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現地ルポ 日本企業を技術で追い抜く中国電池メーカーの実力
韓国に負けた半導体の二の舞になるのか

 2010年12月末、私は中国最大級と言われる電池メーカーの「温斯頓(ウインストン)電池」(本社・深セン)を訪れた。12月10日付で社名を「雷天(サンダースカイ)」から変更したばかりで、日本の電池業界の関係者らには「雷天」といったほうが知っている人も多いだろう。訪問した日は、本社の看板などを架け替える作業が行なわれていた。

 この「温斯頓電池」は1998年に設立された新興企業で従業員は約600人。資本金1.3億元(約16億円)、総資産310億元(約3900億円)。リチウムイオン電池が主力で、2010年の売上高は5億元(約63億円)だが、11年はその10倍に拡大する見通しだ。すでに2015年までの注文が来ている。

 自動車業界など欧米向けの輸出が中心であり、その比率は95%になるという。今後、ロシアやドイツ、オランダなどに工場を設置し、現地生産も強化していく。

 増産対応するため、本社工場は今年から24時間稼働の交替制勤務に変更した。元気のいい中国企業を象徴するような存在だ。

 取材に対応してくれた会長補佐である張鵬氏(右写真)はこう説明する。

「中国には2000社近い電池メーカーがあると言われますが、独自で技術開発を進めることができるのは当社だけです。すべて中国の原材料と知恵で電池を造っています」

 主力商品は、夜間電力を蓄える「ストレージ電池」と自動車用電池。いま話題のEV(電気自動車)向けを強化しており、すでに独ベンツに納入したという。

 同社のEV向けの特徴は大型電池であることだ。日本では見たこともないような大きなリチウムイオン電池を生産している。

 放電容量800アンペアアワーの巨大リチウムイオン電池(850ミリ×71ミリ×283ミリ)は重さ26.5キロ。大型バスにこの電池を150個搭載し、1回の充電で400キロ走行できるという。

 実験場では、トヨタの小型バス「コースター」や中国共産党幹部の公用車で有名なリムジンタイプの「紅旗」などもEVに改造されていた。

 張氏は「現在、新型のリチウム硫黄電池を開発中であり、2年以内に商品化する目途がついています。このタイプは5分間の充電で1000キロ走行可能になります」と話す。

 そして、既存のリチウムイオン電池は、吉林省内に建設予定の新工場に移管され、本社では最先端の電池の開発・生産に特化していく考えだという。同社には3000アンペアアワー、10000アンペアアワーといった巨大電池開発技術がある。

 リチウムイオン電池は、放熱など安全性が課題だとよく言われるが、同社の製品は米国の安全基準をクリアしているとされ、米国の大手保険会社も保険の対象としているという。

中国が技術で日本を出し抜く

 創業者であり、技術者である会長の鍾馨稼氏は米国の大学教授も兼任しており、年に10回近くは渡米しているという。おそらく米国との産学連携も強化しているのであろう。同社は米国の国防省と連携しているとの情報もある。

 中国の自動車産業に詳しい日本の自動車メーカーの元役員にこんな話しをきいたことがある。「米中は覇権争いをしているように見えて、次世代エネルギー政策やその関連産業ではしっかり手を握っている。電池のデファクトスタンダードは米中が主導して決め、日本は仲間はずれにされていく可能性がある」

 中国の若手エリートエンジニアの中にも「エンジン技術では日本に勝てないが、どの国もEVはスタートラインに立ったばかり。中国が技術で日本を出し抜くチャンスがある」との声もある。中国政府がEV政策を強化しているのもこうした狙いが背後にあるのではないか。

 最近、「電池覇権」という言葉をよく聞く。ハイブリッドカーにしてもEVにしても、その性能を大きく左右するのは今のところ電池だ。また、電池の製造にはレアアースが必要なことから、世界的な資源獲得競争も絡んでくる。

 「温斯頓」の実力は未知数の面もあるが、その勢いや戦略を見ていると侮れない。最近、日本でも有名になった中国の自動車メーカーのBYDも携帯電話向けの電池ビジネスが事業の発祥だ。電池では中国が台頭している。韓国のサムスンも大手自動車メーカーからエンジニアを引き抜き、自動車向け電池の開発を強化している。

 かつて半導体産業で日本は優位にありながら、韓国の「物量作戦」に敗れた教訓から見れば、日本の電池メーカーもうかうかできない。

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