先送りされた違憲状態の衆院定数是正
[1票の格差]任期を控え喫緊の政治課題に浮上

 今年3月の最高裁判決で違憲状態とされた1票の格差を是正する衆院選挙制度改革が、8月末に閉会した通常国会では見送られた。菅直人前首相の退陣時期に関心が集中し、選挙制度改革にまで議論の機運が高まらなかったことが原因だ。新たな制度への変更や周知には時間が必要で、衆院議員の任期満了を13年8月に控え、選挙制度改革は秋の臨時国会での喫緊の課題になりそうだ。

 衆院選挙制度改革の問題が浮上したのは今年3月の最高裁判決からだ。最高裁判決は、09年衆院選で最大2・30倍だった1票の格差を違憲状態として、都道府県にあらかじめ1議席を割り振る1人別枠方式を廃止するよう国会に求めた。

 1人別枠方式は、衆院選に小選挙区制が1994年に導入された際、衆院議員選挙区画定審議会設置法に規定された区割り基準に加えられた。小選挙区の定数300のうち47をあらかじめ全都道府県に1ずつ割り振り、残る253を人口比例で配分する仕組みだ。1人別枠方式は人口の少ない地方に配慮するために採用されたが、3月の最高裁判決では導入時の激変緩和措置の役割を終えたとして「できるだけ速やかに廃止」とした。

 各党はこれまでに選挙制度改革案を示しているが、与野党協議に向けた動きは鈍い。民主党の執行部は、1人別枠方式を廃止し、300小選挙区の議席を「21増21減」とする改革案をまとめている。同党は野党時代の00、01、04年に1人別枠方式を廃止する法案を国会に提出したが、7月の党政治改革推進本部総会では「人口だけで考えるべきでない」「地方の声が反映されなくなる」などと反対する意見が続出した。岡田克也幹事長(当時)は正式決定を新執行部に委ねる考えを明らかにし、先送りが決まった。

 自民党は5月、民主党に先がけて改革案を発表している。現行の定数(選挙区数)3の山梨、福井、徳島、高知、佐賀5県の定数を一つずつ減らして格差を2倍未満に抑える内容だ。同党の細田博之・党政治制度改革実行本部長は「衆院には格差を2倍未満にする義務がある。議長が音頭をとって与野党で合意を図るべき」と強調した。だが、自民党の案は各県の定数を2以上として事実上、1人別枠方式を温存しており、民主党の主張との隔たりも大きい。

 そもそも衆院小選挙区の区割りは政府の衆院議員選挙区画定審議会が同設置法に基づき、10年ごとの国勢調査を踏まえて改定する。同審議会は昨年10月の国勢調査結果を踏まえた改定案を首相に勧告する予定だったが、3月の最高裁判決を受けて作業は中断したままだ。

 1人別枠方式の廃止には時間がかかることも早期の与野党の協議が求められる一因だ。衆院議員の任期満了から逆算すると、12年の通常国会で区割り法案が成立すれば、約1年間の準備や周知期間が保てる。同審議会の改定案勧告には通常1年かかっており、今年秋に審議を始めても来年の通常国会への区割り法案提出は微妙だ。仮に来年秋の臨時国会提出となると、日程がタイトになり任期が1年を切った衆院議員が選挙に向けて走り出す可能性が強い。

 総務省が今年2月に公表した10年国勢調査の速報値では、人口が最少だった高知3区(24万1343人)を1とした場合、最大の千葉4区(60万9081人)との1票の格差は2・524倍に達した。神奈川10区(60万5477人)が2・509倍、東京6区(59万1194人)が2・450倍と続き、2倍超は97選挙区にのぼる。同省が8月に発表した住民基本台帳人口によると、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島3県の計8選挙区を除く292選挙区で、千葉4区(60万1321人)の2・442倍が最大の格差。

参院は最大格差5倍以上

 一方参議院の場合、この速報値では、人口が最少の鳥取県(29万4209人)を1とした場合、神奈川県(150万8250人)は5・126倍で最大だった。大阪府(147万7149人)が5・021倍、兵庫県(139万7294人)が4・749倍となった。また総務省が8月に発表した住民基本台帳人口に基づいて集計すると、参院選挙区(被災3県を除く)で、最大格差は神奈川県(148万4432人)の5・013倍だった。

 参院に関しては1票の格差に対する最高裁判決はまだ出ていないものの、最大5倍だった10年参院選に対して東京、高松、福岡の3高裁が「違憲」と断じている。参院でも各党案の隔たりがあり、通常国会での合意は見送られた。

 参院の現行制度は定数242を選挙区146と比例区96に割り振る。選挙区は都道府県を単位として、半数改選のため各選挙区に偶数の定数を配分している。

 民主党は7月の参院議員総会で、都道府県単位の47選挙区のうち10県の選挙区を二つずつ1区に統合する合区や、7府県で定数を増減するなどの案を決めた。合区する県は、山梨・長野(定数4)、石川・福井、島根・鳥取、高知・徳島、長崎・佐賀(同2)。また宮城、福島、新潟、岐阜、京都、広島を定数4から2減らし、神奈川は定数6から2増とする。選挙区と比例代表で各20議席を削減し、総定数は242から202に減らす。格差は最大2・967倍に縮小する。

 自民党の参院改革本部が6月にまとめた改革案は、総定数は242から236に減らし、選挙区定数(146)を4減、比例代表定数(96)を2減とする。この案では「1票の格差」は4・48倍に抑制できる。公明党は、定数を現行242から200に削減、衆院比例代表と同じ全国11ブロックの大選挙区制を導入する案だ。現行制度を廃止する案で、1票の格差は四国ブロックを1とすると最大で北海道の1・385にとどまるという。各ブロックの人口に比例し定数配分。最大定数は近畿ブロックの32。最小は北海道、四国両ブロックの8だ。

 被災地の地方選の選挙実施が最長で年末まで延期され、「被災地を置きざりにして解散・総選挙はできない」が当面の与野党の共通認識だ。しかし、民主主義の根幹である1票の格差是正に、国会が早期に結論を出す必要がある。

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