吉原 清児:著 『医師がすすめる「最高の名医」+治る病院』 脳梗塞・脳出血/t-PA血栓溶解療法
豊田一則(国立循環器病研究センター病院 脳血管内科部長)
とよだかずのり 62年福岡県生まれ。87年九州大学医学部卒業。89年国立循環器病センター(旧称)レジデント。02年九州医療センター。05年国立循環器病センター医長。
10年~現職。
 
医師歴23年目。写真右は、「頸部血管超音波検査画像」。動脈硬化症が一目でわかり、年間4500件をこなす。「この20年における脳卒中医療の進歩の一つです」

夢の薬「t-PA」血栓溶解療法で壊死しかけた脳細胞がよみがえる

[取材・文:吉原 清児 写真撮影:森 清]

一瞬にしてマヒと言語障害が襲う

 T氏は65歳。関西在住。ある日、自宅で家族と一緒に朝の食卓に座っていた。この刹那、脳梗塞の一撃が彼の脳を襲った。一瞬にして右手の握力が100パーセント失われたようで、手にしていた箸はポロリと床に落ちた。

「お父さん、どうしたんですか!」

 突然の出来事に驚き、妻がそう聞いた。

「・・・」

 T氏は何か話そうとするのだが、すでに、言葉が口から出なかった。右半身マヒと言語障害。病名は、脳梗塞の一種である心原性脳塞栓症だ。

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 心原性脳塞栓症とは、心臓が原因となることから心原性と呼ばれる。特に心房細動という不整脈がある人は、心臓内部の血の流れに澱みを生じて血が固まりやすくなり、心臓から飛んだその血栓(血の塊)が脳の大事な血管を突然、塞栓させる。

 そのため血液の流れが悪化し、脳組織が壊死に陥る病気である。

 この病気の怖さを日本中に教えた2つの悲劇は、まだ記憶に新しい。2000年4月、総理在職中に小渕恵三氏が首相公邸で倒れ、翌5月、順天堂大学医学部付属順天堂医院で亡くなった。

 04年3月には、国民的英雄・長嶋茂雄氏がやはり脳梗塞をきたし、現在も後遺症(右半身マヒと言語障害)のためリハビリを続けている。両人とも病名は心原性脳塞栓症であった。

 こうした著名人の相次ぐ悲劇を耳にすると、多くの人は「脳梗塞になったらおしまいだ」と受け止めるかもしれない。だが、それは違う。

 今から2年前の朝、突然、脳梗塞で倒れたT氏のその後はどうなったか。