田母神俊雄×三原じゅん子 新春対談「ニッポンの国防」
一触即発の中国・朝鮮半島情勢。米・韓・中、
そして北朝鮮とどう渡り合えばいいのか
田母神俊雄 元航空幕僚長 (左) たもがみ・としお/1948年、福島県生まれ。防衛大学校卒。統合幕僚学校長などを経て、'07年に航空幕僚長になるが、任期中に応募した懸賞論文の内容が「政府見解と異なる」として解任された。現在、軍事評論家として活躍中三原じゅん子 参議院議員 (右)みはら・じゅんこ/1964年、東京都生まれ。『3年B組金八先生』に出演し、不良娘役でブレイクした。'08年、子宮頸がんを患い子宮を摘出。'10年夏の参院選に自民党から出馬して初当選。最新刊『生きたい』(講談社)が好評発売中
〔PHOTO〕中野和志

---年が明けて早々ですが、今年、北朝鮮では金正日(キム ジヨン イル)総書記から三男への権力委譲が予想され、中国では、次期統治者と目される習近平(シー チン ピン)党中央軍事委員会副主席による軍事力増強が懸念されます。

 日本の新防衛大綱には「動的防衛力」というこの2国を意識した考え方が盛り込まれ、国防を考える絶好のタイミングと思い、この対談を企画しました。まず、記憶に新しい出来事は、11月に起きた北朝鮮による韓国・延坪島(ヨン ピヨン ド)への砲撃です。

三原 祝日(11月23日の勤労感謝の日)で国会はなく、翌朝、自民党の国防部会に出席して、何時に何が起きたのかという時系列を把握しました。あらためて現内閣の危機管理のなさに呆れましたね。

砲撃から2日後の韓国・延坪島に本誌特派カメラマンが入る。破壊された住宅には生活の痕跡が残っていた〔PHOTO〕神田正男

 アメリカのオバマ大統領は韓国の李明博(イ ミヨン バク)大統領と電話で協議し、砲撃直後に「言語道断の行為を強く非難するために国際社会と協力する」と声明を出しています。

 一方、「強く非難する」と、仙谷由人(せん ごく よし と)官房長官が公式見解を発表したのが発生から7時間過ぎの夜9時半頃、菅直人首相に至っては翌日でした。防衛省の危機管理は、どうなっているのでしょう。

「"政治主導"で日本は劣化した」
田母神 現在の自衛隊は、総理大臣の決裁なしでは何一つできない、むしろ何か命じられないうちは動いてはいけないという雰囲気が蔓延しているんです。

 「自衛隊が動くとロクなことにならないから、言われたことだけやれ」というのが政府の本音。もっと言えば、「現場に任せると戦争になる」とさえ思われています。

三原 「制服組の自衛官は何も考えるな」というのが日本流のシビリアンコントロール(注1)だということですか。

田母神 シビリアンコントロールの根幹の考え方は、外交問題が生じた際、問題を解決するのに軍隊を使うか、使わないかの決定権を政治の側が持っているという点にあります。

 政治家が他国と話し合いで解決しようとしたが、どうにも打開できない場合、「では、ここから先は軍を使う」と決断する局面が存在するわけです。

 さらに、政治家が達成する目標を軍に伝え、あとの方法論は軍に任せるというのが、普通の国のシビリアンコントロールなんですね。

 ところが、日本では「自衛隊は軍隊ではない」からと、今そこにある危機を自衛隊には判断させない。では、政治家が判断できるのかね。

「国防はボディ。鍛えときな!」

三原 無理ですね。まず、情報が入ってくるかどうかが心許ない。先ほどの話、李明博大統領はオバマ大統領にはすぐ電話で有事を伝えましたが、日本への連絡は優先順位が低かった。

