「最強の捜査機関」の信頼回復へ
[特捜検察]財政経済班の拡充、複数のチェック体制

特捜検察の改革を進める笠間治雄検事総長=検察庁で4月8日

 大阪地検特捜部による証拠改ざん・隠ぺい事件など一連の不祥事を受けて、検察当局は笠間治雄検事総長のもとで、過去にない規模で改革を進めている。その中で最も注目されるのが、特捜検察の改革である。60年を超える歴史を持ち、多くの政財官界の不正をあぶり出してきた「史上最強の捜査機関」は今後どうなっていくのか。検察改革の道筋をたどりながら、特捜検察の今後を探ってみたい。

 特捜部の正式名称は「特別捜査部」。現在、東京、大阪、名古屋の3地検に置かれているが、今年10月をめどに、独自捜査を行う体制を相対的に縮小するなどの見直しを行うことになった。7月8日に最高検が明らかにしたものだが、この「体制見直し」の本質は、事実上の「特捜部の存続」だといえる。

 ある検察幹部は「多くの特捜経験者は、東京地検特捜部のみを残し、大阪、名古屋地検の特捜部については廃止を覚悟していた」と話しており、特捜部は一部消滅の危機を迎えていたわけだ。

 では、どのように変わるのか。特捜検察の中核である東京地検特捜部で見ると、これまで政界汚職や大型経済事件などの独自捜査を担当してきた特殊直告班を現在の2班体制から1班に縮小し、現在1班で脱税事件などを手掛けてきた財政経済班は、東京国税局担当(財政班)と、警視庁捜査2課や公取委、証券取引等監視委などその他機関担当(経済班)の2班体制に増強する。大阪、名古屋両地検でも同様に、財政担当検事を増やすことになっている。

 特殊直告班は独自捜査を行う特捜検察の主流であり、財政経済班は、国税当局や証券取引等監視委員会からの告発事件を担当するため、相対的に地位が低かった面が否めない。ある東京地検特捜部OBの弁護士は「旧庁舎時代には、特殊直告班が5階、財政経済班が4階にあったため、財政経済班を示す『4階』という言葉には、ややさげすみの響きがあった」と明かす。

「独自捜査優先主義」を修正

 しかし、郵便不正事件に絡む証拠改ざん・隠ぺい事件にみられるように、独自捜査に対しては、ストーリー優先の捜査や供述調書偏重の取り調べ手法に批判が集まった。このため、笠間総長は7月に体制見直しを発表した際に「独自捜査の意義は変わることはないが、過度の独自捜査優先の考え方は過度のプレッシャーを生みかねない」とその理由を説明した。さらに「『独自捜査優先主義は間違いだ』と心のチェックをしてほしい」と自らが10年以上在籍した古巣の特捜検事に呼びかけた。

 ただ、笠間総長の言葉にもある通り、独自捜査の意義がなくなるわけでは決してない。一時は特捜部の「看板替え」も検討され、「財政経済部」「特別刑事部」などの案も出された。

 だが、権力犯罪を監視する独自捜査機能を存続させる必要性には異論はなく「看板が持つ存在感は大事だ」「名称が変わると、看板によって事情聴取に応じてきた参考人らが応じなくなってしまう」「きちんとした捜査が大事であり、名称変更に意味はない」などといった意見が笠間総長を前に出された。

 6月中旬、東京・霞が関の検察合同庁舎会議室に十数人の特捜検事が集まった席上のことだ。笠間総長も「現場の反対を押し切って(名称を)変更するほどのメリットを感じなかった」と述べており、それだけ「看板」へのこだわりは強い。

 特捜部の歴史を振り返ると、その役割をよく理解できる。特捜部は1949年に発足したが、その前身は、終戦直後に相次いだ軍や政府関係による物資の横流し事件を摘発する「隠退蔵事件捜査部」だ。検察庁法は「検察官はいかなる犯罪についても捜査できる」と規定しており、殺人や窃盗といった一般犯罪の捜査を警察に任せる一方で、政治家や官僚による「国家的犯罪」の捜査を特捜部に委ねたと解釈されている。

 加えて、特捜部は国税当局や公正取引委員会、証券取引等監視委員会による脱税や独占禁止法違反、金融商品取引法(旧証券取引法)違反など経済事件の捜査も手掛けており、このため「政官財」の腐敗に切り込む最強の捜査機関と位置づけられてきた。

「特捜検察は国家機関に巣くったがんを切除する外科医」と表現したのは、かつて「検察の鬼」と呼ばれた元東京地検特捜部長の河井信太郎氏(故人)。自著「検察読本」の中で、捜査の結果によっては内閣倒壊もやむを得ないとしたうえで、検察官の心得として「まず身を修め、だれの前に出ても(犯罪に関する限り)懺悔(ざんげ)させ頭を下げさせるという確固たる信念を持たねばならない」と説いている。やはり「国家権力そのものに弓を引く国家権力」が必要だということだろう。

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