・経済部デスク)

 両社の関係者によると、サントリー側の数字は「1(キリン)対0.9弱(サントリー)」だった。この比率なら、新会社における寿不動産=鳥井家の株保有率(支配権)は42.3%である。

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