 自衛隊を動かさない日本に電話をかけても無駄だと思われたのでしょう。

 9月に起きた、中国漁船が海上保安庁の巡視艇にぶつかってきた事件でも同じですが、結局、民主党の中に中国・韓国・アメリカと渡り合えるパイプがないことを証明したんです。自民党時代はパイプがあったはずです。

田母神 だとしたら実に恐ろしい。政権が替わっただけで、外務省をはじめ役所の組織に何ら変更はないのに、彼らが機能しなくなったことになる。

注1:職業軍人でない文民(政治家)が軍隊に対して最高指揮権を持つという基本方針
(左)動画共有サイト『YouTube』にアッ プされた尖閣事件の映像。中国漁船が 巡視艇に体当たりしてきたことは明白
(右)尖閣の映像を流出させた海上保安官 が、報道陣の前で謝罪(11月16日)。国 家公務員法違反容疑で書類送検された

三原 ですよね。本来、ずっとそれを専門にしてきた外務省の官僚が、各国との間にパイプを築いていないはずがない。要は、政権のために動かないんです。

民主党=中国、自民党=米国

田母神 日本の政治は、「政治主導」と言い出してからおかしくなったね。だいたい、「官僚支配=悪」の図式は、アメリカ発、中国発で日本の統治機構を弱体化させるために仕掛けられた情報戦争なんですよ。政治家が大臣になった途端、その省庁のあらゆることに精通できると思いますか? 官僚という専門家をうまく使えばいいじゃないですか。

三原 自国だけは得をしようという国際政治において、日本は情報戦争の渦中にあるという自覚がないですね。G2(注2)どちらにとっても、日本に力をつけられては困る。なのに民主党政権が率先して、強国の戦術に乗ってしまっている。

田母神 自民党は、どちらかというとアメリカ寄りの政党です。そして民主党はどちらかというと中国寄りの政党です。アメリカの政治家はアメリカ派でしょうし、フランスの政治家はフランス派です。

 日本だけ、日本派の政治家がほとんどいないんですわ。自民党の石破茂政調会長は「核武装すべきではない」と主張していますが、アメリカが核武装を容認しても反対するのか、甚だ疑問ですね。

三原 国内で与野党が米中に分かれて争っている最中、メディアの大多数が中国派にシンパシーを感じているのでしょうね。だから、民主党の政権運営がどれだけひどくても、当時の自民党と同じレベルで批判されることはありません。

田母神 気になったのは、尖閣の海で今、何が起きているかを、マスコミが伝えないことです。石垣島や宮古島にいる知人に聞けば、中国の漁船が大挙して日本の漁師が仕掛けた網を破り、追い払おうとすると中国の巡視船が体当たりしようと威嚇してきて、日本の領海、あるいは経済水域であるにもかかわらず、安心して操業できないのだそうです。

 海保なり海上自衛隊が監視し、警告を出さないと事態は打開できない。尖閣事件の背景を報じようとしないのは、日本のメディアが中国寄りだからかと勘繰りたくもなる。

注2:米と中、二つの超大国

三原 自民党はビデオ流出後、政党としては最初に石垣島に柴山昌彦先生・森まさこ先生を調査団として派遣して、巡視船「みずほ」の船長と乗組員の方々に話をうかがいました。海保が撮影した尖閣の映像は2時間ありますが、最後に相手の船に乗り移るシーンがあります。

 波の荒れ方も凄く、さらに相手が何人いるかも、武器を携行しているかも分からない船に、丸腰で向かったことが一番怖かったと話していました。その話を党に持ち帰ったのですが、マスコミは与党からの情報をメインに報道しますから・・・。

田母神 ところで、私は尖閣事件の映像を流出させた海保の職員の行動を支持しているんです。この意見を公に発言したら、自衛隊、海保、警察の職員からメールや手紙がたくさん寄せられましてね。彼らは「上官の指示に従わないことが許されていいのか」と質問してきます。

