ドイツ
ルネッサンスの顔たち
権力者はいつかは衰えるが大作は今なお衰えない

ボーデ美術館の外壁に張られた『白テンを抱く貴婦人』のポスターと行列の人々

 8月24日以来、ベルリンのボーデ美術館ですごい展覧会が開かれている。ルネッサンスの巨匠たちの手による肖像画が、一堂に会しているのだ。名付けて「ルネッサンスの顔たち」。ルネッサンス期の花盛り1440年から1500年までの作品(肖像画のほか、彫像、メダルなど)が150点。フィレンツェのウフィッツィ、パリのルーヴル、ロンドンのナショナルギャラリー、ニューヨークのメトロポリタンなど、世界の美術館の大御所50ヵ所以上から総結集している。

 ボッティチェリあり、ベッリーニ、デューラー、リッピあり。あまりに価値の高い物が揃ったので、ドイツの美術愛好家たちは、先週以来かなり興奮気味。需要が多過ぎて、チケットのオンライン販売はパンクしてしまい、現在、美術館の前に並んで当日券を買うしか、入場する方法がない。

ボーデ美術館前の行列

 と、そんなわけで27日の朝、チケット販売の1時間前の9時から並んだ。普段は、どんなにおいしいラーメン屋といわれても、行列には参加しない主義だが、この日は別だ。そのおかげで、10時半には入場することができた。

 ルネッサンスは、14世紀にイタリアで始まった。それまでおよそ1000年の間は宗教色が強く、絵画の世界も宗教画一色で、芸術の大きな発展は見られなかった。そんな中、破壊され、忘れられていた古代ローマ・ギリシャの文化を復活させようというのが、ルネッサンス運動である。

 つまり、人間性の復活。マリアでもイエズスでも聖人でもなく、普通の人間に焦点が当てられる。普通の人間もこんなに美しいのですよ、というのが、ルネッサンスの主張だ。1000年の暗黒が終わり、世界に再びキラキラとした光が射し始めたのである。実際、ルネッサンスの絵画は、光と影の競演でもある。

 肖像画とは、しかし、不思議なものだ。薄暗い展覧会場で(作品の保護のため、照明が極力落としてある)それぞれの表情と向き合っていると、引きつけられるような気分になる。男は権力を見せつけるように、そして女は儚さと美しさを強調して、無表情にそこにいる。どれもこれも、富を持ち、権力の中枢にいた人物だ。いわば、お金に任せて描かせた絵。でも、皆、どこか悲しそうなのはなぜだろう。

 ルネッサンスといえども、15世紀はまだまだ暗い時代だった。たえず戦争があり、ペストが流行り、火あぶりや暗殺があった。庶民の女は地べたに這いつくばるように働き、産んだ子供の半分は死に、一方、権力者の娘として生まれた女も、ただ政治の道具として知らない男に嫁ぎ、やはり子供を産んでは死んでいった。じっと肖像画を見ていると、どんどん想像が膨らんでいく。絢爛豪華な衣装をまといながら、いったい彼らは何を考えて暮らしていたのだろう。500年あまりの年月がふと消えて、私はその絵の人物と共にいる。