白書で中国を「高圧的」と懸念示す
[防衛]頻繁な首相交代で心配な戦略の欠如

04年11月に中国の大連港コンテナヤードで撮影されたワリャーグ

 日本政府が8月に公表した11年版「防衛白書」は、外洋への膨張を続ける中国を「高圧的」と記し、強い懸念を示すものとなった。日中間では、昨年9月の尖閣諸島沖の漁船衝突事件後も、海上自衛隊の護衛艦に対する航空機接近事案などが相次ぐ。

 南シナ海でも、東南アジアの国々と領有権をめぐる摩擦が生じている。日本政府は、「対話」を前提にしつつ、日米同盟を軸にした多国間によるけん制もにらむが、民主党政権の当事者能力の欠如が懸念材料だ。

 「どういう理由で必要かを大国として明らかにしてほしい。地域に大きな影響を与えることは間違いないので、警戒感を持って見ていきたい」

 北沢俊美防衛相が8月12日の記者会見で、中国初の旧ソ連製空母「ワリャーグ」の試験航行に対して述べた発言は、白書全体に通じる問題意識だ。

 今回の白書は、諸外国の防衛政策を論じた90ページのうち、最大の20ページを中国の記述に割いた。象徴的だったのは、海洋活動の活発化については、「周辺諸国と利害が対立する問題をめぐり、高圧的とも指摘される対応を示すなど、今後の方向性に不安を抱かせる面もある」と述べ、国際的な規範の共有や、地域やグローバルな課題に対する「より積極的、協調的な役割」を求めた点だ。

 さらに白書は、中国が核・ミサイルや海・空軍の「広範かつ急速な近代化」を進め、「戦力を遠方に投射する能力の強化に取り組んでいる」と指摘。「今後も東シナ海や南シナ海などで活動領域の拡大と常態化を図る」と分析し、昨年の白書と同じく「地域・国際社会の懸念事項」と結論づけた。「南シナ海をめぐる動向」も新設し、「地域や国際社会の平和と安定に影響を及ぼす可能性も考えられる」と記した。

 中国軍の活動の背景にあるのが、米軍の西太平洋における展開を妨げるため、構築を急ぐ「接近阻止戦略」。空母は戦略の中核的な存在だ。空母のみならず、北海、東海、南海の3個の艦隊からなる艦艇は約950隻(うち潜水艦約50隻、総計約134万トン)を保有。自衛隊幹部は「特に海軍力増強が目立つ。運用面は未熟だが、ハード面で米軍・自衛隊との戦力差は縮まっている」と指摘する。

 航空戦力は、空軍、海軍を合わせて作戦機約2040機を保有。1月にはステルス性能を備えた第5世代の戦闘機「殲(せん)20(J20)」の試験飛行を行った。ゲーツ前米国防長官は2月の上院軍事委員会で、第5世代戦闘機を20年までに50機、25年までに200機程度配備する可能性に言及した。

 ミサイルに関しては、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの保有を進め、米空母などへの攻撃を想定した対艦弾道ミサイルも開発中と見られる。

膨張する中国国防予算

 軍事力増強を支えるのが、国内総生産(GDP)で世界第2位になった経済成長だ。11年度の国防予算は約5836億元(約7兆5868億円)。名目上の規模は、過去20年間で約18倍となり、白書は「引き続き速いペースで増加」と分析した。しかも、研究開発費などは別口とされる。

 影響力拡大の動きは、アジア諸国にとどまらない。白書は、地理的に離れた「中東、アフリカ諸国、太平洋島しょ国、中南米諸国との関係」を新設し、これらの地域への中国の積極的な武器輸出や軍事協力に言及した。

 海洋や宇宙と並び、国際公共財(グローバル・コモンズ)に位置づけられる「サイバー空間」を「国際社会の課題」のトップ項目に挙げたのも中国抜きに語れない。「国家の安全保障に重大な影響を及ぼし得るものだ」とした記述について、防衛省幹部は「中国発と見られるサイバー攻撃が頻発しているからだ。対応を急ぐ必要がある」と危機感を隠さない。

 日本政府も、昨年12月の「防衛計画の大綱」(防衛大綱)では、新たに「動的防衛力」の考え方を打ち出した。具体策とした南西諸島の防衛力や海・空自衛隊による警戒監視態勢の強化などは、明らかな「中国シフト」だ。

 もちろん、経済的に切っても切れない関係にあるため、中国との関係の基本は対話路線だ。日中両政府は7月26日に防衛省で3年4カ月ぶりに次官級協議を開催した。東シナ海などでの不測の事態を避ける「海上連絡メカニズム」を作るための実務者協議の早期再開で合意した。

 しかし、中国側代表の馬暁天人民解放軍副総参謀長は会談で、南西諸島への陸自配備に「自分たちは、何ら懸念されるような活動はしていない」と反発したという。日本側当局者も「実務者協議の打診を何度しても、これまで中国からは返事さえこなかった」と語り、今後の進展は容易ではない。

 ここにきて、中国をけん制するため、日米同盟に回帰し、多国間連携を図る日本政府の動きも目立っている。白書では冒頭に、東日本大震災の特集面を設け、被災地で活動する米軍の「トモダチ作戦」を紹介。同盟深化につながったことをアピールした。

 6月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で決めた共通戦略目標には、日米の枠組みのほかに、日米韓、日米豪、さらにASEAN諸国との安保協力が盛り込まれた。さらに8月に防衛省がまとめた「構造改革に向けたロードマップ」でも、日米豪、日米韓による共同訓練を増やす方向を示した。

 しかし、菅直人首相の退陣表明に伴う民主党代表選のあおりを受け、9月上旬に予定していた日米首脳会談は延期に。中国との海上連絡メカニズムの進展に向けて調整していた8月中の日中防衛相会談も立ち消えになった。豪との外務・防衛担当閣僚による日豪安全保障協議委員会(2プラス2)も日程が決まらない。

 1年ごとに首相交代が続く状況に、外交・防衛当局者からは「戦略的な動きができない」(日米外交筋)との不安の声も漏れる。

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