AT&Tに米司法省が伝家の宝刀を抜く
T-モバイル買収差し止め訴訟の行方

米司法省と徹底抗戦を宣言するAT&Tのステファンソン会長 背景は司法省の差し止め訴訟書 (写真撮影と合成は筆者)

 この買収は携帯業界の競争を阻害し、料金上昇やサービスの低下、選択肢や革新製品の減少を生み出すことになる ─ 米司法省発表資料より

 8月31日、AT&T社のTモバイル(T-Mobile USA)買収に対し、米司法省はワシントンDC連邦地裁に差し止め訴訟を起こした。AT&Tは「裁判で徹底的に戦う」と対決姿勢をあらわにしている。

Tモバイルは競争促進のかなめ

 携帯業界最大手のAT&T は、2011年3月20日に同4位のTモバイル(T-Mobile USA)買収を発表した。390億ドル(約3兆円)という巨額の買収は「競争環境を悪化させる」と市民団体や競争相手のSprint Nextel社(同業界3位)が激しい反対運動を進めた。一方、複数の連邦議員や業界団体、シリコンバレーの大手企業は「無線ブロードバンド整備を優先すべきだ」と買収支援に回っていた。

 なお、AT&Tが買収に至った理由は、以前のコラム「AT&Tの携帯独占を支援するシリコンバレーの現実主義」を読んで欲しい。

 同買収の争点は以下の2点に集約される。
LTE周波数問題:AT&Tは、次世代無線ブロードバンド整備のためTモバイルの所有する無線免許を獲得する必要がある。
LTEによる競争促進:買収は無線ブロードバンド整備を促進し、携帯電話業界の競争を活発化させる。

 米司法省は、最初の周波数問題については触れず、2点目の競争促進問題については、真っ向から否定している。31日に発表されたプレスリリースによれば「Tモバイルは業界4位で厳しい競争にさらされているため、様々な最新サービスや端末を積極的に導入してきた」と司法省は同社存在の重要性を指摘している。

 確かに、Tモバイルは様々な点で最新サービスを提供してきた。業界初のAndroid端末の発売やRIM社のBlackberry端末による企業向け携帯電子メール市場の開拓、若者のテキスト・チャット文化を生み出したSidekick端末の提供、いち早く開始した全米Wi-Fiホットスポット・サービスなどが有名だ。司法省は、Tモバイルの存在が競争環境を維持するために非常に重要だと指摘している。

 また、司法省は、AT&TはTモバイルに脅威を感じており、買収は競争相手の排除を狙ったものだと指摘している。ただ、この指摘については、やや疑問が残る。

 2009年は103万3000の加入者純増を確保するなど、Tモバイルは健闘してきた。しかし、トップ3社の厳しい競争にさらされ、2010年は5万6000加入の純減に転じた。特に2010年10-12月期は年末商戦シーズンにもかかわらず2万3000加入も減った。

 こうした事態を受け、Tモバイルの親会社ドイツテレコムは2010年秋ごろから水面下で売却や合併を打診していた。こうした状況で、AT&TがT-Mobileに脅威を感じていたとは思えない。

 一方、司法省はAT&Tが主張する「T-Mobile買収が次世代無線ブロードバンド整備に欠かせない」という主張を無視している。司法省としては、AT&TのLTE(Long Term Evolution、次世代無線ブロードバンド規格)整備は、独占審査に関係ないとの立場だ。

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