 ただ、今回の事案は、世論調査で8〜9割の人が公開したほうが日本のためだと考えています。「首相官邸が見せないと言っているから」と放置するか、「上の指示には反するが、国家のことを考えて己の処分を顧みずに行動する」という選択肢のうち、後者を選んだ彼を支持したい。そういう人のほうが、まともですよ。

---政府は衆・参両院の予算委員会の理事ら約30人を対象に、2時間以上ある一部始終のうち約7分間だけを編集して映像を見せました。海保職員が動画共有サイト『YouTube』に映像をアップしたのは、その3日後のことでした。

三原 その映像が流出した後も政府は見せないと言い続けていましたよ。現実にパソコンで見ることができるのに、あまりにナンセンスで非難囂々でした。結局、映像を流した海保職員も被害者なんですよ。

 もっと本当に早い時点で政府が映像を公表し、中国側の一連の行動が国際社会で通用するものかを問いかけ、外交のカードとして使うべきでした。そうしていれば、彼という個人が義憤にかられた行動を取ることもなかったのです。

田母神 まあ、三原先生には申し訳ないが、程度の差はあれ、歴代自民党政権もことなかれ主義でしたよ。「竹島(注3)周辺では韓国と、日中中間線(注4)付近では中国といざこざを起こすな。むしろ自衛隊も海保もそこに行くな」というのが従来の自民党からの指示でした。

 結果、竹島は実効支配され、尖閣の海ではこのようなことが起きる。いざこざが起きたとしても、即戦争にはならないことを、国会議員が信じていないんですよ。世界中の国が国際法に基づいて、領土・領海・領空の警備をし、中には銃撃戦も行われている。しかし、それらがすべて戦争にまで発展していますか?

三原 自民党も世代交代で、田母神先生が当時抱いたイメージから脱却しようとしています。野党になったことで、本当に言いたいことが言えるようになりましたしね。また、竹島問題についても自民党の新藤義孝先生(元外務政務官)が政府を厳しく追及しています。

 昨年の秋以降、韓国がヘリポートの改修工事を予算化し、沖合には15階建て相当の海洋科学基地建設が新たに計画されているのに、民主党政権は状況を国民に公表せず、韓国に対して何も抗議を行っていません。岡田克也幹事長は外相時代、「不法占拠とは言わない」と答弁しましたが、国民と領土を守るという自覚がないのかと呆れましたよ。

注3:日本海南西部にある島根県内の島。'52年、韓国の李承晩大統領が占領すると同時に近海を含む李承晩ラインを設定。韓国の呼び名は「独島(ドクト)」
 
注4:沖縄諸島と中国大陸の中間に位置する線。日本は、排他的経済水域の境界線を定める基準として主張
北澤俊美防衛相は朝鮮半島情勢を周辺事態法の適用対象として想定していないと強調('10年8月、陸自演習)〔PHOTO〕 菊池雅之

田母神 結局ね、「何をやっても日本は抗議はしない」と思われているから、どんどん踏み込まれていくんですよ。こんなデータがあります。'04〜'07年の4年間で、韓国の海上警察が違法操業を理由に拿捕した中国漁船の数は2037隻、逮捕者は2万人を超え、支払わせた保釈金の合計は日本円にして約18億円だそうです。

 中には銃撃戦になったケースも含まれているし、死者も出ている。ですが戦争には至っていない。さらに言えば、韓国に対して中国は黙ってカネを支払っています。日本には素直に支払うでしょうかね。要は、ナメられているんです。

三原 田母神先生がある雑誌で、こちらが武器を持っていないということが、逆に相手からすると攻撃を誘発する可能性を高めるとお書きになっていましたね。

田母神 強い者には手を出さないんですよ、国際社会は。自国が不利益を被ったら、相手国に「ふざけたこと言ってるとぶん殴るぞ」という態勢で臨むから相手も交渉に応じますが、日本の場合、「ふざけたこと言ってると話し合うぞ」という姿勢ですからね(笑)。

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